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Ep.330 金色の髪

 翌朝、私はエドが持ってきてくれた例の手紙に記されていた待ち合わせ場所にやって来た。朝焼けに光る海が綺麗なのてサンダルのまま水面でパシャパシャと足を遊ばせていると、背後に誰かが立った気配がした。私が居る位置が日陰になったせいか、足首を浸している海水が少し冷たくなったような気がする。

 そんな中、涼しげで凛とした声が響いた。


「このような早朝にお呼び立てして申し訳ございません」


「いいえ、滅相もございません……わ……」


「どうかなさいましたか?」


 ご挨拶の為に振り向いた私が固まったのを見て、女性が不思議そうに小首を傾げた。その仕草にさらりと流れた髪はとき色……、朝日を思わせる淡いピンク色だ。キャロルちゃんと同じ色なのに、ずいぶんと印象が違う。でも、お姉さんも……いや、寧ろ、お姉さんの方が美人さんだ。なんだか緊張してしまう。


「い、いえ!なんでもありません!はじめまして、私……っ」


「お名前は存じております、フローラ様。私はサンセットと申します。この度は、愚妹がお連れ様にご迷惑をお掛けしてしまって誠に申し訳ございません」


「かっ、顔をあげてください!お姉さんが悪い訳じゃないんですから!」


 荒波で削られた荒い岩肌に躊躇わず膝をついて土下座したお姉さん……改め、サンセットさんに驚いて私もその正面に屈む。


「……いいえ、本来は私の頭ひとつ下げれば済むような軽い話ではないでしょう、何せ王家の方のご婚約者様に横恋慕を計っているのですから。ご寛大なお心に感謝致します、フローラ・ミストラル皇女殿下・・・・


「えっ……!」


 驚いて、サンセットさんの瑠璃色の瞳を正面から見つめ返す。凪いだ瞳だった、迷いのない眼差し、この人は、私達の正体を知っている。サンセットさんのずいぶんと肌あれした細い手を握りしめて、立ち上がった。

 

「人に聞かれると困ります、場所を移しましょうか」


「えぇ、用意は出来ております、こちらへ」


 私の言葉を予想していたかのように、サンセットさんが立ち上がる。案内された先は、島に来た二日目の日、ライトと一緒に隠れたあの洞窟の前だった。


「ここは……」


「島の裏側の森の祠と対になる、海の神域です。元はこの島に住まれていた長の方が管理していた場所なのですが……ここならば、島の者達は近づいては来ません」


 言葉を濁すサンセットさん。そりゃあ言いづらいだろうと思う。ライトとフライが調べてくれた通りならば、キャロルちゃんとサンセットさんのお父様がその長さんを元のお宅から追い出して、島での権限や所有していた土地なんかも総て取り上げてしまったそうだから。


 やはり放置しては駄目な案件だ。でも、その前に問題なのは、と、辺りに人が居ないのを確認してから気になっていた点を聞いてみた。


「それにしてもサンセットさん、貴方はなぜわたくしがミストラルの皇女だと?身分を悟らせる物は何一つ持っては来ていない筈なのですが」


「その天使のようなお髪の色です」


「え?髪……ですか?」


 風に靡く自分の髪を見てみる。お母様から受け継いだ、白に近い金色のそれを指先に巻き付けて首を傾げる。


金色こんじきの髪は本来、四大国の中でも非常に稀有なお色。私は幼少より、商団の皆と共に各国を回っていて、その際ある歴史学者の方から伺ったのですが……、金髪は現在、フェニックスとミストラル、その2ヶ国の王家にしか受け継がれていないお色だそうです。それに私、幼い頃に城下でライト様と対峙されている貴方様のお姿をお見かけしたのですよ」


「ーっ!」


 驚いて目を見開く私に『ご存知無かったのですか?』と今度はサンセットさんが首を傾げる。正直ご存知無かったのですよ。でも、言われてみれば確かに、あれだけ王族、貴族があつまる学院内ですら、いかにも貴族らしいはずの金髪を私と弟のクリス、それからライト以外では見たことが無いことに今さら、気づいた。


(もとのゲームの知識で私を含め、皆の容姿が頭の中に初めから刷り込まれていたから気にしたことなかったけど……)


