Ep.264 暴走娘とカメラ小僧《前編》
「そう言えば、先週から全然見ないけどフリードさんは?」
いつも通りの生徒会室での仕事中、ふと思い出したようにフローラが言った。ちょっと彼に頼みたいことがあったのだが、ずっと姿を見ないから。
そんなフローラの言葉に反応して、皆もそう言えば……と話にのってくる。それでも仕事の手は誰一人として止めないのだから、優秀なメンバーである。
「あぁ、剣術大会の時に『会場に近づけない』って休暇取ってたんだっけ?いつもはお金を払われたってライトの側から離れないのに、どういう風の吹き回しなんだろうね。あんまり長く仕えてきたから愛想が尽きたのかな」
「えぇっ!?フリードさん辞めちゃったの!?」
「はぁ!?そんな訳ないだろ、ちゃんと戻ってきたさ!先週のケヴィンの連行に同行しに行ったからまた居なくなっただけだ」
「え!?その船が出てからもう一週間経つけど……。ライト、昔はフリードにわがまま放題だったし本当に見限られたんじゃない?」
「クォーツまで……っ!連行中の船でケヴィンが倒れたのを最初に発見したのがあいつだから、事情確認の為に足止めを喰らってるだけだ!! ケヴィンの意識も戻ったらしいし、数日以内には帰るって手紙が来たんだよ!」
『二人してからかいやがって……!』と怒るライトと、『でもフリードならやりかねない』と更に追撃をかける二人。そんなやり取りを見ていて、初めて知った。
「フリードさんて、ライトだけじゃなくてフライやクォーツとも仲良しなんだね」
「ん?まぁね、幼い時から誰よりライトの側に居た人だし、ある意味保護者代わりだったから」
「ライトが昔は短気だったせいでよく『面白いことしろ!』とか要求するものだかは、暇潰し用に練習したって手品とかをよく僕たちにも見せてくれたんだよ。執事としては変わり者だけど、いつもライトや僕達の味方をしてくれてたよね。城の中でボール遊びして壺壊しちゃった時なんか、一時間かからずに同じの用意して誤魔化してくれたし。あれ、どうやったんだろう?」
「あー、アイツは昔からいまいちよくわからない奴だからな。……でもまぁ気にすることない、フリードはいつだって頼りになるからな」
子供にとって、心から信頼して助けを求められる存在と言うものは大きい。
「じゃあフリードさんはライトのヒーローだね!
「ヒーローか……そりゃいいな、戻ったら言ってやってくれよ」
そう笑ったライトの表情は穏やかだ。家族とも、単なる主従とも少し違うけれど、確かな信頼がそこにある。自分から見たハイネみたいな立ち位置なのだろう、と微笑ましい気持ちになったが、同時にフローラが何かやらかす度に鬼のような顔で追いかけ回してくる彼女の姿が頭に浮かんだ。
計算し終えた帳簿を閉じながら、つい呟いてしまう。
「フリードさんと寄りが戻れば、ハイネももうちょっと気が長くなるんじゃないかしら」
途端に、あれだけお喋りしながらも滞りなく仕事を進めていた皆の手が止まった。
全員の視線が、じっとりと自分の方へ向けられる。その意味がわからないほど、フローラはお馬鹿さんではない。
「さーて、職員室に帳簿出してこよーっと」
「……あーあ、行っちゃった。まだ出さなきゃいけない資料が他にあるのに」
「逃げ出したから気づかなかったんだろ、そっちの資料はそこの段ボールにでもまとめといてくれ。ったく、自覚あるなら他力本願で恋人作らせる前にちょっとはおとなしくしてりゃいいのにな」
「根っからいい子なんだけど、いい子過ぎて逆に人助けに暴走するからね~、フローラは」
白々しく飛び出していったフローラの背中を見送って、苦笑いで皇子達が語り合う。そんな三人に、ルビーが微笑みながら言った。
「でも、その優しさがフローラお姉様の魅力ですわ。皆様、ずっとそうして救われてきたのでしょう?」
その言葉に、全員の顔が穏やかな笑みに変わる。
実際そうだ。本人が最初から助けるつもりで手を差し伸べた相手はもちろん、それ以外の……一見すればまるで無関係な人達まで彼女は救い続けている。そう言う星の元に生まれた、とでも言えば良いのだろうか。
だから今日も今日とて、フローラの周りには彼女が何をしてもしなくても、助けを求める者が現れるのだ。多分、ゲームもあまり関係なく。
「……あら、大変」
「うるさい!お前なんかに助けられたくない、どっか行け!!!」
資料を提出しにちょっと廊下に出ただけで、木から宙吊りになった後輩に遭遇するくらいなのだから、間違いない。
そんなお助け娘の辞書に、“助けない”と言う選択肢はないのであった。
~Ep.264 暴走娘とカメラ小僧《前編》~
『ねぇ、資料しまおうと思ったこの段ボール、平仮名で“ぱんどら”とか書いてあるんだけど何?開けたら不幸でも飛び出すの?』
『あー……、気にするな。中身はさっきもう資料出しにでていったから』




