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Ep.30.5 私の世界(ルビー王女side)



『あっ!課題が終わってませんわ!!!』





私の世界には今まで、お父様とお母様。そして何より、大好きなお兄様を中心に回っていた。


周りの貴族の人々は老若男女問わず病弱な私を『可哀想』だと言って腫れ物のように扱い、“私の世界”まで踏み込んでこなかったけど、それで良いと思った。


私には、お兄様達だけ居てくれればいいの。

この私だけの楽園に、他の人なんて必要ないわ!

まぁ、お兄様のご友人であるライトお兄様、フライお兄様、それからフライお兄様の兄君にあたられるフェザーお兄様位はたまになら居てもいいけど。


そして、お兄様も私と同じ気持ちで居てくれると思っていたのに……、数年前のある日をきっかけに、私はそれが全くの勘違いだったことを知った。










―――――――――


それは、いつも通り学園寮から届くお兄様からのお手紙を開いた日の事だった。

その年から“イノセント学園”に通いだしたお兄様は、毎週欠かさず手紙を送ってくれている。

離れているのは寂しいし、実際お兄様の入学を知ったときには全力で抗議したけど、結局お兄様の入学は避けられなかったのだ。

仕方ないから、この手紙と長期休暇に帰ってくるお兄様との時間を楽しみに、私の日常は回っていた。

そんなお兄様の手紙だけど、頻度が頻度だから内容はだいたい似たり寄ったり。

私やお父様達を気遣う言葉から始まり、お兄様の学園での日々についてが続くのだ。

そこに出てくる名前はもちろん、ライトお兄様とフライお兄様がほとんど。

その他の人のことなんて全然書いてないし、そんな手紙をもらい続けていた私は、お兄様は周りにどんな人が居ても私のことだけ思ってくれてるんだと自惚れていた。


でも、そんなある日……


「ルビー様!お止めください!!」


「そうです!何故クォーツ様からのお手紙を燃やされるのですか!?」


「うるさい!離して!!」


あの日開いた手紙には、初めて私の全く知らない名前が書かれていた。


“フローラ・ミストラル”

私達の暮らす大地の国“アースランド”から一番離れた、水の国の姫その人の名前だった。



そのショックが大きすぎて、内容自体はあまり覚えてない。

今考えてみれば、きっと大した内容じゃなかったのだろう。

それまでの手紙も皆そうだったんだから。



結局その日、私は使用人達に取り押さえられて落ち着かされることになり、一旦騒ぎは落ち着いた。


でも……


「なんでなの、お兄様……!」



その手紙以降、その“フローラ”は度々お兄様の手紙に現れるようになった。



クラスでのちょっとした事、学園内の花壇でのガーデニングの事、他にも色々。


一度『ライトに間違って水をぶっかけちゃったんだって。』と書かれていた時には、なんて無礼な人なんだろうと頭に来た。

なのに、お兄様はそんな“フローラ”を『面白い』と評価している。

あり得ない!きっとお兄様はそのミストラルの姫に騙されているんだ。

私が魔の手からお兄様を守らなくちゃ!!











―――――――――


そんな誓いを立てた私に、その“フローラ”と直接会う機会がやって来たのは、お兄様が一年生の時の春のこと。


この時期、アースランドにだけ咲く桜を見に、お兄様が呼んだと言うのだ。




「ルビーは年の近い女の子に会うのは初めてだよね。フローラとなら、きっと友達になれると思うよ!」



久しぶりの一緒の夕食の席でそう言って笑うお兄様を見て、私の“フローラ”への怒りは一層強まって。


更に、勇んで翌日勝負を挑みに行った私が見た“フローラ”がとても可愛い少女だった事が更に腹が立った。




特徴はあらかじめお兄様から聞いていたし、あの場に同じ年頃の少女は他に居なかったから、お兄様のお気に入りの長椅子に腰かけている子が“フローラ”だとすぐにわかった。


絹糸のように細く綺麗で、柔らかなウェーブのかかった長い金色の髪。

空の青に近い色のドレスによく映えるその髪を春風に靡かせている少女の前に立ち、私は怒りを露にした声で話しかけた。




「貴方がフローラかしら?」


「えっ?」



私に気づいて上げられたフローラは、顔立ちも腹が立つほど整っていた。

ちょっとたれ気味の、大きな青い瞳。

白くなめらかな肌は、私の病弱に見える青白さと違い健康的で綺麗な色だった。




その後は、怒り任せに貴族の間で決闘状とされる白い手袋を叩きつけて勝負を挑み、そして負けた。


フローラを含む他のお客様方が帰った後、私はお兄様に初めてお説教をされた。

それが余計に腹立たしくて、翌年からイノセント学園に入学した私は、フローラをはじめとする邪魔者がお兄様に近づかないよう全力を尽くした。



フローラはたまに校内や寮で顔を合わせると挨拶はしてきたけど徹底的に無視した。

何より、その時の余裕の微笑みが腹立たしかった。









でもそんな時、ある事件が起きた。

フローラが世話をしていた花壇の花が、放課後に切り刻まれていたのだそうだ。




「わっ、私じゃないわ!」


「わかってる、僕ももちろん信じてるよ!でも……」



その出来事があった日、お兄様は私に、これまでの私の行動から私が犯人じゃないかと疑われてると言う話を聞いた。


冗談じゃないわ!


