Ep.27 ビーチの一幕・アースランド兄妹編1
『ちなみに、パラソルに戻ったらシャーベットはジュースと化していた。』
レインと一緒にビーチに行くと、人見知りのルビー王女がサッとクォーツ皇子の背に隠れてしまった。
あぁ、驚かせてごめんね。
わかるよ、いきなり知らない人と出会うと身構えちゃうその気持ち。
でもこの面子でレインなしになると私がボッチになっちゃうから許してね!
「あれ、レインも来たんだ?」
「はい、フローラ様にご招待頂きまして。お邪魔でしたか?」
「ううん、そんなことないよ!ほらルビー、ご挨拶して。」
王子達の中で唯一レインと面識があるクォーツ皇子が率先して皆の自己紹介を促してくれた。
……でも、ルビー王女はクォーツ皇子から女の子紹介されたらまた嫌がるんじゃないかなぁ……。
――……あれ?
「あ、あの、大地の国“アースランド”より参りました、ルビー・アースランドです。お見知りおきを。」
「はい、はじめましてルビー様。私はミストラルの伯爵家次女、レインと申します。」
意外と平気そうだった。
寧ろ、ルビー王女が真っ先に挨拶をしてた事にちょっと驚きだ。
互いに自己紹介をする少女二人を見て他の王子達も順に自己紹介をし、レインがそれに堂々と答える。
おぉ、子供なのに立派に貴族の世界だ。
私も一応あちら側の世界に居るべき立場な訳だけどね。
「さて、自己紹介も済んだことだし早く遊ぼうか!夜には帰らないといけないからね。」
自己紹介が済むと、フェザー皇子が皆を仕切ってくれる。
皆の地位が地位なので周りには警備の兵士さん達が居てくれてるけど、実際に遊ぶ時の保護者はフェザー皇子だね。
「さてと、何して遊ぼうか?」
「彼方の桟橋にクルーザーが、あとビーチにはビーチバレーのコートがございますわ。」
「クルーザーはいいですね、風が気持ち良さそうです。」
フェザー皇子の振りにそう答えたら、クルーザーにフライ皇子が食い付いた。
でも、それに対してライト皇子が『俺はまず泳ぎたいんだけど。』と呟いた。
「じゃあ、ライトはビーチに居たらいいよ。別に全員一緒に遊ばなきゃいけないわけじゃないし。」
「はい、そうさせてもらいます。」
「決まりですわね。で、クォーツ様、ルビー様、レイン……さんはどうなさいます?」
いけない、危うく呼び捨てにする所だった。
あの信号機達に私の素を知られると先々の事が恐ろしい。
「私はちょっと泳ぎます。クォーツ様とルビー様は……」
「あー、えー、いや、その……」
「く、クォーツ様?」
ちょっと、めっちゃ挙動不審なんだけどどうした!?
「く、クォーツ様、顔色が真っ青ですわ。どうかされましたか?」
「あー、いや、ちょっと暑さにやられちゃったかなぁ。あはははっ!」
――……暑さにやられたんなら、普通顔は赤くなるんじゃないかい?