 そう言えば、全体的に見てミストラルの国民の髪は青や紫の寒色系、フェニックスの国民なら赤色や橙色の暖色系、アースランドならば大地を思わせる茶系統、スプリングならば爽やかな木々に似た緑系色と、大体の色は濃淡の差はあれどベースカラーは一緒なのだ。確かにそう考えると、私やライトのこの髪色……何か理由があるような気がする。

 それと同時に、ふと思った。


「じゃあキャロルちゃんが“金髪”の王子様に拘るのは、彼女もライトの正体を知ってるから!?」


 その私の問いには、サンセットさんが首を横に振る。そのまま彼女は、一冊の古びた本をこちらへ差し出した。

 これは?と首を傾げたけど、受け取ってくれと言わんばかりに本を持った手が迫ってくるので素直に受けとる。


 深い緑色の地に金色の蔦模様で縁取られたそれを開くと、そこには綺麗だけど変わった絵柄で王子様のような服装の男性が剣を空に掲げている姿が描かれていた。その左右にも誰かが描かれていたのだろうけど、紙が古くなりすぎちゃったのか女性のワンピースの裾っぽい部分と、男の人の手が空に向かって弓矢のような物を掲げた部分だけがかろうじて見えるだけで、どんな人物画が描かれていたのかまではわからなくなっている。

 にしてもこの絵柄、なんだか見覚えが……と首を傾げて、思い出した。そうだ、クォーツと一緒に助けたお婆さんがくれた絵本!あれに描かれていた四人の妖精さんらしき絵と、同じようなタッチだ。普通の絵とちょっと違う、不思議で優しい色合いに引き込まれそうになる。

 同時に、途切れ途切れだけど書き込まれている文字にも気づいた。聖霊王の騎士……ブライト様の日記にあったのと同じ、古代文字だ。

 ライトがエドとアーサーお爺さんに習い、そのライトが私に教えてくれた読み方の知識をフル稼働して、辛うじて読み取れたのは。


「闇を切り裂く閃光の剣を持つ者、……の姫と共に…………を、手に入れる……。ほとんど読めませんね」


「えぇ。これは森の女神の伝承が記録された書なんです。父が島の長から取り上げたものですが、幼い頃にこれを目にしたキャロルは何をどう理解したのか……」


「“金髪の王子様”に、異常な憧れを抱いてしまった……と言うことですね」


 私の言葉に、サンセットさんが頷く。


(何よ、やっぱりあの子、ライトの中身なんか見てなかったんじゃない……!ライト、大丈夫かな。エドがくれた写真で見ても、ちょっと顔色悪かったし……)


「あの、ライトはどうしてますか?」


「キャロルが隙有らば寝台や浴室にまで特攻を仕掛けているせいでずいぶんとお疲れなようです。が、父と時折交渉されているようなので、何かお考えがあるのでしょう」


「し、寝室やお風呂に特攻!?」


 え、そ、それってつまり色仕掛けだよね!?一気に頭に血が上って、クラクラしてきた。

 その場面を想像して真っ赤になる私を見て、一度きょとんとしてからサンセットさんはふっと表情を綻ばせる。


「フローラ様は純粋でいらっしゃるのですね、お連れの皆様が貴方を守りたくなる気持ち、わかります」


「えっ?」


「ライト様とは私も、キャロルの暴走を止めた際にお話をさせて頂いたのですが、あのお方の口から出るのは貴女のお名前ばかりでしたわ」


「……っ!」


 トクンっと心臓が跳ねて、口元を片手で押さえる。きっとライトからしたら、離れている内に私がなんかやらかさないかとか、保護者的な観点からの心配なんだろうけど、でも。


(嬉しいな……)


 ちゃんと気にかけてくれてたんだ、なんて、そんな些細なことで心が蕩けそう。

 って、駄目だ!真剣な話をしてるんだから、甘い気持ちになってる場合じゃない!にやける頬をパンっと叩いた私に一瞬驚いた顔をしたサンセットさんだけど、すぐ真剣な表情に戻り、洞窟の入り口へと体を傾ける。


「……お二人の絆はきっと、深く心で繋がっておいでなのでしょう。しかし、油断なさらない方が宜しいでしょう。キャロルの持つあのオーロラの貝の力……、得体が知れません」


 秘密を暴露するような、どこか弱々しい声音だ。それに呼応するように、洞窟の奥でパシャリと水音がした。


     ~Ep.330 金色の髪~




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