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Ep.326 絡み合う独占欲

 薄暗くて湿っぽい。洞窟の空気ってなんとなくあまり良くないイメージがあるけれど、私が引きずり込まれたそこの空気はむしろ凛と清んでいて気持ちがよい。流石は神聖な場所だけあるけど、いきなり背後から口を塞がれ抱き締められたままでは空気を楽しむ余裕もないよ!

 『離して』と腰に回った片手をペチペチ叩くけど、余計に拘束が強くなっただけだった。


「むーっ!」


「しっ、静かに」


 耳打ちされた瞬間、耳から甘く広がる痺れにフッと力が抜ける。朝からずっと聞きたかった声なせいだ。

 仕方なく大人しくしていると、外からパタパタと軽い足音が聞こえる。


「ライト様ーっ!キャロルの王子様~っ、どこですか!?見つけちゃいますよーっ!」


 『かくれんぼなんて、お茶目さんなんだから!』と言いながらキャロルちゃんが完全に離れていくのを見送ると、ようやく解放された。


「もう、いきなりこんなことしたらビックリするでしょ!」


「悪い。上手いこと逃げたのは良いが、そのタイミングでお前とキャロル嬢が鉢合わせたら確実に絡まれると思ってな」


 確かにそうかもしれない。まぁ私も、後ろから抱き締められた時点で相手がライトなのはわかってて怖くはなかったので、別に怒ってはないけれど。と、ため息をつき洞窟内をフラフラ歩き出す。外から見るより深そうだ。


「奥の方、水が青白く光ってて綺麗だよ、近くまでいってみよ!」


「おい、そんな薄着で奥まで行ったら冷えるぞ。子供だな」


「ーっ!じゃあいいよ、私ちょっと見てくるから!王子様はそこでキャロルちゃんが見つけに来てくれるの待ってればいいわ」


 いつもなら何気なく笑って受け流す軽口に、溜まっていたモヤモヤが弾けた。

 可愛くないってわかってるのにそう言い捨てて、一人で奥へと走り去る。

 しばらく進むと、一番奥は大きな貝型の泉になっていた。テレビで昔見たどこかの洞窟みたいに、ここだけ海水がミルキーブルーに光ってて綺麗。しばらく見とれて、でも見ているうちに段々自己嫌悪で気持ちが沈んでく。


(嫌な言い方しちゃった、ライトが悪いわけじゃないのに……)


 そもそも婚約は政略が主なものだし、今回は身分も偽ってて今の私とライトは表向きは“従兄弟”なんだから、私に彼の恋愛をどうこう言う資格はない。

  と、ため息を溢したところで、背中がちょっとぞくぞくするのに気づいた。


「……くちゅんっ!確かに、ちょっと寒いかも……」


「……だから言ったろ、馬鹿。フライにかき氷なんか貰ってイチャついてるからだ」


 弾かれるように振り返る。追いかけてきたらしいライトが腰に手を当て、やれやれと首を振っていた。さっきまで散々キャロルちゃんに抱きつかれていたその胸は今、空っぽだ。


「ーー……えいっ!」


「ーっ!?お、おい!いきなりなんだよ!?」


「だって寒いんだもん。体温吸収してライトも寒くしてやる!」


 完全に油断してるライトに正面から抱きついてみた。反射的に上げられたライトの腕が、宙をさ迷ったままピクリと動く。そのまま握り拳に変わって下ろされてしまった手を見て、頬を膨らませた。


(キャロルちゃんの時はなんだかんだ抱き止めてた癖に)


 腹いせにさらにぎゅーっとしがみつく。冗談のつもりで言ったけど、実際ライトの身体は温かいのでこのまま暖を取らせてもらうことにした。硬直したままのライトが、ぽつりと呟く。


「勘弁してくれよ、生殺しにもほどがある……!」


「ん?何?……くしゅっ!」


「……っ、いいや、何でも」


 顔をあげて聞き返そうとしたけど、その前にライトがふわりと抱き上げられてそのまま座らされる。自分から抱きついたけど、いざ抱き締め返されるとドキドキしてライトの顔が見られなくなる。


(ち、近い……!)


