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Ep.319 メルヘン少女と天然皇女

「あぁ、待っておくれ僕の天使よ!!」


「ーっ!?」


 目印は見えているものの、随分と離れてしまったせいで帰るのも一苦労だ。ちょっと休憩と立ち寄った小さな公園でブランコを漕いでいたら、不意にそんな野太い声がした。噴水の方だ。


 つい先程老婆から聞いたお話に出てきたのは“女神”、天使じゃない。でも、神様に仕えてる子達がすなわち天使だよね?と思い、そっと様子を窺いに行ってみる。妖精みたいな羽根がついた美人さんの像の陰に身を潜め、噴水の周りを見てみた。何やら人集りが出来ている、集まっている九割方が男性だった。


(なんの集まりだろ、中学生位の男の子から成人してるっぽい人まで居るけど……あ)


 よく見ると、人集りの中心にV字型タイプの真っ赤なリボンが揺れている。一人だけ女の子が居るようだ。


(じゃあ、あの子が“天使”?)


 ピコハンの先に近くで拾った木の枝を張りつけて、その陰に隠れながら噴水へと距離を詰める。完全にただのおかしな子だが、本人は擬態出来ているつもりなので突っ込んではいけない。

 幸い集まっている人々は“天使”とやらに夢中なようで、あからさまに怪しい動く葉っぱの固まりには気づかなかった。

 その中心に居たのは、華奢な体躯にパステルピンクのふわふわツインテール。白とピンクのフリフリワンピースを着た、ザ・ロリータファッションの女の子のようだった。ただ、こちらを向いてくれないので顔が見えない。


(うーん、見えないなぁ。あ、そうだ、角度変えたら水に反射した姿が見えるかも)


 そう思い立ち、足元も確かめずに行動したのが不味かった。焦って立ち上がったせいでスッ転び、フローラの手からピコハンが抜ける。ポーンと飛び出した必殺の武器が、“天使”の頭に直撃したのだ。

 頭を抱えて踞った少女が甲高い声をあげる。


「い、いったぁ~~いっ!キャロル泣いちゃうーっ!!」


「き、きゃーっ!ごっ、ごめんなさいごめんなさいっ!大丈夫ですか!?」


「おいっ、何だ君は!我々の天使になんて事を!訴えてやる!!」


 謝罪のため駆け寄ると、激昂した男に肩を掴まれてしまった。周りの男性陣の敵意が異常だ。


「あ、あの、ごめんなさい。決して彼女に危害を加えたかった訳じゃないんです」


「嘘をつくな!見かけない顔だし、こんな意味不明な武器なんか用意して……さてはお前がキャロルちゃんに脅迫状を出した犯人か!?」


「きっ、脅迫状!?何のお話ですか!?」


「キャロルちゃんの家の財産を狙って、誘拐をほのめかす脅迫状が最近毎日のように届いているんだ!」


「え、それってこの子をあまり出歩かせない方が良い状況なのでは!?」


 思わずそう叫んでしまった。脅迫状が怖いと言うなら、何故この子はこんな呑気に男の子に囲われて公園でキャっキャとはしゃいでいたのか。

 いやそれよりも……ちょっと転んだだけなのに、どんどん話が大きくなっていく。このまま外野に構っていては埒があかないと判断し、フローラはしゃがみこんだままの少女の前に座って両手を差し出した。こう言うときは、当人同士で解決するのが一番だ。


「驚かせてしまって本当にごめんなさい。お怪我はありませんか?」


 フローラの声に、少女がゆっくりと顔をあげる。ふわふわと揺れるピンクの髪に、ミルキーピンクの唇、山吹色の瞳はお月さまのように真ん丸だ。


「か、可愛い……!」


 同性のフローラですらそう呟いてしまうほどの美少女がそこに居た。これは周りの男性達が盲信するのも無理はない……と思っていたら、涙に濡れた瞳を擦ってから、少女がガッとフローラの両手を掴む。

