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Ep.308 光彩陸離の夜の花

「癒しの魔力って金色なんだね、知らなかった……暗いとこで使うとき気を付けなきゃ」


「いや気づけよ、自分の力だろ?俺も人のこととやかく言えないけどさぁ」


  笑いながらペシッと軽くフローラの頭を叩いたライトは、もうすっかり元気そうだ。やはり今の呪文には、魔力の回復を促す効果もあったらしい。


  と、安心した所で、クォーツは自分が開けた地面の大穴を直しに去っていった。結界が解けて大分経つので、人目については困ると判断したのだ。

  それを見送り、ライトとフライは顔を見合わせてため息をつく。


「さて、フローラの力で建物から何から元通りにはなった……が、あの爆発音は後夜祭の方にも聞こえてただろうなぁ」


「風向きも丁度ここから会場の方へと流れていたからより響いただろうね……。さて、どう誤魔化す?」


  本来は誤魔化しや揉み消しなどしない二人だが、今回は事の大きさが違いすぎる。何せ、この世にはもう存在しない筈の”魔物”が現れて、暴れたのだ。その原因もわからぬまま、事実だけを世間に知られては不味い。余計な混乱を呼ぶだけだ。

  だから、フローラも一緒に打開策を考える。


(“どーんっ”て結構な音してたもんね。結界のお陰で炎や煙は見られずに済んだみたいだから、音だけ誤魔化せれば良いんだろうけど……)


  お祭りの夜に、しかも終了間近の時間帯に、会場からちょっと離れた位置でドーンっとなっても不自然で無いもの……そんなのあるか!となりかけたとき、ふと思い出した。

  たったひとつ、寧ろ最適な魔法を使える人がそこに居るじゃないかと。


「……!良いこと思いついちゃった!」


「え?本当かい?」


「うん!と、言うわけでエドガー君っ、ちょっと一緒に来て!」


「えっ、俺!!?」


  止める間もなく、フローラはエドガーの手を引いて林の方へと走り去ってしまった。

  でも、もうライトもフライも焦りはしない。エドガーが今さら彼女を傷つけたりはしないだろうと言う信頼があるからだ。だからこそ、二人の背中が完全に見えなくなるのを待ち、フライが暗い表情でライトに聞く。


  『シュヴァルツ公爵家への処罰はどうする気なのか』と。

「あぁ……そうだな、これだけの騒ぎになった訳だし、他にも余罪が有るようだし。きちんと償って頂こう。捕縛した公爵はもちろん、彼の子供たちにもな。フリード、シュヴァルツ家の長男と次男をここへ呼んでく……れ?」


  珍しく黒い笑みでそう指示を出したライトが振り向くと、先程までフリードが控えていたはずのそこに人影は無く。代わりに、300メートルは離れているであろう位置にポツンとある人影から『畏まりましたー!』と言う叫びが返ってきた。あまりの距離感に、ライトが肩を落として突っ込みをいれる。


「なんかこう……遠い!!急にどうした!!?」


  『何でもないですー!』と、やはり遠くで叫んだフリードが去っていった辺りで、フローラが放った魔力の効果が無くなったのか辺りが元の暗闇に戻る。

  何だか気が抜けたライトとフライが二人して天を仰いだその直後、不意にその夜空に大輪の花が咲いたのだった。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  病院を守っていた結界はもう無い。だから、林の奥にも簡単に行き着く事が出来た。

