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Ep.256 聖なる剣を継ぐ者は

  爆発的に瞬いた激しいその閃光は、恐怖で瞳を閉じていても不思議とわかって。


  身構えていた衝撃と痛みの代わりに辺りに響いた金属音に、そっと顔を上げたそこでは、あまりに幻想的なことが起こっていた。


  ライトがフローラを護るべく鞘から引き抜いたそれには、刃が無かった。そう、それが過去形であるべきだと、この光景を見れば誰もがそう理解しただろう。


  最早人間の動きを超えた力でケヴィンが振り回す漆黒の剣に、一歩も引かずライトが操るそれは、最初はただの輝く棒切れに近かった。

  しかし、剣と剣が打ち合う度稲妻が弾け、少しずつ、光の粒子が集まり一本の形となっていく。


  その刃から柄まで純白に輝きし、聖霊の王が授けた剣。その刃は今、確かに蘇った。


  誰もがその光に見とれる中、ケヴィンだけが発狂して更に激しくライトに切りかかる。


「止めろ……、その目障りな光を止めろ!!!」


  重なりあった白と黒の剣が、激しい爆風を巻き起こす。


  実力ではライトが勝るはずだが、剣の方がまだ完全ではないからだろうか。離れて見ているフローラ達の目には、少々ライトが圧されているように見えた。


「おっと!」


「ーっ!ライト、大丈夫!?」


「あぁ、大丈夫だ!でも参ったな、折角刃が出ても柄がこれだけ古いんじゃ打ち合いには……」


  大きく振りかぶったケヴィンの攻撃をかわしたライトが宙で一転してフローラの真横に降り立ち、剣の柄を指先でなぞる。激しい打ち合いの衝撃で表面がひび割れたその柄に両手をかざすフローラの前に、ライトが庇うように立ちつつ首を傾げた。


「おい、何する気だ?」


  怪訝な様子のライトに、微笑む。

  自分は、戦う強さを持っていない。結局今だって、皆に守られてばかりだけど。


(私にだって、私にしか出来ないことがある)


  聖霊王の力を源にした武器なら、聖霊の巫女である自分の手で直せる筈だ。そう、指輪に魔力を込めた。それに呼応して、ライトが手にしているエクレールを包むように、金色の糸が宙に陣を描き出す。


「言ったでしょ?私も守られるだけじゃなくて、私に出来ることをしたいの」


「……!そうだな、頼む」


  巫女の力は癒しの力。何をする気か理解したライトも、手にしていたそれを彼女に預けた。


  光の陣に導かれ、剣がふわりと宙へ浮かんだ。

  フローラの手元から広がったその魔方陣は、幾重にも繊細な模様が重なっていて。ひとつひとつは全く違う個性をもつそれらが合わさったその姿は、まるでひとつの大輪の花のようで。


  その金色の華は一度聖なる剣を包み込み、やがて蕾が花開くようにゆっくりと広がり、消えていった。


  音もなく手に降りてきたその剣を受け止めたライトに、フローラが穏やかに訪ねる。


「これで戦えそう?」


  ひび割れた柄も、外れた宝石も、長きに渡る封印で若干黒ずんでいたそれは、今かつての輝きを取り戻した。新たな巫女の力と、かつての主の血を継ぐ者の覚悟によって。


  その光に、浮き彫りになる。欲に溺れた哀れな青年を操る、銀の瞳の男の姿が。


  ライトが2人分の悪しき影に向かい、その聖なる剣を構える。


  一歩後ろに下がったフローラが、ケヴィンに取り上げられていた自分の荷物からひとつの鏡を取り出し、ライトの方へと向けた。魔力で作られた水鏡を通して、誰が光か、皆に知ってもらう為に。


  恐れを滲ませ顔を歪ませ、ケヴィンが、一歩後ずさる。


「わ、私を切り殺すつもりか?馬鹿馬鹿しい、私がしたのはちょっとした火遊びだ。優れた者には下の者を自由にする権利がある。自分の権利を好きに使って何が悪い!!」


  あまりに身勝手な理論を口早に捲し立てるその姿は、醜い。


(……なんだか、可哀想な人)


  きっと彼には、自分以外に大切なものが何一つないのだろう。かつて前世のフローラを虐げた、孤独なあの子のように。


  フローラ同様、ケヴィンの叫びに一瞬だけ気の毒そうな顔をしたライトだが、構えた剣は下ろさずに、ハッキリと言い放った。


「会長、貴方には護る者が一人も居ない。己の為なら全てを食らい尽くすその貪欲な心は、いつか何の罪もない他の生徒達をも餌にするだろう。これ以上、野放しには出来ない!


  その凛とした声音に、迷いも躊躇いも何もない。本当は、大事な者を傷つけた、その者達を男としてライトは許せない。けれど、殺してはならないと、もう一人の自分が訴えるから。何よりも……


(命を奪うような愚か者になって、幻滅されるのは御免だしな)


  視線の端で一瞬だけ、背後に立つ彼女をライトが見た。小さく息をつき、剣を握る両手に力を込めた。


  白く輝くその刃で、その闇だけを切り裂くよう、ライトが天からケヴィンに向かいその刃を振り下ろす。

  瞬間、パキンとなにかが割れるような音と同時に、倒れ込むケヴィンの体から黒き靄が一気にあふれ出た。驚いたライトが咄嗟に飛び退こうとするが、絡み付いてくるそれに腕を取られる。


「なっ……!?」


  それは人の形をなし、ライトの腕を掴み何かを囁いた。その後、風に拐われ消え去ったそれは天へと溶けて行方を眩ます。


「……っ、ライト!!!」


  その直後、闇を切り裂き勝利したはずのライトの身体が、ぐらりと傾ぐ。


  倒したと同時に消えた拘束から解放された2人と、他ならぬフローラの前で、その身体は力なくボロボロの床に崩れ落ちた。



   ~Ep.256 聖なる剣を継ぐ者は~




  

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