Ep.28 ビーチの一幕・アースランド兄妹編2
『やっぱり前言撤回だ!!どこがどう笑えるってのよ!!?』
溶けてジュースになってしまったシャーベットを飲み干してから、私はまだビーチで休むと言うアースランド兄妹と別れて海の方に向かった。
ちなみに、ワンピースは脱がないままだ。
ボディラインは見せません。
「あっ、フローラ……様!フローラ様も泳ぎますか?」
「いいえ、今は良いわ。レインは一人?ライト様は?」
「ライト様なら、今は彼方で海中の魚をご覧になっているみたいです。」
「あぁ、シュノーケリングね。」
そういえば、この辺りの海は珊瑚とかもあって海中も綺麗だからって用意して貰っといたんだった。
ライト皇子は結構離れた位置で護衛つけて泳いでるし、レインを見ている護衛は声は聞こえないくらいの距離に居る。
クォーツ皇子達も海から大分離れた位置のビーチパラソルの下に居るし、フライ皇子とフェザー皇子が乗ったクルーザーが戻ってくるのはまだ先だ。
これなら、今くらい普通に話してもいいかな?
「ねぇレイン、今のうちにちょっと私と泳がない?東側の岩場にこっそり泳ぐのにいい場所があるんだ。」
「うん、いいね。行こ!」
私の言葉にレインが賛同してくれたので、私の本性(って言うと人聞き悪いけど)を知ってる護衛だけを連れて岩場に移動した。
これなら伸び伸び遊べるからね。
―――――――――
「ここ、波も潮の流れも強くなくて泳ぎやすいね。」
レインと笑い合い、私は脱いだワンピースを岩影に畳んで置く。
ちなみに、私の水着はワンピースタイプで、お腹回りを誤魔化すためにスカートがついている。
いや、まだ小学生だしお腹出たりしてないけどね!
あー、でも今日は暑いし、冷たい海水が火照った肌に丁度良い。
ちょっと泳いだらまた皆の様子見に回るつもりなので、今の内にたくさん泳いどかなきゃね。
「あーっ、気持ちいーっ!」
「――……。」
「ん?レイン、どうかした?」
ある程度泳ぎ回って海面から顔を上げたら、レインがじっと私を見ていた。
な、なんだろ。
ハッ、まさか体系チェックされてる!?
「あ、あの、何でそんな見てるの?」
「あっ、ううん、何でも!ただ、フローラの泳ぎが綺麗だったからちょっと驚いちゃって。」
「そ、そう?ありがとう。」
あら、誉められた。
前世でスイミング通ってたからかな。
「王家の方も泳いだりするのね。」
その後、レインが何気なく続けた言葉に苦笑した。
まぁ、私が姫である限りそのイメージは付きまとうよねー。
そう言えば、私が泳ぎたいって言い出した時お父様もお母様も反対しなかったけど、お二人は泳げるのかしら?
「まぁ、せっかく水の国に居るんだから。泳がなきゃ損だしね!」
「うん、そうだね!あ、じゃあ競争でも……あれ?」
「あら、どうかした?」
話していたら、不意にレインが言葉を止めてビーチに上がった。
そして、『クォーツ様が何か言ってるよー!』と私に向かって叫ぶ。
「何かあったのかしら……?」
「行ってみよう!」
確かに、水から上がって耳を澄ませると、離れた位置から切羽詰まったようなクォーツ皇子の声が聞こえてきた。
慌ててそちらに向かって走ると、波しぶきの辺りで足踏みしながら真っ青な顔で海に向かって叫ぶクォーツ皇子が居た。
「クォーツ様!どうされまして!?」
「あっ、フローラ!助けて!!」
「えっ!?」
駆け寄るとクォーツ皇子に肩を掴まれ、海の方に向かされた。
すると、丁度海が深くなる位置辺りにバシャバシャと激しい水しぶきが飛んでいる所が。
そして、その中心には……
「ルビー様……っ!大変!」
「溺れたんだ……!レインは護衛兵に頼んで、直ぐに医師を連れてくるよう手配を!!」
「あっ、フローラ!!」
レインの『畏まりました!』の返事とほぼ同時に海に飛び込んだ。
少し波が高くなってきて泳ぎ辛いけど、出来るだけ無駄な動きをしないようにしながらパニックになっているルビー王女の元まで泳ぐ。
「ルビーっ、大丈夫!?」
「ふ、フローラ、様……。」
パニックになっているのを落ち着かせるのと、口元がちゃんと海面より上に出るように、一度潜って背中側に回ってルビー王女の身体を支える。
もう大分水を飲んでしまっていたようで、私が身体を支えるとすぐにぐったりしてしまった。
「もう、兵達は何やってたのよ……!」
ちゃんと泳げる人達を選んでおいた筈なのに!
とにかく、すぐに浜に上がってルビー王女に処置をしないと!!