 いきなりでビックリしたが、元々彼女を立ち上がらせる気で差し出した手だしと、少女の手を握り返して立ち上がる。しかし、続いてしゃがんだままの少女を引っ張ったのだが、彼女は立とうとしない。

 どうしたのかと顔を覗き込めば、少女はにっこりと笑ってフローラの指に煌めく指輪に手をかけた。


「ねぇお姉さん、キャロルとーっても痛かったんだから、当然お詫びしてくれるでしょ?」


「え!?えぇ、そう……ね。本当にごめんなさい」


 断言されて一瞬怯んだが、なんにせよピコハンを彼女にぶつけたフローラに非があるのは事実。だから強く出られず頷くと、少女がさも当たり前のようにフローラの指から聖霊女王の指輪を引き抜こうとし始める。流石にもうビックリどころの騒ぎじゃなくて、少女から自身の手を慌てて取り返した。


「いきなり何するの!?」


「だからお詫びよ!その指輪とっても綺麗でお姉さんよりキャロルのが似合うから、ちょーだい!」


「え、えぇ……?」


 もうどこから突っ込んだら良いのかわからない。指輪を守るように右手を左手で包んだフローラが後ずさるが、逃げ道は男の壁に塞がれた。彼らは少女の突飛な要求に疑問を覚えるでもなく、寧ろ口々に『キャロルちゃんに指輪を寄越せ!』という。終いには幾人かの口からは『寄越せ』ではなく『返せ』という単語が出てきた。何がどう頭の中で絡まったらそんな思考になるんだ。頭痛を堪えつつも、騒ぎを起こしては不味いとフローラは笑みを作り、話をそらす。


「ごめんなさい、これは大切なものだし、何より抜けないからあげられないわ。そんな事より、貴方今脅迫されているのでしょう?無闇にうろついていたら危ないわ」


「ぶーっ、ケチ!脅迫状なら大丈夫よ、この公園人気ないから、周りに悪いやつが居ないの確認しやすいもん!!」


 頭が痛くなってきた。逆だ、人気がない上に木々や建物などの障害物が多い公園なんて、いかにも“狙ってください”と言っているような物なのに、この子はそんなこともわからないのかと。見たところ、歳はフローラとそんなに変わらなそうなのに。


「それに、もし拐われたって平気よ!」


「……っ、平気な訳ないじゃない、危ないわ!」


「大丈夫よ!だってキャロルがピンチになったら、運命の王子様が助けに来てくれるんだもの!!!金髪で、背が高くて、そして誰より強いのよ!!」


 流石に叱ってしまったが、少女はフローラの怒りを気にも止めずに瞳を煌めかせてそう言った。


 今度こそ理解が追い付かなくて目玉が飛び出したが、そのお陰で気づいた。少女の真後ろの噴水の下、揺らめく水面がいきなり大きく揺らいだ事に。


「……っ危ないわ、下がって!!」


 その水面に写った影が“人”だと気づくのに時間はかからなかった。咄嗟に少女の前に飛び込むと、ザバっと噴水の水をかけられる。不意打ちだったせいで、水を飲み込んでしまった。瞬間ら猛烈な眠気に襲われる。水に何か仕込まれていたのだろう。


(なに、これ……すごく眠い……)


「ふあぁ、キャロル、もうダメぇ……」


 掠れていく視界。重たい瞼を必死に開いて後ろを伺うと、少女も取り巻きの男性達も皆、眠りについていた。起きているのはフローラだけ。しかし。


「なんだ!?女が2人居るぞ、どっちがお嬢様だ!?」


「はんっ、起きたら聞きだしゃいいさ。2人ともなかなかの上玉出し、連れて行っちまおうぜ!!」


「きゃっ……!」


 下品な笑い声と同時に頭を後ろから殴られて、フローラの意識も遠ざかる。

 気合いで手を動かし貝殻のヘアピンを噴水に落としたところで、完全に気を失ってしまった。


   ~Ep.319 メルヘン少女と天然皇女~


『夢見がちな少女が吟う“運命うんめい”と、皇女が背負いし“運命さだめ”。同じで真逆な、皮肉な言葉』



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