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Ep.333 十六夜の訪問者

 もうなにも考えずに、開け放たれた窓からテラスへと飛び出した。


「ライト、なんで?ここ三階……!ーーっ!!」


 何から聞いたらいいかわからない。そんな私の戸惑いを見透かしたように笑うライトに、突然抱き締められた。

 同時にチャリっと小さな金属音がして、首筋に当たる冷たい感触。そう、まるでアクセサリーの金具みたいな……。


「どう来たかなんてどうだって良いだろ。フローラ、誕生日おめでとう」


「……っ!ありがとう……!!」


 囁くような優しい声でライトがそう言った直後、部屋の柱時計が日付が切り替わった証である鐘を鳴らす。首にかけられたそれがネックレスであると指先でなぞって確かめて緩んだ私の頬を片手で撫でながら、小さくだけど鳴り響く鐘にライトが苦笑する。


「ごめんな、こんなギリギリになって」


「ううん!顔を見てお祝いして貰えただけで嬉しいよ!このネックレスも……、ーっ!」


 誕生日プレゼントであろうネックレスが、窓ガラスに写る。トップになっている丸っこくてツヤツヤした淡いピンクの貝殻を見て、目を見開いた。


「サクラ貝だ……!え、どうしたの!?これ……!」


「キャロル嬢に上手いこと言って海行って、別行動の隙に浜辺で探した。島に来てからずっと探してたんだけど全然無くてさ……、珍しいんだな、サクラ貝って」


 『今朝ようやく見つけたときはほっとしたぜ』なんて笑うその顔を見て、今朝のキャロルちゃんが言っていた台詞の真相がわかった。あれは、単にライトが海に貝を探しに行きたかったのだと。


(島に来た二日目に、寝ぼけながらちょっと話しただけだったのに。しかも前世の方の記憶の話だった些細なことを覚えて、探してくれてたんだ……)


 白いネグリジェに栄えるサクラ貝のネックレスをそっと両手で握りしめる。どうしよう、嬉しすぎて頬が引き締まらない。

 ゆるみきった顔のまま、久しぶりに間近で見るライトの顔を見上げる。


「ありがとう、宝物にするね……!」


「……っ!あ、あぁ」


「あっ……」


 頬を優しく撫でてくれてたライトの手が、一瞬ピクリと強ばってからゆっくり離れていく。同時に抱き締めるように背中に回っていた手も解かれて、急に失われた温もりについ未練がましい声が出そうになった。咄嗟に口を片手で押さえながら俯いたその時、図ったようなタイミングで廊下から私の部屋の扉を叩く音が響く。


「姫様、何やら物音が致しましたが何かございましたか?」


「……っ!」


 この声はアリアだ。ライトも不味いと判断したのか、薄手のマントを羽織い直しながらテラスの柵に足をかける。


「……っ、流石に見られたら言い逃れ出来ない状況だな。プレゼントも渡せたし、俺行くよ。おやすみ、フローラ」


「う、うん、おやすみなさい……」


 何かやましいことをしてる訳ではないにせよ、年頃の男女が深夜に部屋で2人きり……なんて、いくら相手が婚約者でもあまり誉められたことじゃない。それくらい私もちゃんと理解してるから、アリアが入ってきてしまう前に去ろうとするライトを引き留めない……つもりだったのに。


「……っ!」


 今にもテラスから身を翻そうとしていたライトが目を見開く。私が彼のマントを無意識に両手で握りしめてたせいだ。

 一気に顔が熱くなって慌てて手を離す。そのまま両手で頬を隠して、呆けているライトに背中を向けた。


「ごっ、ごめんなさい!久しぶりに会えたのにこんなちょっとじゃ寂しいとか、そんな子供みたいなこと思ってないから……!」


「ーー……」


 必死に言い訳するけどライトはなにも言わないし、かといってこんな真っ赤な顔見せられないから表情も確かめられない。もう『おやすみ』って部屋の中に逃げ込んじゃうべきかな。でも、わざわざこんな夜中にわざわざ誕生日プレゼント渡しに来てくれたのにそんな失礼な事したくないし……っ!


「顔見てプレゼント渡せれば満足出来ると思ってたのに、どうしてこう言う可愛いことするかな……」


「え……?」


 うだうだ悩んでいる私の後ろで、ライトが聞き取れないくらいの声で小さく呟く。反射的に聞き返そうと振り返った瞬間、ふわりと爪先がテラスから離れた。ライトに抱き上げられたのだ。


「え!?ら、ライト……っ」


「……悪い、我慢出来なくなった。まだ離れたくない。……いや」


 『離したくない』と、そう耳元で囁かれた声に、全身が甘く痺れて力が抜ける。眩しいくらいの満月の下、ライトがテラスの柵に立つ。脱力した私を抱き上げたまま。


「ちょっと~……、窓くらい閉めてくれないかな」


「ーっ!ブラン……!」


「ははっ、悪い。……本当に悪いと思ってるけど、朝までにはちゃんと返すから」


 寝ぼけ眼で文句を言うブラン。笑いながらそう返したライトを見上げてから、ブランが私はを見てため息をついた。


「仕方ないなぁ、気を付けてね」


「姫様?失礼ですが開けさせて頂きますね」


 ブランのあきれたような返事と、アリアが鍵を開けながら言う声が重なった瞬間、私を抱き抱えたライトの足がテラスから離れる。


「こんなにいい十六夜なんだ、夜の浜辺も悪くないだろ?」


 そう言って子供みたいに笑った王子様に浚われてお姫様抱っこのまま駆け抜ける浜辺は、今までで一番綺麗に見える気がした。


    ~Ep.333 十六夜の訪問者~


   『身体も心も何度でも、貴方に拐われてしまうのです』







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