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Ep.273.5 風邪の時には安静に

平成最後の日なので、趣味を詰め込んで書き上げました(p^-^)p

番外編に近いですが、お楽しみ頂けたら幸いです♪

  フローラが熱で倒れた。そんな知らせを受けたのは、フローラの部屋に100本分の牛乳パックが届けられてから、わずか半日後の話だった。


「全く何考えてるんですか!上着も着ないで長いこと冷蔵庫に出入りを繰り返していれば温度差で具合を崩して当然です!!」


  ハイネはそう怒りながらも、フローラの寝ているベッドのサイドテーブルにお粥を持ってきてくれた。ちなみに、人間が出入り出来る部屋タイプの冷蔵庫の半分を占める程のプリンを作って尚余った牛乳を使用して作ったミルク粥である。


「わーい、ありがとう!うぅ、でも食欲ない……」


「39度5分も熱があれば当然です。中等科には連絡をしましたから、本日は安静になさってください」


「でもプリンが……」


「あ・ん・せ・い!!」


「はーい……」


  怒られてしまった。大人しく布団に潜るが、眠る気にはなれない。ため息混じりに窓の外を見れば、いいお天気だった。絶好の学園祭準備日和だ。


「イベントまで時間がないのにー……」


「イベント?お祭りでもお行きになるのですか?はい、ホットミルクですよ。はちみつ入れましたから、少しは咳に効くでしょう。それにしてもライト様達は、何故いきなりこんなにも大量の牛乳を……。姫様、理由をご存知ですか?」


「さ、さぁ、なんだろうねぇ?ホットミルク、甘くて美味しいなー」


  三人分合わせると実に100本を超える牛乳のパックが婚約者達から届いたのは、自分の細やかなお胸と聖霊女王様タイターニアさまのメロンを比較してフローラが絶望した翌日の事だ。きっと、乳製品が胸の発育に良いとどこかで情報を得たのだろう。

  が、そんな事ハイネには言えない。と言うか言いたくない。ハイネも女王様に負けず劣らずの立派なメロンをお持ちだから!


(それにしても、このタイミングで寝込むなんて、やっちゃったなぁ。本当に時間無いのに……)


  エドガー、エミリー兄妹を救う要となるイベントがこの中等科で前倒し的に起きるとしたら、その会場となるのらわずか三週間後に迫った学園祭だ。それは間違いない。そこでエミリーの病気を治す資格を得るためには、少なくともエドガーのフローラへの好感度を友好位には上げておかないといけないと言うのに。

  そして、その為のひとつ目の布石としてせっかくプリンも作ったのに。これでは本末転倒である。


「10回目に仕込んだプリンを冷蔵庫にいれた辺りから、寒気が止まらないなとは思ってたのよね……。あの時点で上着を着ておけば良かったわ」


「全くです。まぁ、過ぎたことを言っても仕方がありませんから、もう何も気にせずお休みになってください。発熱だなんて初等科で雪遊びをした日以来ですしね」


「ふふ、そうね。あのときは、雪で作ったお城の中だったのに、ライトが暖炉に火を入れちゃったから、もうあっという間に溶けちゃってー……」


  逃げ遅れたライトと二人で、びしょ濡れになってしまったのだ。結果翌日は寝込んでしまった訳だが、あれも今となっては楽しい思い出である。


「悪かったなぁ、雪の暖炉に火をくべて暖まろうとするような考えなしで」


「ーっ!ライト!!」


  思い出に浸っていたら、不意に聞こえた声に振り返る。いつの間にか、両手に色々抱えたライトが立ってこちらを見ていた。扉をハイネが開けている所を見ると、きちんとノックをしてから入ってきたらしい。自分は気づかなかったけれど。


(ーっ!私寝起きのまんまだ!)