  強制的に引っ張られてきたエドガーは、ようやく足を止めたフローラの後ろで長いため息を溢す。


「ちょっと、勘弁してくれよ。こんな人気のない場所であんたと二人きりとか……ライト先輩はともかく、フライ先輩に睨まれたらどうしてくれんの?」


「へ?大丈夫よ、フライもライトも別にエドガー君が悪いことしなきゃ怒ったりしないわ」


「うわ、マジか……。あんたそれ本気?本っっ当になんも心当たり無いわけ?あの人たち、絶対あんたの事が……」


  呆れたような声音でそう言いかけたエドガーだったが、キョトンとしたフローラと目が合うなり首から下げていたカメラを握りしめて、『やっぱり何でもない』と首を振った。

  そんなエドガーから1メートルほど先で、フローラが両手を大きく広げる。


「そんなことより、ここまで来れば十分だよね!ここから花火を打ち上げて欲しいの!あの空に向かって、いーっぱい!!」


  両手で大きく円を書いて“いっぱい”を表現するその子供のような無邪気さに、エドガーは嫌そうに眉を寄せた。


「えぇ、嫌だよ。花火って簡単そうに見えるのかも知れないけど、色味とか高さとか空で弾けるタイミングとか、皆術者の魔力の圧縮具合で決まる繊細で集中力要る魔法なんだから」


「そんな事言わずに!いつか暗い場所で見せてくれるって約束したじゃない!」


「いや、約束はした覚えないんだけど!?大体、ただ花火上げて欲しいだけなら何でわざわざ俺の事だけ離れた場所まで連れてきたのさ」


  最もなエドガーの言い分に、フローラは苦笑する。確かにその通りだ、だけど……と、折角のお祭りなのに、先程までボロボロになって死闘を繰り広げていた婚約者達の姿を思う。


「それはもちろん、火事の爆発音を花火で誤魔化したいのが大前提だけど。でも花火ってあげてる場所からより、ちょっと離れた場所からの方が綺麗に見えるじゃない?だから、ここまで離れてから上げれば、ライト達からも綺麗に見えるかなぁって」


  折角のイベントだ。仕事だ、魔族だ、戦いだってきな臭い出来事にまみれた期間だったけれど、せめて最後に一つくらい、彼らにも綺麗な思い出が有って欲しい。

  いつかの夜会の夜に、ライトが『悲しい思い出をその日の最後にすると、その日が全部悲しい日になってしまうから』と、月明かりの下でフローラをダンスに誘ってくれたときのように。今度は自分が、彼等の思い出を塗り替えたいと思ったのだ。

  まぁ、実際は人頼みなわけだがそこは気にしたら負けである。


  エドガーはフローラの説明を聞いてちょっと迷い出した。

  が、なかなか煮え切らないので、業を煮やしたフローラは彼の弱点になりうるカメラをパッとその手から取り上げる。

  焦ったエドガーが手を伸ばしてきたが、金色の光をまといふわりと浮かび上がったフローラには届かない。


「あっ、ちょっと!?」


「もーっ、こんなにお願いしてるのに!聞いてくれないなら、このカメラの写真学校中にバラ舞いちゃうんだから!!」


「止めっ……!こらっ、見るなったら!!」


「何よ、また皆の写真が入ってるだけでしょう?そんなに焦らなくたって……、あれ?」


  カメラの小さな画面で一枚目の写真を確認したフローラは、思わず口を閉ざした。そこに写し出されたのが、学祭の準備中に他の生徒たちと笑っている時の自分の姿だったからである。

  フローラがぽかんとしている間に、ジャンプしたエドガーがフローラの手からカメラを取り返した。


「だーもうっ!だから見るなっつったのに!!……言っとくが私情で撮った訳じゃないからな!」


「へ?じゃあ、何で撮ったの?」


「……シュヴァルツ家の仕事」


「……?どういうこと?」


  再度キョトンとしたフローラに嘆息し、カメラを弄りながらエドガーが歩き出す。


「うちさ、今の屑親父や兄達の代になる前……。お祖父様の代までは、すげー立派な家だったんだ。王家への忠義だって、愛国心だってちゃんと持ってたし、何より、影の歴史の記録者として大役を仰せ遣ってた」


