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Ep.32 運動会・開幕



『そう言えば、二人三脚も何かあるのかしら……?』




フライ皇子のファンの女の子達に睨まれつつも、なんやかんやと練習はそれなりに平和に進んでいる。


「はぁ、疲れたぁ……。」


「フライは足が速いから、ペア組むのも大変だよね。大丈夫?」


『お疲れさま』と、クォーツ皇子が冷たいレモネードが入った瓶を差し出してくれる。


「クォーツ様、ありがとうございます。」


「どういたしまして。お隣に失礼しても宜しいですか?お姫様。」


「ふふっ、もちろんですわ。」


二人でベンチに腰掛け、レモネードを飲む。レモンの酸味が疲れた身体に効くなぁ、味も美味しいし。



休憩用に立てられた簡易テント(と言ってもかなり立派なんだけど)の下でベンチに腰掛け、二人で練習風景を眺めながら飲み物を飲む。あぁ、クォーツ皇子との時間は平和だ……。ルックス的にはライト皇子やフライ皇子に劣ってないのに、クォーツ皇子にはそこまで過激なファンが居ない。何でだろ、この穏やかな人柄のせいかしら?


「ん?フローラ、どうしたの?」


「いいえ、何でもございませんわ。」



自分に向けられた私の視線に気付いたのか、クォーツ皇子が不意にこちらを向いた。『何でもない』とは返したけどせっかく視線が合ったわけだし、何か話そうかな。ええと、何か話題は……あぁ、そうだ。



「クォーツ様は障害物競争に参加されるそうですわね、先日からライト様とご一緒に練習されているとか。」


まぁ、正確には練習“させられている”のが正しいんだろうけど、流石に言えない。


そんな私の言葉を聞いたクォーツ皇子は、ちょっと怪訝そうに首を傾げた。


「……?どうかなさいまして?」



何だろう、私、変なことは言ってないよね?




「フローラ、夏休みの間にライトと仲良くなったんじゃないの?友達になったとか、呼び捨ても許可したとか言ってたけど。」


「あぁ、そのことですか……。」



結局休み明けてから直接話すことも無かったし、すっかり忘れてた。まぁ、あれはあの場で私を自分の手駒にする為にしたその場かぎりの口約束みたいなものだし、多分もう無効だよね。


そんな風に思い、それをそのままクォーツ皇子に伝えたら、『フローラの中のライトはそんなイメージ?』と苦笑された。えぇ、そのイメージしかございませんが。いや、根が悪い子じゃ無いのは知ってるけどね。



「ライトは確かに強情だし、頑固だし、ワガママだし、意地っ張りだし正直口もかなり悪い。その点じゃ、王子らしくはないかも知れないけど……。」


「な、何もそこまで仰らなくても……。」


あぁ、笑顔で付き合ってあげてても、クォーツ皇子だって鬱憤(うっぷん)溜まってたんだなぁ。そうだよね、練習中に背中に火の玉当たってどこぞの昔話のタヌキさんみたくなってたもんね。そう言えば火傷大丈夫?


「でも、人柄自体は誠実で真面目だよ。一旦ライトが“友達”だと決めたなら、ちゃんとそう接してくれると思うな。」


「そうなんですか。」


幼なじみの彼が言うなら、きっとそうなのだろう。じゃあ、今度人目のない所で話すときは普通に接してみようかな。実際、あの海水浴の日の最後の方は私も完全に素で接してたし。


「あぁ、それともう一つ。」


「はい、なんでしょう?」


「僕も君の友達だからね。」


「――……?はい、もちろん存じておりますが。」



今更何を言う、友達じゃないならこれまでの四年間は何だったんだ。と思っていたら、クォーツ皇子がなんだか呆れたような顔をした。何が言いたいのよ。


「……はぁ、だから、僕にももっと気楽に接してくれて良いよってこと。ほら、それこそ名前の呼び方とかさ。」


「え!?い、いえ、でもそれは……。ルビー様が嫌がるのでは?」


「そのルビーにも、この間『お兄様とフローラお姉様の間にはちょっと壁がありますわね』って言われたんだけど?」



何ですと!!?


