表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
348/399

番外編 黄色いバラのその意味は

本編全く関係ないただの父の日ネタです^^;

前半フローラ視点、後半はクォーツ視点になります

「……もうっ、ライトなんか知らない!大っ嫌い!!!」


 なんて、どうして言ってしまったんだろう。いや、原因はわかってるよ?もうすぐ中等科も卒業って年になって、私だって心身ともに少しは成長してるのに、いつもいつも子供扱いするから! 今朝だって生徒会室のソファーで仮眠を取る私を叩き起こしたかと思えば、開口一番に『こんな男も出入りする部屋で無防備に寝るんじゃない、子供か!』だもんね。

 で、腹が立って売り言葉に買い言葉で大喧嘩した結果、逃げ出して学院商店街の方まで来てみた訳だけど……


「なんか、今日はやたらと男性向けの品物がたくさん出てるな……。全部の品物の箱に黄色いバラがついてるのは何でだろ?」


 いつもより更に賑わっている店先に並ぶハンカチや万年筆。手に取ってみると、流石は貴族が使う高級品だと言わざるを得ないほどしっくり馴染んだ。


「そういえば、ライトこの間ネクタイピンが折れちゃったって言ってたよね……」


「お客様、何かお探しですか?」


「ーっ!?は、はい!ネクタイピンを見たくて!」


 ふとネクタイピンコーナーに視線を向けたら、お店のお姉さんに話しかけられてしまった。

 流石はプロのスタッフさんはオススメ上手で、あれよあれよと言う間にどんなデザインがほしいかの話になっちゃって焦った。


(ちょっと思い出しちゃっただけで、今日はライトにプレゼントなんかあげる気分じゃないもん!)


 些細な喧嘩で大人げないかもだけど、女の子としてはやっぱり好きな人にあそこまで意識されてないのは腹立つ訳で!当然、おやつに焼いて仕上げたサヴァランもお預けだ!!


「なんちゃってお父さんなんか、おやつ無しの腹ペコで午後の会議に出れば良いんだわ」


「あら、やはりお父様への贈り物ですか?でしたら今お選び頂いたデザインのピンは少々若々し過ぎるかも知れませんねぇ」


「え?いや、お父様への贈り物ではないですけど……?」


 ついている宝石の色がライトの瞳に似てるせいでつい手にしてしまったネクタイピン。それを見て困った顔をしたお姉さんに聞き返すと、彼女はくすりと笑って今日がなんの日か教えてくれる。


「今日は……の日ですから、殿方にちょっとした贈り物と、黄色いバラを贈るのが風習なんです」


「ーっ!」


 そっか!だから黄色いバラなんだ。前世ではご縁がない日だったから覚えてなかったよ。


「……どうしても保護者ぶりたいなら、思いっきりそう扱ってあげようじゃないの!」


 そう意気込んで買ったネクタイピンと、五本の黄色いバラの花束。わー、お財布が軽いよー……なんて、今は考えちゃ駄目だ。嫌がらせの代償はプライスレスだと割りきって、会議室から出てきたライトに二つを押し付けて逃げ去った。


 『可愛い顔して大胆なのね、健闘を祈るわ!』と言うお姉さんの言葉の意味は結局わからないけど、この際気にしないことにした。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「今度は一体なんの真似だ?詫びのつもりならもうちょっときちんと手渡せよ、だから子供なんだ」


 会議を終えてやっと一息ついた僕は、ライトがそう言いながらもフローラから押し付けられた小包を丁寧に開いている姿を眺める。

 普段の大雑把さとは無縁なほどの丁寧な手つきに、小さく吹き出してしまった。


「……なんだよクォーツ、言いたいことがあるなら言え」


「いいえ~なんでも?ブツブツ言いながらも結局気になって仕方ないんなら、予防線がわりにわざと子供扱いするの止めたら?」


「……っ!」


 ライトは自分のフローラへの気持ちを自覚して以降、寧ろ前より頻繁にフローラを子供扱いするようになった。フローラはそれがさぞ不満なんだろうけど、僕はそのライトの行動が、彼女に抱いてしまう“男”としての欲を抑えるためにわざとやっていることを知っている。まぁ、気持ちはわかるよ、僕も彼女への恋は全然吹っきれてないし。

  まぁそこは考えていても仕方ないかと話を戻す。


「で?プレゼントなんだった?」


「ん?あぁ、ネクタイピンみたいだな。あとはメッセージカードが……ってなんだこれ、『いつもありがとう』?何が?」


「……っ!あ、あぁ、なるほど。そう言う意趣返しに出たかぁ」


「な、なんだよ、何がわかったんだよ」


 ライトはじと目だけど、男性向けのプレゼント、メッセージカードの内容に加えて君が受け取った、その黄色いバラが何よりの証拠だ!


「ら、ライト、それ、多分父の日だよ……!よかったね、娘に父として認められたよ!」


 ひとしきり笑ってようやく呼吸が落ち着いたところで、目尻に滲んだ涙を拭いながら教えてあげた。

 一瞬の間を置いてゆらりと立ち上がったライトが、ぐしゃりと手にしていたネクタイピンの包装紙を握りつぶす。


「……誰が本気で父親扱いしろっつったよ、あいつーっ!」


 それでも律儀にバラを花瓶に挿してからフローラを追いかけにいく辺り、花束とプレゼント自体はまんざらじゃなかったらしい。本当に、わかりやすいんだから。


「本当は、未婚の女性から父親じゃない男性に黄色いバラをあげる場合は“親への感謝”じゃなくなっちゃうんだけどね」


 独り取り残された窓際で、黄色いバラを指先でつつく。彼女の笑顔のような大輪のそれから、ハラリと二つ、花びらが落ちた。


「お互い未婚の女性から男性に贈る五本の黄色いバラは『私の子の父親になってください』……つまり、『貴方の子どもが欲しいです』なんだけど、悔しいから教えてあーげない」


 きっと二人とも、そっちの意味知らないんだろうしね。

 事実を知った時の反応が楽しみだと笑うと、黄色いバラが風も無いのに小さく揺れる。それを見て思う。


「この花が本当にぴったりなのは、ライトじゃなくて僕とフライかも……ね」




 後日、ハイネから黄色いバラの裏の意味を知ったフローラが喧嘩とは別の理由で一時期ライトに顔を見せなくなったのは、また別のお話。


    ~番外編 黄色いバラのその意味は~


 『赤なら“情熱”、白は“純潔”、そして黄色は“嫉妬”だけど、保護者ポジションはさすがに要らないなぁ』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