私は大地の国に生まれたこともあり、幼い頃から草花に囲まれて育った。

お兄様と一緒にガーデニングをしていた時期もあり、花は大好きだ。

だから、いくらフローラが気に入らなくても花壇荒らしなんてあり得ない。



お兄様と、ご友人の他国の王子様達は信じてくれたけど、翌日から私に対する風当たりが途端に激しくなった。



クラスに多少は居た挨拶してくる子達は途端に人を無視し始め、どこに居ても聞こえてくる不快な嘲笑。

そんな私の側に居るとお兄様まで不快な思いをしそうで、私はお兄様を避けるようになった。




でも、自分から逃げてるのに寂しくて、心細くて……。

それから私は、暇があれば学園内の森の中に逃げ込むようにしていた。

そこには、私の友達の仔リス達や、食べられる植物がたくさんあって、更に余計な人間は入ってこない。



入ってこない、筈だったのに。


ある日の放課後にいつも通り森に入った私の前に現れたのは、当事者である“フローラ・ミストラル”その人だった。




正直、森で二人きりになった時はパニックで腰が抜けそうになった。

だって、あの時の私とフローラの立場はいじめの被害者と加害者(実際には私は何もしてないけど)。

でも、今まで散々暴言を吐いてきたことは事実だから、これ幸いと反撃されるかもしれない。

それに、きっと彼女は私が犯人だと思ってるはず。


そう思って、自分を守るために強い口調でまた攻撃的な言葉を発する私に、彼女『お話がしたい』と笑った。


その笑顔を見たら、なんだか妙に落ち着いてゆっくりと話すことが出来て。


会話をしているうちに、フローラが私を犯人だと思っていないと言われて、私は目を見開いて隣に座る彼女をみた。


木々の隙間から射し込む木漏れ日の中で微笑んだフローラは、天使のように美しかった。



それからは、裏で動いていてくれたらしい皆さんのお陰で事件が無事解決して。

ひょんなことからフローラと一緒にケーキを作ったり、夏休みには溺れた所を助けてもらったりなんかして。



本当に、申し訳が立たないくらいにご迷惑をかけているのに、フローラはいつもあの笑顔を浮かべていた。


そんな彼女は眩しくて、一歳しか変わらないのにとても素敵な“お姉様”に見えた。





「あれ、ルビー、何ぼんやりしてるの?もう荷物まとめないと、新学期始まっちゃうよ?」


「ーっ!」



そんなことを思い返していたら、不意にお兄様から声をかけられた。

そうでした、今は寮に戻るために手荷物をまとめている所だったのでした。




『すぐにやりますわ。』とお兄様に笑いかけると、お兄様は珍しく訝しげな顔をして私を見つめる。


「あの、なんでしょう?」


「あ、いや、何か最近ルビー変わったよね。口調とか、物腰とか。」


『何か、あった?』と、お兄様が心配そうに私の顔を覗き込む。


私はそんなお兄様の目を見て、にっこりと微笑んだ。


「えぇ、目標にしたい方が出来ましたの。」


「へぇ、そうなんだ!友達?」



いいえ、尊敬できる心優しきお姉様です。


「内緒ですわ!」


「えーっ、教えてよ~っ!!」


「うふふっ、お兄様には言えません。女の子の秘密ですわ。」




そう言ってまとめ終わった荷物を持ち上げると、お兄様は不満げに頬を膨らませてから、小さくため息をついた。



「まぁ、いいや。よくわからないけど、ルビーが楽しそうだから良しとするよー」


「ーっ!」




お兄様はそう言って笑い、私の荷物を持ち『馬車に乗せとくね』と背中を向けた。


「……お兄様。」


「ん?」



「――……ありがとうございます。」



呼び止めたはいいけれど何て言いたかったのかわからなくて、結局そんな一言しか出なかった。


お兄様はそんな私にもう一度笑いかけて、今度こそこの場をを後にする。



「さて、明日からまた学校ですわ……。」


今までは嫌で堪らなかったのに、今は不思議と心が踊る。


きっと、明日からの学園生活は楽しくなる。

――……そんな気がする。



~Ep.30.5 私の世界(ルビー王女side)~


『あっ!課題が終わってませんわ!!!』




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