クォーツ皇子は驚く私を他所に『ルビーはすっかりフローラになついたみたいだねー』なんてニコニコしている。そうか、シスコンであるクォーツ皇子がそう認めるくらいだし、やっぱりルビーは私をちゃんと慕ってくれてるんだな。嬉しいけど、ちょっと気恥ずかしい。



「そんな訳だから、僕らも普通に仲良くしようよ。とりあえず名前から、ほら!」


「えっ……。」


その『ほら!』は、今この場で呼び捨てに呼んでみろと言う事ですか!?


いや、いくら周りに人が居ないからってそれはちょっと……。元々、私は普段そんなにガンガン人との距離を詰められる方じゃないし。ましてや、そんなしっかり前振りをされると却って身構えちゃって尚更呼びにくいし!


でもなぁ……



「――……。」


クォーツ皇子は、屈託ない笑顔と期待を込めた瞳で私を見ている。仕方ないか……。


「わ、わかりました。」


「あれ、『わかった』じゃないの?」


「――……。」



この子、さては既に私の素を知ってるな……?まぁ良いけどさ。


「わかったわ。改めてよろしくね、ク……」


「――……。」


「クォーツ……。」


私が言い終えると、『よし、合格!』とクォーツが私の頭を撫でた。スポーツする為にせっかくまとめた髪が乱れるかと思ったけど、クォーツの撫で方は上手いのか髪型が乱される事はなかった。ルビーの頭で撫で慣れてるのか!!?




「よしよし、やっぱこの方が仲良しっぽいよね!」


「……ふふっ、そうね。」



内心かなり恥ずかしいし、頬もちょっと熱い気がするけど、クォーツが純粋に喜んでくれるからまぁ良いかと思えた。


「じゃあ、僕はそろそろ戻らなきゃ。明日が本番だから、ライトが張り切っちゃって大変なんだ。」


「そう……、大変ね。」


聞くまでもなく想像つくけどね。『じゃあねー』と手を振り去っていくクォーツを見送って、私も時計を見た。


もうすぐ二人三脚の方も練習再開の時間だ、私も行かなきゃ。


まぁ何にせよ、明日が本番!やるからにはちゃんと頑張りますか!











―――――――――


そして翌朝、運動会日和の快晴のなか、開会式が行われた。選手宣誓は、フェザー皇子じゃなく中等科の先輩だった。そりゃそうか、合同なんだもんね。


ちなみに、魔力のある世界な上お金持ち学校なので、開会の合図も空砲等ではなく……。


「朝から花火か、派手だなぁ……。」


魔力でわざわざ一時的に暗くした空に、数発の魔力花火が打ち上げられていた。凄すぎてどう突っ込んだらいいかわからないので、『普通の花火より綺麗でした』とだけ言っておこう。




さて、開会式、午前の簡単な競技……と言っても、魔力を使うものばかりだけど。の玉入れ、大玉転がし、借り物競争が終わり、あっという間にランチタイム。もちろん、生徒は全員寮生なので学園側からお弁当が出た。


チキンソテーにふわふわオムレツ、タコとキャベツのマリネに、暑い日なのでスープは冷たいヴィシソワーズで、主食は様々なパンのサンドイッチ。私はベーグルサンドを選んだけど、男子にはガッツリいけるフランスパンのサンドイッチが人気みたいだ。うんうん、育ち盛りにはしっかり食べないとね。




私はレインと指定席でランチを頂きながら、午前の競技結果について話した。組分けは普通に色で、赤組、白組、黄色組だ。白組が青組か緑組だったら、あの王子三人組の目の色と同じだったのにね。



「そう言えば、借り物競争は本当に“物”しかお題が無かったね。」



前世での借り物競争のイメージだと、“好きな人”なんてお題が出たりするなかなか色物的な競技だった気がするんだけど。



「この学園の運動会の競技は、毎年そんなに内容変わらないんだって。借り物競争は毎年本当に“物”のお題しか出ないみたいだよ?高等科の方はわからないけどね。」


「そうなんだ……。」


「あっ、そう言えば先輩から聞いたんだけど、フローラが出る二人三脚もね……」



《まもなく、午後の競技が始まります。応援演劇に出演する生徒は、更衣室に集合してください。》


「あー、もう時間だね。戻らなきゃ。」


「そうね、ごちそうさまでした。」



話の途中で放送が入ってしまったので、残っていたスープを飲み干してお弁当を片す。


にしても、応援“合戦”じゃなくて応援“演劇”ってすごいよね。中等科がやるらしいけど、何をやるんだろう……。



~Ep.32 運動会・開幕~



『そう言えば、二人三脚も何かあるのかしら……?』



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