「“影の歴史”……?」


「所謂、表沙汰には出来ない、でも失われてはいけない歴史の“裏側”を記録し、秘かに未来へと伝える者。フェニックスの国内に数多居る貴族の中でもたった二つの家にしか与えられてないその役目の関係もあって……今や誰も学ぶ機会がない古代言語もお祖父様から仕込まれたし、俺自身はずっと小さいときからライト先輩やあんた達のこと記録してたってわけ。まぁ、今やほぼほぼ趣味だけど」


「なるほど、だからこの手帳が読めたのね。それならそうと言えば良いのに。エドガー君はもっと自分の気持ちを声にした方が良いわ。……って、やっぱ趣味なんじゃん!!」


「……ちっ、誤魔化されなかったか」


  舌打ちをしたエドガーの手元から再びカメラを取り上げようとしたフローラだったが、エドガーが肝心のフィルムをすでに取り出してしまっていたので失敗に終わった。むくれるフローラを見て、エドガーが小さく喉を鳴らして笑う。


「くくっ……ガキみてぇ、その表情かお


「がっ、ガキじゃないもん!こう見えても貴方よりずーっっとお姉さんなんだからね!」


「俺とさほど変わらない厚みしか無い胸で何言ってんだか」


  怒りながらもそう胸を張ったフローラの胸元を見て、エドガーが小声でこぼしたそれを、彼女の耳は確かに聞き取った。人間、己の気にしている箇所への指摘は嫌でも耳に入る物である。

  わなわなと震えるフローラから、とうとうエドガーへの怒りが爆発した。


「もっ、もー怒っちゃったんだから!オーヴェロン様もタイターニア様も、ライトにフライにクォーツに、しまいにはエドまでそんな失礼な事言って!!……覚えててよ、ぜーったい立派に育ってやるんだから!!!」


「ーっ!」


  ガーッと勢いに任せて捲し立てたフローラに、なぜかエドガーはキョトンとしていた。

  急にどうしたのかと悩んで、ふと今さっき自分が彼の名を、ヒロインと皇子達しか呼べない愛称で呼んでしまったことに気づく。慌てて自分の口を手で塞いだが、飛び出た失言はもう戻らなかった。


「ごっ、ごめん!怒りに任せてつい……きゃっ!?」


  木の根に躓いたのか、後ろにひっくり返りかけたフローラの腰を咄嗟にエドガーが助ける。身長は同じくらいでも、その腕は男の子らしくしっかりとフローラの体を支えてくれていた。

  初めて近い位置で視線が重なると、夕焼け色の双眸がふっと細まった。


「ははっ、慌てすぎ。いいよ、別に」


「え!?」


「何その反応。だから“エド”でいいよ、呼び方。他の人達もそう呼んでるし、今更だがあんただけ仲間外れってのも良くないよな」


  一瞬呆気に取られたが、すぐに『打ち解けてきた証拠ね!』と思い直すと元気が出てきた。しかし、その元気をまたまたエドガーの失言が消火する。


「しっかし、軽い身体。もうちょい出るとこでないと、ライト先輩を堕とそうなんざ千年早……痛い痛い痛い痛い!!!」


「ちょっと、おイタが過ぎるんじゃないかしら?ねぇエド……」


  片想いで悪かったわね!と臨界点を突破したフローラに、姫様モードの笑顔で思いっきり頬をつねられたエドガー。慌ててフローラから逃げ出して、赤くなった頬を擦るその瞳は涙目だ。よほど痛かったらしい。


「うっわ、さっき自分で言いたいことは口にしろとか言ってたくせに怒って頬つねるとか、可愛くないわー」


「ーっ!!!可愛くない……!いや、自覚はしてたけどそんな面と向かって言わずとも良いじゃないですか……!!!貴方、もっと他にちゃんとした言いたいことはないの!?」


「ちょっ!んな真に受けなくても!まぁ体つきは細やかだけど、可愛くないことは無い……んじゃ

ねーかな、うん……。言いたいことはあるけど、言ってもあんたぜーったい正しく理解してくれなそうだし」


  いつぞやの胸囲の格差社会を突きつけられた時のように、ショックのあまりしゃがみこんでいじけるフローラ。ぎょっとしたエドガーが、慌ててフォローしようとしたものの、不自然に言い淀んでしまう。体育座りのまま、フローラはエドガーを一喝した。