  思わぬ来訪に喜びかけて、はたと気づく。慌てて頭から布団に潜り込むフローラに、ライトは怪訝な顔をし、ハイネがなにかを察したように小さく笑った。


「何だよ、そんなに具合悪いのか?顔も見せないで……」


「だ、大丈夫!大丈夫だから捲らないでーっ!!」


  優しくだが布団をまくろうとしたライトの手を掴む為に、布団の中で軽く髪だけは整えてから顔を出した。そのフローラが着ている見覚えのある深紅のガウンに、ライトがふと笑う。


「風邪の時も着るほど気に入ったのか?天鵞絨の手触りがよっぽど好きなんだな」


「ーー……それだけじゃないもん」


  確かに手触りが良いのはもちろんだが、ライトがくれたものだから着てるのだ。恥ずかしくてとても言えないが。


(でも、全く勘づかれないって言うのは、つまり……)


  “脈がない”とは、こう言うことを言うのでは無いだろうか。そう悶々としているフローラの額に、ライトの掌が優しく触れた。自分の熱が高いせいだろうか、普段は温かい位の筈のその手が、ひんやりとして気持ちがいい。


「まぁ、思ったより元気そうで良かった。仕事のことは心配するな、熱が下がるまではきちんと休むんだぞ。フリードが回復にいい食材と薬持たせてくれたから、あとでハイネから貰うように」


「うん、ありがとう。そうだ、寮の厨房の冷蔵庫に、プリンが入ってるの。もう固まってるはずだから、良かったら持っていってね」


「プリン?」


  そう聞き返したライトが、たった1日で残り一本になった牛乳パックを見て察した。横になっているフローラの胸元に山が無いのは、布団が厚いせいだろうか。それともー……


「いや、飲めよ。何のために贈ったのかわからないだろこれじゃ……」


  ため息混じりに呟いた、それを聞いたフローラがじとーっとライトを見つめる。そして、聞いてみた。


「ーー……やっぱり、ライトも大きい方が好きなんだ?」


  大きな音を立てて、椅子が倒れた。座っていたライトが、動揺して勢いよく立ち上がったからだ。


「え……、はぁ!?馬鹿っ、そんなこと言ってないだろ!俺達はお前が気にしてたから……っ!もういいっ、とにかく寝てろ!」


  一気に真っ赤になったライトの顔が、布団を被せられたせいで見れなくなってしまった。足音が離れていく気配に、むくりとベッドから起き上がる。朝からずっと寝ていたせいか、少し頭がくらくらした。


  動揺して椅子に足をぶつけて悶えているライトは、制服のままだ。鞄からも飛び出した資料が見えているし、本来なら今はまだ仕事をしているべき時間帯……。その合間を縫ってお見舞いに来てくれたのだろう。多分、その分終わらなかった仕事の一部を自室でやることにしてまで。

  ならば、せめてお見送りくらいは礼儀ではなかろうか。そう思って、ふらつく足でベッドから下りようとして、そのままバランスを崩した。滑り落ちるその感覚に、思わず目を瞑る。


「……っ!たく、何してるんだよお前は!」


  しかし、床に落下する前に、異変に気づいて戻ってきたライトに抱き止められた。そのままお姫様抱っこで持ち上げられ、優しくベッドに下ろされる。


「あ、ありがとう。でも、お見送りを……」


「いいから寝てろ。足元安定してないじゃないか。ほら、俺もまっすぐ帰るから」


「でも、ドアまでくらい……」


  何度優しく寝かしつけても、ふらふらの癖に起き上がろうとするフローラ。10回くらい繰り返した辺りで、流石にライトが怒った。少し乱暴な手つきで起こしていた体をベッドに倒され、怒鳴られる。


「はぁ……、いいから寝ろ!いい加減にしないとベッドに縛りつけるぞ!!」


「ーっ!!」


  同時に、ガシャンッと何かが落ちて割れるような音が廊下から聞こえた。主人を見守っていたハイネが音の正体を確めるべく扉を開き、そして横に避ける。扉の向こうに居たのが、部屋に招き入れて良い二人だったから。

  白けた目をした二人が中に入ると、少しだけ花のような甘い香りがした。


「ふぅん、興味ない顔して、病気の女の子にそう言うことする男だったんだ……。最低だね」


「フライ!あ、違うよ、これは……っ、あっ!」


「痛っ!!ちょっ、待てって!誤解だ!!」


  フローラとライトが弁解するより先に、フライがライトの左手を捻り上げる。その好きに、にこやかに微笑んだクォーツがベッド脇に来て、フローラの身体を起こさせてくれる。


「騒がしくしてごめんねー、熱があるって聞いたから、心配で様子を見にきたんだ。あ、これお見舞い。香りに精神を安定させてくれる効果があるハーブを何種類か集めてきたから、使って」


