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いじめられっ子の悪役転生記 ~『って、国ごと転覆!?冗談じゃないです!』~  作者: 弥生真由
第一章 穏やかな始まり

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Ep.375 『貴方に用は御座いません』


    『巫女の支えたる貴殿のお命、頂戴させて頂きましょう』



 強く握りしめた聖剣の柄が焼け付くような熱を放ち、目の前の存在を拒絶する。



 妖艶に笑いながら男の解いた髪が、夜に呑まれるように漆黒に変わった。

 かき上げられた前髪の合間から鋭く光るその双眸はーー銀色。


 闇に落ちた聖霊……魔族である者の証。 




「おや、もう少し何かご反応を頂けるものかと思っておりましたが……」


「ーー命とはまた…随分と物騒な話だな。

此度の騒ぎをかなり大っぴらにしている辺りも含め、魔族側は相当気が急いていると見える」 


「ふふ、手厳しい。その冷徹さは好感が持てますよ」




 お前等からの好感なんざいくら積まれてもいらねーよ!と内心悪態をつくが、目の前の男は本気で愉悦そうだ。

 心底、気味が悪い。




「おっと!貴方様よりお連れ様の方がやる気がお有りのようだ」


「ーーっ!」 



 一瞬振り返るも、既にフライは弓から手を放したあとで。


 空気をきり裂く様に鋭く放たれた矢が、魔族の男の顔面に迫る。

 しかし『それ』は指先2本で挟み取られ、音を立てて真っ二つにへし折られた。 




「ぐだぐだと先程から、御託ばかりで気に入らないね。

僕は今気が立っているんだ、これ以上無駄な時間を取らせないで欲しいね」


「これはこれはーー、とんだご無礼を。

では……始めましょうか!」




 途端、場の空気が格段に『質量』を持った気がした。

 


「ーー……」


 


 フライと視線を合わせた後、同時に左右へと飛び退く。


 同時に、床下から飛び出した無数の手が悔しげに先程まで居たそこに蠢いた。

 のしかかる圧に足を取られぬよう、縦横無尽に動き続けるしかない。


(とは言え、やり辛いな……)


 場所は室内。天井は普通の部屋よりは高めだが全力で跳べば激突は免れない。

 半端に広く、周りにあるのは支柱だけ。


 これならば遮へい物として使える家具類があった方がマシだ。




「おやおやどうされました?

日頃よりお身体が重たそうですが……」


「はっ!見て分からないのか?」


「長く生き過ぎて耄碌(もうろく)してるんじゃない? みっともないったらありゃしない」




 聖剣の切っ先と放たれた矢じりがピタリと同じタイミングで男を捉えたーーかに思えたが、やはり煙に巻くように揺らいだかと思えばまたズレた位置に現れる。

 あ゛ーーっ腹立つな……!



 敵は1人。こちらは2人。

 姿は見えて声も聞こえる。なのに、攻撃だけが当たらない。

 しかも黒の手は何の予動作も無くあちらこちらから現れるから常に掴まれぬように注意が必要。



 加えて足枷なのは今の俺達のこの身体だ。


 魔法薬で無理矢理成人にまで引き伸ばした肉体。

 本来ならば10代後半の子どもの体躯と成人男性の身体つきなら後者が優位だろうが、俺達の場合はそうはいかない。


(体の成長による身体的な優位はあくまでも伸びた背丈や四肢の扱い方を応じて学びながら成長するから良いのであって、こんな限定的に着け焼き刃でデカくした身体なんざ却って動きづらいんだよクソっ……!)   




「ライト邪魔!どいて!」



 鋭い声音が耳を刺し、斬撃の反動で一気に飛び退いた。




「ーーッ!悪い!」




 俺が男から確実に距離を取ったところでフライが魔力で大量に浮かせた矢を連射し、雨のように男に振り注がせる。


 聖霊魔法で創られた矢。

 しかも男は魔族の身だ、当たればタダでは済まないだろう。


 そう、"当たりさえすれば"。



 砕けた矢の残滓である光の粒が煙のようになり結果的に目眩ましになったのだろう。

 再び猛攻を回避した男がフライの真後ろへと現れる。



「逃げてばかりいないで俺に攻撃の一つも当ててみたらどうだ!

避けるだけじゃ暗殺なんざ夢のまた夢だぞ!」



「ふふふ、聖剣の主その焦り……あの日を思い出しますよ。

実に愉快ですねぇ」



「そうかい、僕は非常に不愉快だけどね!」



 男の気を逸らす為に叫んだが、当のフライは直ぐ様怒りに瞳を燃やし弓から剣へと手を移す。

 ーー疾風の如く振り抜いた。



 そして、男の燕尾服が派手に切り裂かれる。



 しかし。



「なっ……!」


「フライ!ーーッ!」




 散った布地は闇へと変わり、手となりフライの身体を縛り上げた。

 弾かれた剣が転がり、無機質な空間に虚しく音を立てて転がる。



 同時に一瞬おとなしくなっていた追っ手の方も暴れだし、俺は一箇所に留まれない状況を余儀なくされる。




「明らかに遠ざけようとしてやがんな、小狡いやり方を……!」


「焦らないでくださいませ、メインディッシュは最後ですよ」




 愉悦に浸る男の真ん前で、縛り上げられたフライが顔をしかめる。

 肩から足首までギチギチだ、弓にはかろうじて手が触れているようだが刃物もない状況では拘束を切れまい。


 あいつの風魔法には必ず腕、指などの身体を"振る"動作が必要なことも理解してのあのやり方を選んだのだとしたら、本気で厄介だぞあの男。


 俺の動きの癖も読まれているようで思う様に救出の機を掴めないのをもどかしく焦る中、フライが苦しげながら声を上げる。




「卑怯……っだね、実は腕に自信が、ないーーのかな……?」


「えぇ、まあ。本来は荒事担当ではないもので……」




 そこで言葉を切った男は、口角を上げフライの耳元に口を当てる。




『ただの"おまけ"に割いて差し上げられる時間の余裕はないのですよ』

 



 フライの薄氷の様な瞳が、ひどく大きく波打った。



「『おまけ』……だって?」


「えぇ」



 よく聞き取れないが、僅かに震えたフライの声に対して男が笑ったのを確かに見た。




(何言われたんだよ、あれガチ切れ寸前の声だぞ……!?)  




「此度の作戦は言うなれば、巫女の心を折るための布石」


 

 『ですから……』



 男の銀色の双眸がこちらに向き、とても綺麗な弧を描いた。

 背中にゾクリと冷気が走るが、男は再びフライを見やる。






    〜Ep.375 『貴方に用は御座いません』〜





  『大人しくしてて下さいね。

  邪魔さえしなければ貴方には手をだしませんので』



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