「何赤くなってるんだよ、寒いんだろ?」


「……そ、そうだけど……」


 余裕の笑みで見下ろされて、ドキンと心臓が跳ねる。うぅ恥ずかしい、抱きついたりすんじゃなかったよ……!


(でも、温かい……)


 背中に回ったライトの手が、ゆっくりと優しくトン、トンとリズムを刻む。安心したら、少し瞼が重くなってきた。


(夕べは傷が痛くてあんまり眠れなかったもんね……)


「ーー……あ、サクラ貝拾い損ねちゃった……」


「サクラ貝?」


 微睡んでるせいで考えが上手くまとまらない。ライトの膝の上で、眠気と戦いながら言葉を繋ぐ。


「お母さんが、お父さんに初めてもらったプレゼント……。大事な思い出の、貝だから……」


「欲しかったのか?サクラ貝」


「んー……」


「フローラ?……信じられねぇ、普通この状況で寝るかよ、無防備な奴」


 ライトの声が段々遠くなってく。駄目だ、眠すぎて限界……。

 完全に瞼が落ちる直前、チクッと首筋に妙な痛みがして一瞬、目を開く。


「ライト、今……?」


「……安心しろ、ただの虫除けだ。ゆっくりおやすみ」


「うん……」


 “虫除け?”と首を傾げたけれど、今度こそ完全に意識が眠気に飲み込まれてく。気を使ってくれたのか、ライトは何も言わずに優しく頭を撫でてくれた。


「~~っ!キャロルの王子様に横恋慕なんて、あの子きっと悪い魔女ね……!じゃなきゃ、なんでこの洞窟に入れないか説明つかないじゃない!」


 洞窟に入れず地団駄を踏むキャロルちゃんの声には、私もライトも気づけなかった。


「絶っっっ対、王子様はあげないんだから……!」











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「信じられねぇ、完全に男として意識されてないな……」


 そう愚痴をこぼしつつ、気持ち良さそうに腕の中で眠るフローラの頭を撫で続ける。サラサラと指の間を流れていく髪の手触りが心地よく、同時にもどかしくて。

 不意に、浜辺でフライに笑顔でスプーンを差し出していたこいつの姿が頭を過った。

 同時にそれを受け入れて、挑発的な笑みで駆け寄れない俺を見てきたフライの顔も思い出して苛立ちが沸き上がる。大方フライが照れた姿をみて熱中症になると誤解した……とかそんな所だろうが、でも普通に自分が使ってたスプーンを他の男に使わせるか?ましてやこいつ、その後同じスプーンで普通にかき氷平らげてたし……。


「んぅ……、ライト………」


「ーっ!」


 苛立ちと独占欲を抑えきれずに抱き締める力を強めると、フローラが寝ぼけてすり寄るように体を動かした。洞窟の薄明かりに透けたパーカーから見える清らかすぎる白い肌に、その首筋に先程刻んだ赤い印に、無意識に喉が鳴る。


「ふざけんなよ、俺だって男なんだぞ……!」


 こっちの我慢にだって限界がある。が、フローラが向けてくれるこの信頼を壊すのも嫌だ。

 沸き上がる劣情を抑え込むように拳を握りしめて深呼吸を繰り返すが、あまり効果はなかった。あの商人の娘に抱きつかれていた時には不快感で芯から冷えきっていた身体が、フローラに触れているだけで燃えるように熱い。破裂しそうな程に狂った速度で脈打つ心臓のせいで体温が上がってるんだろう。

 寒がっていたフローラはその熱が心地よいのか、幸せそうな顔で寝息を立てている。ため息が溢れ落ちた。


「好きだと言ったら、お前はどんな表情かおをするんだろうな……」


 散々自覚から逃げてきた自業自得とはいえ、今の立ち位置はあまりにもどかしい。このまま腕の中に閉じ込めてしまいたい衝動を誤魔化すように、彼女の首筋にもう一度唇を落とした。


    ~Ep.326 絡み合う独占欲~


「あっ!なんだ、2人とも一緒に居たんだね。……あれ、ライト顔色悪くない?フローラ寝てるし……」


「あぁ……、この状況で三時間耐えた俺の理性を誰か誉めろよ……!」


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