「言ってみなきゃわかんないじゃない!」


「はぁ……。じゃあ言うけど、あんたさ、心底弱りきってる男にやたらめったら優しくしない方がいいぞ」


  予想外の言葉にちらっと一瞬そちらを見たが、すぐに『訳がわからないこと言ってごまかしても無駄なんだから』と体育座りのままそっぽを向く。参ったとばかりにため息を溢したエドガーが、仕方なしに片手を夜空に向かって掲げる。


  『今回だけだからな』と言う声と共に、パチンっと小さく指を鳴らす音がした。同時に聞こえる重低音で何かが弾ける音と、小さな火花がパチパチ弾ける音。不意に明るくなり、またすぐ暗くなる景色……。数回それが繰り返される内にウズウズして我慢出来なくなり、フローラはそっと空を見上げてみる。そして、感嘆の息を漏らした。


「……っ!綺麗……!!」


  見上げた夜空一面に咲き誇るは、光彩陸離の夜の花。夜空を舞台に広がる一瞬の芸術に、先程までの怒りも忘れてはしゃぐ。その後ろ姿に、腕を組んだエドガーは呆れ顔で嫌味交じりの声をかけた。


「これだけ派手にやれば満足ですか?フローラ皇女殿下・・・・!」


「うん!すごいよ、期待以上!!会場の方からも見えてるかなぁ……!エド、ありがとう!!」


「ーっ!……あんたさ、本当、自分に散々ひどい言葉浴びせてきた男にそう言う表情かお見せちゃう所だよ」


「え?だからなんの話?」


  顔を背けたエドガーの顔は、辺りが暗くてよく見えない。一瞬花火に照らされたその顔が赤いように見えたが、単にそのとき辺りを照らした花火が赤色だったせいだろう。だから、静かにエドガーの返事を待っていたのだが、エドガーは答える気は無いのか、意地悪く笑ってフローラに言った。


「さっきの“優しくするな”の話!やーっぱ正しく理解出来なかったろ。まぁ良いけど」


「な、何よ!だって意味わかんないんだもん……」


  しゅんとしたフローラをちらと見て、エドガーが自分の胸元を拳で押さえる。深いため息をついてから、エドガーは片手をひと振りして更に花火を派手に打ち上げ始めた。そして、自嘲気味な笑みを見られないようにしながらフローラに空を見るよう促す。

  若干怪訝そうにエドガーを見ていたその視線は、ひときわ大きな花火に釣られて空へと移っていった。


「理解できないならいいってば、どうせもう、とっくに手遅れだから」


  そのエドガーの呟きも、弾ける音に掻き消される。それで良いのだと言い聞かせながら、エドガーはカメラに先程外したフィルムをはめ直す。まだ、あと一枚分写真が撮れる余裕があったのだ。


  そのラスト一枚に、花火を見上げたフローラの笑顔が収まる。


「……良かった、見られたのが最初の一枚だけで」


  フィルムが終わった証拠に、カメラの画面に一覧でそのフィルムで撮った写真が並ぶ。その九割方にたった一人の姿ばかりが有ることに今更気づいたエドガーは、呟きながらそのフィルムを再度、取り出した。

  数メートル先では、まだ咲き誇る花火にはしゃいでいるフローラが『みんなの方へ戻ろー!』と手を振っている。


「はいはい、走ると転ぶよフローラ先輩・・!」


  手を伸ばしてもギリギリ、届かない距離。それを駆け足で追いかけながら、エドガーは外したそのフィルムを、胸ポケットの奥へと押し込む。

  秘めた想いの代わりのように、今日一番の大輪の華が夜空に弾けて霧散した。


    ~Ep.308 光彩陸離の夜の花~



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