そんな私の考えが視線に出ていたのか、クォーツは気まずそうに『あー暑いなぁ、僕はパラソルの方で休ませてもらおうかなぁ!』なんて言って皆から離れていってしまった。
「えっと……」
「あ……、私はお兄様についていますから、皆様はお気になさらず遊んできて下さいな。」
私もどうしたらいいかわからなくて周りを見回すと、兄思いのルビー王女がクォーツ皇子を追っていった。
うーん、まぁ皆には自由に遊んでもらって良いにしても、招待してる側の私はそうは行かないよねぇ……。
―――――――――
「フローラ様、本当に乗らないのですか」
「えぇ、フライ様とフェザー様はどうぞ楽しんでいらして下さい。」
クルーザーに乗り込む二人に微笑み、片手を振って見送った。
泳ぐ側のメンバーであるライト皇子とレインは、安全の為に見てくれている兵士たちの目が届く範囲で既に自由に泳いでいる。
「さてと、私は……シャーベットでも用意しよっかな。」
ホントに熱中症だったわけじゃ無いとは思うけど、暑さにやられたなら冷たい物がいいよね。
昨日三種のベリーのシャーベットを用意しておいたので、それを綺麗なガラス製の容器に盛り付けてパラソルに向かう。
「クォーツ様、お具合はいかがですか?」
「うん、大分いいよ。フローラは遊ばないの?」
「えぇ、シャーベットをお持ちいたしましたわ。宜しければいかがですか?」
赤いシャーベットが入ったグラスを手渡すと、クォーツ皇子とルビー王女の瞳が輝いた。
「わぁ、美味しそうだね!ありがとう!!」
「いえいえ。ルビー様も、召し上がって下さい。」
「えぇ、頂きます。あの、これもフローラ様の手作りですか?」
ルビー王女がスプーンでシャーベットを掬いながら、首を傾げて聞いてきた。
「いえ、今回は王家である皆様のお口に入るものですから城の厨房に頼みましたの。」
「そうなんですか……、残念。」
そう言いながら、ルビー王女はシャーベットを口に入れて堪能し出した。
『残念』?『残念』って何が……、あぁ。
「シャーベットが作りたいのなら、今度また一緒に作りましょうか。」
ちょっとガッカリした様子のルビー王女にそう言ったら、パァァァッと効果音がつきそうな笑顔で顔を上げた。
「本当ですか!?」
「えぇ、もちろんですわ。」
これみたいな本格派シャーベットは無理だけど、普通に果物とジュースを使った物なら作れると思う。
「あ、あの、フローラ、その話なんだけどさ……」
「えっ?」
ルビー王女とまたお菓子作りの約束が出来てウキウキしていたら、クォーツ皇子が気まずそうに『ちょっと良い?』と私を引っ張った。
「……?なんですの?」
わざわざルビー王女からちょっと離されて、声が聞かれないくらいの位置まで連れていかれる。
そして、気まずそうにクォーツ皇子が『ルビーの料理は災厄級だから……』と囁いてきた。
その言葉に、あのブラウニーを焼いた日の調理室の惨状が浮かぶ。
多分この言い方だと、クォーツ皇子はルビー王女が一人で作った物を食べたことがあるんだろうな。
今も私の肩に手を置いて、『ホントに大丈夫!?』なんて揺さぶって来てるし。
「大丈夫ですわ。この間のブラウニーもそれなりに食べられたでしょう?」
「う、うん、まぁ……。それなりどころか美味しかったけどさ……。」
「もちろん、一緒に作るときは私がマメに味見しながら仕上げますわ。それでも不安ですか?」
私の言葉に、クォーツ皇子は腕を組んで唸り出してしまった。
……以前ルビー王女が作った料理、一体どんな味だったんだろう……。
まぁクォーツ皇子の気持ちは伝わって来たんだけど、私もせっかく一緒に作ってくれる相手を得られそうなのに失いたくない。
それに、どうせならこの機会にルビー王女ともちゃんと仲良くなりたいしね。
……と、言うことで。
「信じて差し上げたらいかがです?ルビー様はクォーツ様の大事な妹君なのですから。」
“妹”の部分を強調しながらそう言ったら、クォーツ皇子が一瞬目を見開いてからガックリと項垂れた。
「……わかった。妹をよろしくね、フローラ。」
「はい。では戻りましょう、シャーベットが溶けてしまいますわ。」
「あっ、砂浜を走ったら危ないよ!」
クォーツ皇子に背を向けてパラソルに戻るのに走り出したら、後ろからクォーツ皇子も追ってきた。
『危ないよ』と注意しつつ自分も走りだしたクォーツ皇子は、やわらかい砂に足を取られてずっこけていた。
うん、お約束だ。
シャーベットを食べ終わったら、次は泳いでいる二人の様子を見てこようかな。
~Ep.27 ビーチの一幕・アースランド兄妹編1~
『ちなみに、パラソルに戻ったらシャーベットはジュースと化していた。』