Ep.373 聖なる獣は沈黙す
戦闘への対処力がダントツかつ、通路を照らすための灯り担当のライトを先頭に、2番手がフライ、私とブランが真ん中。殿をクォーツにして一列に並んで迷路のような通路を進む。
足音だけが空虚に響く沈黙と水中ならではのくぐもった感じがちょっと怖いのか、ブランが時折ぎゅっとしがみつく素振りを見せた。
軽く頭を撫でてあげると、ほぅっと小さく息をついた。
「ブラン、体調は大丈夫?」
「うっ、うん。苦しかったりとかはないよ」
「魔力ゼロなんて普通に一般人でもありえない事態だからね。
少しでも異変があったら、フローラにだけじゃなくて僕らにもすぐに言わないと駄目だよ?」
「下手に我慢されて動きに支障が出るほど悪化してから言われた方が迷惑だからね」
「おい、キツイ言い方するなよ。
現状に一番困惑してるのはブランだろうが。
いってぇ!」
『お前だってなんだかんだ心配してる癖に』とぼやいたライトの膝裏を後ろからフライが蹴り飛ばす。
地味に痛そうだから止めてあげて……!
「お・ま・え・な〜………!次にそういう事したら先頭変わらせるからな。
それか灯りは消す」
「は!?」
ドスの聞いたその言葉に顔を上げたフライの瞳が揺れている。
わかるぞ、あれは『こんな如何にも"何か"が出そうな道の先頭なんて冗談じゃない!』の顔だ……!
何か言いたげにマントを引っ張るフライから、ライトはもう知らんと拗ねたようにそっぽを向いた。
身体は大人になってても、このやり取りの変わらなさよ……。っていうか、大人化の効果ってあとどれくらい残ってるのかな?確か24時間って言ってたけど。
「ところでさ、ちょっと良いか」
「何〜?なんか気になることでもあった?」
最後尾のクォーツからの返答には足を留めず、歩き続けながらライトが横目でブランを見やる。
「もしかして、ブランの人間化について何か手がかりになりそうなこと!?」
「いや……ごめん、手がかりって言うより完全にただの疑問ってか考察なんだが」
そう前置きをして、考え込むように片手を顎に添える。
「俺さ、聖霊の森に行ったあとからずっと考えてたんだよ」
『そもそも"使い魔"って、何者なんだ?』
その問い掛けに、シンッ……と時を切り取ったような沈黙が落ちた。
「何……って、聖霊の1種でしょ?使い魔授業でも歴史でもそう習ったじゃん」
「全くだね。
まさか僕等だけが同学年で使い魔を呼べなかったからって、存在から否定する気かい?」
「違うわ!ってか使い魔出なかったのはお前等も同じだろ!!」
そうじゃなくて、と疲れた様子を見せる姿に同情してしまう。
本気で今でも不思議でならないんだけど、学院で行われた使い魔召喚授業で、ライトと、フライと、クォーツだけが。
召喚陣がうんともすんとも言わなくて、三回補講までしたのに結局契約出来なかったんだよね。
本当に、何が原因なんだろ?
「授業の話は置いとくとして!
……聖霊王夫妻。森にいた下級聖霊にーーリヴァーレ国の神域を護っていた"大聖霊"。
俺たちがこれまでに出会ってきた"聖霊"は、皆"人間"に近しい姿形だっただろ」
なるほど、確かに言われてみれば。
頭身や身体の大きさの差異はあれど、思い返してみれば確かに人型の聖霊ばかりだ。
私がこれまで出逢った中でイレギュラーなのは、使い魔であるブランとーー夢境の泉の一角獣だけ。
「そもそも概念から本来の聖霊からは違うんじゃないか、ってのは聖霊王から歴史の真実を聞いたあたりから思ってた事なんだ」
正しい歴史。
人間は聖霊を自由に呼び出せて、願いを叶えてもらう代わりに愛と信仰を捧げて。信仰が強まれば聖霊達はより力を増し、またお互いを豊かにしていく。
私はあの時代を見せてもらってね、正直……思ってたよ。
平和に回っていた、多分ーー正しかった頃の世界の話が、めでたしめでたしのまま、終わってほしかったなって。
だけど現実は、そうじゃない。
「あの時代、聖霊の森と人間界の往来は自由だった。
少なくとも、聖霊側は自由意志でこっちに来れてたんだろ。
フローラが前世で見てたこっちの世界の情報としてはどうだったんだ?」
「あっ、うん。その考察であってると思う。
出入りが難しくなったのは、原初の魔族が産まれて封印された後だから」
『だよな』と短く切り上げたライトに、フライが同意を示した。
「成る程ね、君の言わんとしていることがわかってきたよ」
「僕も。……確かに使い魔って、必ず動物とか幻獣型しか見かけないよね。
人の姿をした使い魔を連れた人間なんて見たこともない」
「つまり、"種族"としての根底から違うんじゃないか……って、ライトは言いたいの?」
「ーー……あぁ。ブランには悪いが、そうなるな」
再び静まり返った空気に、ブランがまたぎゅっと私の腕にしがみつく。不安だよね、ごめんね。
「じゃあ仮に…仮にだよ?"使い魔"が普通の聖霊と違ったとして今回の誘拐で狙われてるのはどうしてなのかな」
そもそも使い魔召喚とは、人間側が一人につき一匹を魂の相棒として人間界へと呼び寄せる事ができる儀式だ。
恐らくだけど、対になる人間と使い魔も魂の形で初めから定められているんじゃないかと思う。聖霊王様達の言いぶりから見ての予想だけどね。
「ここからは本当に憶測の域を出ないけどさ。
"使い魔"自体に通常の聖霊達とは違う特殊な役割があるんじゃないか?
ーー……狙われたのも、その特異性を知っている者たちによる悪意のような気がしてならないんだよ」
「……あながち、間違いじゃないとは思うよ」
ハッと皆が息を飲んだ。
この話題の中で初めて、渦中のブランが言葉を返したからだ。
「ボク達の本当の種族名は"聖獣"。
ーー聖霊とは、似て異なる者」
『王の命題に導かれ、たった一人を護る者』
私とブランがこちらの世界で再会を果たしたのは、私が6歳になった時だった。
大聖霊であるハイネの一番上のお姉様、アリーザさんが講師のフリをして私にブランと契約する為の魔法陣を与えに来ていたと言う話を知ったのこそつい先日の事だけれど。
思えば、なぜそうまでして私達の再会を"世界"がお膳立てしてくれた理由をーーまだ、何も知らない。
〜Ep.373 聖なる獣は沈黙す〜
『バッドエンドのその先を、見守らされた獣達』




