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Ep.252 不満は口でいってよね

  準決勝第一試合の開始は、午前8時。疎らに人も集まりだした会場の喧騒に紛れて、第二試合の控え室に現れたのは、正直意外な人物だった。


「クォーツ、居る!?」


「レイン!どうしたのいきなり」


「ちょっと緊急事態で……あ、フライ様、ごきげんよう」


「やぁ、久しぶりなのに騒がしい登場だね。どうしたの?」


  この後一緒に試合をする自分とフライが一緒なことに一瞬怯んだレインだが、すぐに気を取り直して姿勢を正した。その表情が侍女の顔だったので、フローラ絡みだろうと察して然り気無く扉の前に立った所でレインが告げたのは、予想通りの事だった。


「お二人とも、落ち着いて聞いてください。……魔族の封印の剣について調べる為に大会参加者の寮へ潜入していたフローラが、行方をくらませました」


「……っ!」


「フライ、レインが落ち着いて聞けって言ったでしょ」


  その言葉に顔色を変え立ち上がったフライが飛び出して行かないように扉を押さえる。

  道を遮られたフライが、作り笑いもかなぐり捨てた冷たい目で『どけよ』と呟いた。


「退かないよ。今飛び出したって、どこ探したらいいかわからないでしょう?」


  出来るだけ穏やかに語る自分から顔を逸らすフライに、余裕は一切見られない。とても不思議な気分だ。自分だって、フローラが心配だし、探しに飛び出したい気持ちもあるのに。誰かに優しくなだめられているみたいに、思考が段々と落ち着いていく。


「レイン、フローラが潜入した経緯や詳しい目的は後で聞くけど、居なくなったとわかったのはどうして?」


「これよ。以前聖霊の森へ言った際に、フライ様が対象者の大体の居場所を魔力で検知出来るセンサーを下さったでしょう。それを改良したものなんだけど、30分程前に、寮内の地図からフローラの魔力反応が消えたわ」


「……それは、彼女が魔力を遮断する何かの中に閉じ込められたか、完全に魔力を使い果たしたかのどちらかだろうね。場所はわかった、探しに行くからそこをどいて」


「……いや、退かない」


「……っ!?」


  閉じた扉に体重をかけて寄りかかり、腕を組んだ。


  30分前、大会管理を任せた先生方を慌てさせた、彼の棄権の理由がわかったからだ。


「ライトが棄権するのしないのって話になったのは多分、ライトがフローラを探しに行ったから。だとしたら、これもケヴィン会長の罠だと思わない?」


「だったら何?そうだとしたら尚更急がないとまずいんじゃないの?」


  切羽詰まった様子のフライの言葉に、首を振る。

  真正面の窓から見える闘技場を見据え、腰にかけていた刀に触れた。


「どんな目的にせよ、この罠でフローラは“餌”に使われたんだ。ライトが追いかけていっちゃったのはまぁ仕方ないにせよ、全員で餌に飛び付いたってまとめて釣られるだけだよ。僕らだけでもちゃんと試合に出なきゃ、またフローラが原因だと根も葉もない悪評の元になる」


  フライが口元に手を当て、押し黙った。一理ある、と思ってるんだろう。


「せっかく三人居るんだから、役割は分担した方が良くない?ライトに棄権なんて、僕はさせないよ」


「じゃあどうする気?」


「第一試合と第二試合の順番を入れ換える。僕らの試合の時に、会場をすぐには使い物にならないくらいにすれば、そもそも試合自体出来なくなるでしょ?」


「……まぁ、いいんじゃない。でも、それって本気だしても文句は言わないってことだね?」


  クォーツが勝ち気に笑うのを見て、レインは苦笑し、フライは『勝負自体は手加減しないけど』とうなずく。

  自分の能力が地形を操れる事に、今日ほど感謝した日はない。


  して、急遽繰り上げられた準決勝第二試合。フライ・スプリング対クォーツ・アースランドの試合は……


「フライさん、竜巻は……!いくらなんでも、建物ごと浮かせるレベルの竜巻は無いんじゃないですかね!?」


「だって君が本気だせって言ったんじゃない。要望通りでしょ?さ、勝ったから僕行くね、後五分もしたら竜巻それ消えるから」


  会場ごと巻き込んだ巨大なハリケーンに巻き上げられたクォーツが場外まで飛ばされ、置き去りにされると言う異例の終わりかたをしたのであった。探しにいくのを引き留めたのが、余程気に入らなかったのだろうが……


「ほんっと君、そう言うとこだよ……!」


  せめて口での喧嘩に納めるべきだった。そんな後悔と共に、飛ばされていくクォーツだった。


    ~Ep.252 不満は口でいってよね~



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