「わぁ、ありがとう!ねぇこれ、何て名前の……、あれ?」


  ハーブと花を混ぜこんだ小さな花束。そのハーブの種類を聞こうとしたが、その前にクォーツももみ合っているライトとフライの方に行ってしまう。


「でも、今一番気を静めないといけないのは君だよねー。ほら、まだまだたくさんあるから、遠慮しないで」


「葉のまま喰えってか!せめてハーブティーにするとか……!!てか苦っ、お前これハーブじゃないだろ!」


「ちょ、クォーツ!?その葉っぱまさかセンブリじゃ……!」


  フライに押さえ込まれたライトの口に、クォーツが如何にも苦そうな青々とした葉っぱを押し込もうとしている。善意と見せかけた悪意100%の笑みで、あまりの苦さに膝をついたライトにクォーツが肩を貸した。


「もう、病人の前で自分まで病人になってどうするのさ。部屋まで送るよ。フライも一緒に行くでしょ?ゆっくり話したいこともあるし」


「あぁ、そうだね。時間もあることだし、じっくり話し合おうじゃないか」


  何故だろう、ライトを挟みながら会話している二人はとっても笑顔なのに恐い。ただただ恐い……。


「じゃあフローラ、また明日ね。お大事に」


「……お大事に」


「う、うん。また明日……」


  クォーツに引きずられていくライトは、正直口が回ってなかった。苦すぎて舌がやられたに違いない。


(あんなんなっちゃって、話し合いなんて出来るのかな……)


  ハラハラしつつも出ていく二人を見送ったフローラの前に、フライが可愛らしい小瓶を差し出す。薄いピンク色の液体の中に、数種類のお花が閉じ込められたそれは、開けるとふんわりいい香りがした。


「ーっ!可愛い!これは……?」


「最近スプリングで流行りの、二本セットで販売されているアロマオイルだよ。アートも兼ねているそうだから、見るだけでも楽しめるでしょう?」


「そうなんだ、素敵ね。……あれ?」


「……はは、驚いて落としてしまってね」


  でも、渡されたのは一本だけだ。首を傾げたフローラを見て、フライがちらりと開け放たれた扉から廊下を見る。そこには、砕けたガラス片と花が散らばっていた。二人が来たときに廊下でしたガラスが割れるような音はあれだったらしい。入室したときの花の香りはあれかと、フローラは納得した。


「ごめんね、破片は片して帰るから」


「いいえ、後片付けは従者の仕事でございます。お任せください」


  フライが言い切るより先に、ハイネが手早く廊下を掃除し始めた。始めこそ手伝おうとしたフライだが、流石に掃除慣れしていない皇子様とプロの侍女ではスキルが違う。

  申し訳ないが任せることにして、『じゃあ失礼するよ』と鞄を肩にかけた。そして、不意に振り返る。


「あれ、どうかし……っ!!?」


  額に柔らかい感触がしたと思ったら、チュッと軽い音が響く。慌てて両手で額を押さえたフローラに、勝ち誇った顔で微笑んだフライが囁いた。


「おやすみ、お姫様。よい夢を」


  口をパクパクさせるだけで何も言えないフローラを他所に、フライはさっさと部屋から撤退することにする。扉を閉めると同時に、病人とは思えない大きな声が響いた。


「なっ、何するのーっっっ!!!」


  閉じた扉に背を預け腕を組んでそれを聞いていたフライが、少しだけ口角を上げる。

  フローラを翻弄するだけ翻弄し、満足げに歩きだしたフライを、掃除を終えて立ち上がったハイネは頭を下げて見送った。その口元の笑みの意味を察しながら。


  自身の恋心さえもて余しているのに、愛されすぎて翻弄される主人は、今夜は額に残るライトの手のひらの感触と、フライの口づけの感覚に揺さぶられ、まともに寝られないだろう。

  次に主人が発熱した時は、見舞いはすべてお断りとした方がよさそうだと、ハイネは一人ため息をつくのだった。


   ~Ep.273.5 風邪の時には安静に~


  翌日、寝不足ながらも復帰したフローラが生徒会室で見たのは、頑なに親友達と目を合わせないライトの姿であったと言う。


『ふ、二人とも、昨日ライトに何したの……?』


『『んー?内緒』』



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