Ep.254.5 姿無き協力者
フローラの魔力を道標に追いかけている途中、息を切らしたフライと階段で鉢合わせた。
「うわっ……!」
「ーっ!おいっ、大丈夫かよ?」
「……あぁ、ありがとう。それより行くよ、フローラを探してるんでしょ!」
「ーっ!居場所わかるのかよ!?」
「わかるから呼んでるんでしょ。鉢合わせたから連れていくけど、来ないなら容赦なく置いていくからね!!」
助ける為に腕を掴んでいたライトの手を振り払ったフライが目指す先は、ライトの部屋から二階程離れたケヴィン会長の控え室。それを見て、ライトがストップをかける。
「待てよ、俺ついさっき確認したけど、ここはもう空だったぞ?」
「そう思うなら、この扉開けてみなよ」
言われるまま、先程と同じようにドアノブを回してみる。
さっきは掃除の為に扉自体開け放たれていたので、何の抵抗もなく開いた。しかし、今は……
「……開かないな」
ノブを回しても開かない。鍵穴に予備鍵を差し込んでも、右にも左にも回らなかった。掴んでいるドアノブは、氷のように冷たい。ただ、中からは物音すらしなかった。
「……ライト、退いて」
「え?うわっ!!!」
振り向くと同時に、飛んできた鎌鼬に飛び退いた。
当たれば確実に瀕死になりそうな鋭いそれが、轟音と共に扉にぶち当たる。
舞い上がったほこりに口元を押さえつつ、叫んだ。
「いきなり何するんだ、危ないだろ!」
「そんなことより、見てみなよあの扉」
飄々とした態度で言われ、怒りを押さえつつ扉を見る。そして、フライの目的を理解した。
「……傷ひとつ付かない。結界の類いか!」
通りで中の様子がわからないわけだと、無傷の扉に自分も炎を放つ。
容赦なく放ったその業火も、一瞬揺らめいた扉に呑まれて消え去る。
思わず舌を鳴らしかけて、背筋が凍った。
扉から漏れ出てきた冷気のせいじゃない。歪んだ扉のその先で、服を引き裂かれ泣いているその姿が見えたからだ。
『ライト、助けて!!』
それまで聞こえなかった筈の扉の向こうの声が、それだけは、ハッキリと聞こえた気がした。
瞬間、胸を突くのは、あいつを組み敷いているその男を殺してやりたい程の激情と、鋭い剣か何かで貫かれたような胸の痛みで。
「あの男……!!!あっ、ちょっとライト!ドアノブなんか回したって……っ!?」
同じように怒りに震えて結界を破こうとし、魔力を使いすぎたフライを押し退けて扉を押す。そんな自分を見ていたフライが息を飲む音が聞こえたが、振り返らなかった。
冷えきっているドアノブを掴むその手から、一瞬、痺れるような感触が流れて。
『力を貸すよ、今回だけ。……同じ悲劇を、二度と繰り返さぬように』
優しい声に押される様に、扉がゆっくりと開きだす。次の瞬間には、業火と竜巻が男の穢らわしい身体を吹き飛ばした。
喧嘩の後悔も怒りも無く、フライと同時に腕に落ちたその身体が温かいことに安堵する。己の瞳からこぼれ落ちた涙は、拭おうとすら思わなかった。
~Ep.254.5 姿無き協力者~
『その清く正しき力は、死して尚若人達を導く』




