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Ep.366 謎多き暗躍組織・魔導省

 四大国が円形に隣り合うドーナツ状の大陸、フェアリーテイル。学院がある離島も、これまで尋ねた島々もほとんどがその円の内側だった。

 外側の海域に来るのは、以前訪ねたリヴァーレ島に続き、これが二回目だ。


 まるで前世の日本の高層ビルのように天高くそびえた魔導省の本拠地を見上げ、そんなことを思った。


 行き交う人々のローブ、余すところなく石畳に覆われた大地、建物の壁や扉……全てが深い黒一色に統一された場所で、色鮮やかな学院の制服を纏う私達は酷く浮いている。ちょっと所在のない気持ちの中、目の前の扉が音もなく開いた。


「お待ちしておりました。四大国の代表の皇子殿下、並びに聖霊の巫女様ですね。長がお待ちです、ご案内致します」


「……全員、俺から離れるなよ」


 ライトのその声に頷き、案内役に導かれ中へと踏みいる。くぐったばかりの扉は、背後でひとりでに閉まっていった。












 時は少し遡り、先日のフェニックス城でのフライ濡れ衣事件の後の話だ。

 一度それぞれの国に帰った私達は、各々の両親。つまり、四大国の国王夫妻にフェザー皇子の失踪の件と、フライに向けられた疑惑の否定を報告。下手に戦の火種とならないよう、スプリング王家は他の三か国の事件への関与疑惑の否定、並びにフェザー皇子の篝火山入山を認めた事への責任は追及しないことを書き記した宣誓書を発足した。


 同時に、四つの国が協力しフェザー皇子の捜索が始まったが、何分今回の現場は円の外側の海域。実は、内側とは真逆に荒れが酷く天候も読みづらい、危険度が高い海であること。更に、外側の海域に出ることが出来る船はごく僅かしかなく希少な為、使用許可がすぐには下りない点から、一度私達はどんな環境にも影響されぬ程の安定した飛行力の持ち主である、使い魔達に捜索の協力を仰ぐことを試みた。


 でも、その案はすぐに挫折した。なにせ世間では今、有力な貴族や国務めの魔導師達の使い魔が相次いで失踪しており、そもそも無事な使い魔の方が僅かであったから。そこでそもそもの事の発端がテル先生の失踪と、彼の家に届いていた篝火山の地図であった事を思い返し、フライが今回のフェザー皇子失踪と使い魔誘拐事件には繋がりがあるのでは無いかと推察。私達もそれに同意し、事件に関して調査に踏み出しているというここへとやって来たと言うわけだ。


「魔導省は国家を跨いだ規模の大きな犯罪、もしくは国籍を持たない罪人等の責をひとつの国では負いきれない事件の調査、並びに裁きの権限を認められた特殊な組織でな。その役割と権限の影響力の強さから組織の存在自体、あまり公にされていない。ハイネの体験した未来で“フローラ”を捕えた者達が居たとしたら、彼等しかあり得ないと俺は思うんだが……」


 行き掛けの船でそう述べて、何とも言えない表情で唇を引き結んだのはライトだ。本音は、『危ないからお前は来るな』、そう言いたかったのかも知れない。

 でもそうは行かなかった。今回、魔導省が私達の来訪を許可するに当たり提示してきた条件の中に、“聖霊の巫女の同席”があったからだ。


(まぁそうでなくても、私だけ安全地帯でお留守番。なんて意地でも拒否したけどね)


 フェザー・スプリング第一皇子失踪。

 使い魔連続誘拐事件。


 どちらもゲームであった出来事。そして、これまでの私達の人生と聖霊達から聞いたこの世界の理から推察するに、ゲームの運命(シナリオ)の裏で糸を引いていたのは恐らく、魔族だ。


 両腕で抱えたブランをぎゅっと抱き締める。誰も何も言わない嫌な沈黙の中、最上階の突き当たりの部屋の前で案内役のローブの人がようやくこちらに振り向いた。


「お待たせ致しました、こちらです。中で長がお待ちですので、どうぞお入り下さい」


 顔も髪も体躯もローブに覆われ、声も中性的なせいで、恭しく頭を下げるその人の性別はわからない。が、恐らく男性だろう。ここに来る前にライトとフライが言っていた。魔導省は男性史上主義で、女性に対し差別的な面がある組織だと。

 だから元々今回は、ライト、フライ、クォーツと、唯一女性ながら立場上流石にぞんざいには扱われないであろう私が訪問の面子に選ばれたのだから。

 ルビー、レイン、それにエドとエミリーちゃん、キール君にミリアちゃんは、それぞれの伝を使い情報を集めてくれている。



(これ以上仲間に被害が出る前に、どうにかしてひとつでも足掛かりを掴まないと……!)


 未だ元気がなく項垂れたままのフライを見て、内心で決意を改める。

 

 促されるまま入った先で、豪奢な机の前で革張りの椅子に掛けた、長髪の男性が立ち上がった。彼がこの組織の長だろうか。随分若く見えるけれど……。


「皆様、ようこそおいでくださいました。私は魔導省の長を務めております、ジェラルドと申します」


 丁重に頭を下げたその人のメガネの奥の双眸が、ライトを捉えて怪しく歪んだ。


「遠いところにご足労頂き申し訳ございません。いやぁ、それにしてもお久しぶりですねぇライト殿下。貴方の実の母君が亡くなられたあの惨殺事件以来でしょうか?」


 ぎょっと皆が目を見張るなか、私達を庇うように片腕を広げ一歩前へと踏み出したライトが全く動じず淡々と本題に入る。


「そう言う御託は結構だ。今回の訪問許可は感謝する。こちらの提示できる情報は既に報告済みのはずだ。早く魔導省が掴んでいる内容を聞かせて貰いたいものだな」


 挑発か、揺さぶりか。なんにせよライトがリアクションをしなかったことに拍子抜けした様に肩を竦めたジェラルドさんが、そうですねとメガネを押し上げる。


「やれやれ、すっかり可愛げがなくなってしまったようで残念ですが、まぁおっしゃる通りですね。フェザー殿の安否、並びに事件の仔細については未だ不明ですが、使い魔の方はある仮説が立っている所です」


「本当ですか!?」


「えぇ、もちろんですとも。聖霊の巫女様」


 ニヤッと、ジェラルドさんの笑みが深まった気がした。嫌な予感にさっと下がった私達の足元に、巨大な魔方陣が浮き上がる。


「ですがその仮説の立証には我々では力不足でしてねぇ。ぜひ()()()()()()()()()皆様をご招待した次第です」


 ジェラルドさんが指を鳴らしたのを合図に部屋中が閃光に満たされ、魔方陣から飛び出した幾重もの黒い手が私達の手足を拘束した。



    ~Ep.366 謎多き暗躍組織・魔導省~



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