「おいっ、大丈夫か!?」
「ーっ!ライト様!!」
ルビー王女の身体を抱えながら泳ごうとしたら、ゴムボートに乗ったライト皇子がこちらにやって来て私達の近くで止まった。
「俺も丁度休むのに浜に上がってたから……。とにかく、ルビーをこっちに!」
「えぇ、お願いします!!」
ライト皇子と、一緒にボートに乗ってきた兵がルビー王女の身体をボートに引っ張りあげてくれる。
よかった、立ち泳ぎで戻るんじゃ時間かかっちゃうもんね。
「おい、お前も早く……」
「私は大丈夫、自力で泳いで戻ります!あまり人数が増えると速度が下がってしまいますから。それより早くルビー様を浜に!!」
「わ、わかった!」
私の指示に、ボートに乗っていた兵達も躊躇いながら浜の方へと漕ぎ出した。
私もそれを追うように、でもぶつからないようにちょっと離れながら泳いで追いかける。
浜に上がると、先にたどり着いていたライト皇子と兵士たちがルビー王女をシートに寝かせていた。
傍らにはレインが呼んできたであろうお医者様と、今にも倒れそうな顔色のクォーツ皇子が居る。
「幸い意識はあるようです。すぐに治療致しましょう。」
「は、はい、お願いします……。」
このお医者様は王家に仕える優秀な方なので、ルビー王女の処置は任せて私達はクォーツ皇子を椅子に座らせる。
「は、離してくれフローラ!ルビーが、ルビーが……!!」
「私が助けに行った時点でも、会話が出来るくらいの体力と意識は残っていました。ルビー様は大丈夫です!」
落ち着かせる為に、何とか座らせたクォーツ皇子の手を両手で握って話しかける。
うわぁ、指先冷たい……!
心配しすぎてクォーツ皇子の方が倒れそうだよ。
「でも……っ」
「このままでは、クォーツ様の方が倒れてしまいそうですわ。そうなってしまった方が、ルビー様のダメージも大きいでしょう?」
「フローラの言う通りだクォーツ、ルビーの状態は俺も見た。会話も出来てたし、大丈夫だ。」
『だから落ち着け』とライト皇子もクォーツ皇子の背中を擦る。
大事な大事な妹だもん、そりゃ心配だよね……。
それにしても……
「一体、何があったんです……?」
「あー、実は……」
ようやく少し落ち着いたクォーツ皇子は、躊躇うように目を伏せてから私達を見上げた。
「実はさ、僕もルビーも、泳いだことない……。って言うか、泳げないんだよね。」
「ーっ!そう、だったんですか……。」
だから、昨日から挙動不審だったんだ。
ライト皇子も知らなかったのか、驚いたように目を見開いている。
「僕たちの国、アースランドに泳ぐ場所はあまり無いし……。“海水浴”なんてことも、今回が初めてなんだ。」
「あー、そうだったのか……。てか、だったら俺とフライに言えば良かったじゃないか。馬鹿だな。」
「ライト様、そんな言い方……!」
抗議しようと立ち上がった私を、クォーツ皇子が手を引いて止めた。
「いいんだ、恥ずかしいからって隠してた僕も悪いんだし。」
それで、クォーツ皇子は泳げないことを勘づかれないように今日一日浜で遊ぶ気で居たらしい。
でも、海自体初めてなルビー王女か白く泡立つ波しぶきに心惹かれ、クォーツ皇子がちょっと飲み物をもらいに行った隙に波打ち際まで行ってしまったらしい。
その上、丁度フライ皇子とフェザー皇子の乗ったクルーザーが戻ってくるタイミングだったから兵士たちのほとんどが桟橋の方に行ってしまっていて、アースランド兄妹から目を離してしまっていたらしい。
そして、初めての海にはしゃいで波打ち際で遊んでいたルビー王女は、引いていく波に足を取られてあれよあれよと流されて先ほどの事態に陥った……と。
話を聞いた私達の間に、気まずい沈黙が流れる。
「なんかごめんね、皆の楽しみ、台無しにしちゃって……。」
「……そんなことないですよ。」
「――……っ!」
涙目で謝るクォーツ皇子が痛々しくて、握りしめた手に少し力を込めた。
「大丈夫です。泳げないなら、浜で遊びましょう!ルビー様もすぐ回復しますし、時間だってまだまだたっぷりあるのですから。」
だから、笑って?
子供は笑顔が一番だよ。
そんな気持ちを込めて微笑みかければ、クォーツ皇子にようやくちょっとだけ笑みが戻った。
「ルビーももう起き上がれるみたいだぜ。フライと兄さんも戻ってくるみたいだし、このあとは浜で遊ぶか!」
『俺の体も、海水でふやけてきた事だし』と、ライト皇子も笑い飛ばす。
なんだ、優しいじゃん。
「ほら、お前もいつまでも暗い顔してねーで元気出せ。ほら、これ見てみろ。」
「えっ?」
「フローラの水着姿だ、笑えるぞ。」
なっ……!!
「ひ……、人を何だと思ってるのよぉぉぉぉぉぉっ!!」
~Ep.27 ビーチの一幕・アースランド兄妹編2~
『やっぱり前言撤回だ!!どこがどう笑えるってのよ!!?』




