Ep.251 太陽を遮る者達
会長視点で本編のちょっと前の話になりますが、まぁ会長が気色悪いです(´・ω・`)
閲覧注意でお願いします^^;
準決勝前日は、“会場整備の為”と言う名目で、1日休みを与えられた。
「何が休暇だ馬鹿馬鹿しい!生まれだけでその地位を得た生意気な青二才が偉そうに!!」
折角自分が彼等に経験を積ませる為に色々と“やらせてやっていた”と言うのに、ここ数ヵ月間、周りの目はすっかり自分が奴等に仕事を“押し付けている”という非難的なものに変わった。それもこれも皆あの女のせいだと、気を和らげる為にと部屋に飾られた花瓶を壁に叩きつけた。
「どうしたの?すーっごい音したわよ、ケヴィン」
「ーっ!マリンじゃないか、何故ここに!?」
「何って、明日は決勝でしょ?応援に来たの!!」
窓から使い魔の黒猫に抱えられ現れたその姿に気分が浮上する。が、抱き締めようとしたらするりとかわされた。自分からは頬へのキスや腕組みなど積極的な割りに、こちらからされるのは恥ずかしいのだと目を伏せる愛らしさ。彼女は自分が守らなければならない、あんな青二才どもに渡して堪るものか。
「会いに来てくれたんだな、嬉しいよ!しかし、女性禁止の寮なのにどうやったんだい?」
「ふふ、内緒!女の子の秘密を探るなんて駄目よ」
ひらりと彼女が身を翻すと、ただでさえ短いスカートからすらりと伸びた白い足が隙間から顔を覗かせ自分を誘惑するが、その衝動は手を強く握りしめて押さえ込んだ。
『お嫁さんになるまでは綺麗な身体がいいの』なんて天使のような事を愛らしく言われたのはいつだったか忘れたが、そんな清らかな私の天使をそう簡単に汚してはつまらない。
何、我ながら容姿も地位も、能力だって充分だ。使い捨ての使用人女たちを釣る餌などいくらでもある。“その時”が来るまでは代用品で渇きを満たせば良いと、大会用にと急遽作られたこの寮の侍女で発散した。まぁ一夜相手にされたからと言って、この私と釣り合うなどと思われては困るが、見た目のレベルはなかなかで暇潰し程度には楽しめた。あの青二才達の仕事を、初めて褒めてやっても良いと思う位には。
本当はもう一人、非常に良い声で鳴きそうな子猫が居たのだが、そのメイドだけは何故だか毎晩行方を眩ますらしく捕まらなかった。味見位したかったが、残念だ。
「ケヴィン、この宝石綺麗ね!どうしたの?」
「あぁ、父が婚約者の両親が、彼女の扱いについてお怒りだから詫びとして一筆したためて彼女に送れと無理矢理押し付けて来たんだよ。元はと言えば私の心が彼女から離れたのだって、彼女の資質の悪さ故なのに、全く迷惑な話だ。その宝石だって、あの女には勿体ない。欲しいのなら君にあげよう」
「わぁ、ありがとう!でも婚約者って、メリッサ先輩よね?私、一回あの人に“ケヴィンに近づかないで”ってすごい剣幕で言われたことあるの。恐かったわ……!」
「何だと!?あれだけ人を小馬鹿にしておきながら、未練がましい悋気で君を攻撃するなんて!全く、あんな性悪女が私の婚約者だとは、嘆かわしい……、ーっ!」
肩を抱き寄せ謝るケヴィンの手に、マリンがそっとその手を重ねた。驚くケヴィンを上目遣いで見上げ、猫なで声で囁く。それは、欲で理性を溺れさせる悪魔の囁きだ。
「大丈夫、ケヴィンには私がついてるわ!この大会で一番になって力を見せつけて、あんな傲慢なこっわ~い人はケヴィンに相応しくないって追い出しちゃえばいいのよ!」
「……そうしたら、君は私のものになってくれるのかな?」
「うふふ、どうかしら?鳥はね、空で自由に羽ばたいてる時が一番美しいのよ。私も、自由に生きるわ。欲しいなら捕まえるんじゃなく、私が貴方を欲しくなるくらい魅力的になって?」
「……やれやれ、私の天使は手強いな」
「やだ、天使だなんて!私は普通の女の子よ。本当なら、貴方の隣に居るのも相応しくないんだわ、あの方だって、そう言ったもの」
遠い眼差しをしてマリンが呟いたその言葉に驚いた。肩を掴み、誰が言ったのかと問いただすと、その愛らしい瞳が先程叩き割った花瓶から飛び散った花に向く。自分達の周りで、花にまつわる名前の女など、一人しか居ない……。
「フローラ・ミストラルか!権力を笠に着せてそのような……っ、程度が知れるな!容姿だけの女に騙されて、あの三人もそこだけは同情するよ」
「そんなことないわ、庶民なのにケヴィンや皆の愛に甘えてる私が悪いの。だから私は良いわ、でも、ライト様達本当に可哀想。どうにかしてあげたいわ」
「……君は優しいな。しかし、悪女に唆されたとしても、罪無き我々に刃を向けてきた時点で彼等も愚か者だ。罰を受けなくてはならない」
「うん……そうよね、ケヴィンがそう言うなら間違いないわ。フローラ様も、ケヴィンにひどいことしたんだから、やり返されたって仕方ないわよね」
そうだ、自分はいつだって正しい。そして、それを自分の未熟さ故に認めずに反発してくるあの三人の皇子や塵のような婚約者と違い、真っ直ぐ私の目を見て頷いてくるマリンは、本当に純真で素直な、素晴らしい女性だと思った。
「私、明日は貴方に絶対勝って欲しいの。だからこれを使って?」
「これは?……どうやら、刃の部分が初めから無いようだが」
「えぇ、そうよ。その剣は普段、柄しかないの。ただ、真に正しき持ち主が使うとき、素晴らしい名剣になるらしいわ。これを、ライト様に明日使って頂いたら良いと思うの!」
「……!しかし、それは流石に……」
卑怯がすぎると渋るケヴィンの腕にしなだれかかるマリンが、『これは不正とは言わないわ』と笑う。
「だって、いくら候補の中に紛れ込ませたとしても、最後に使う剣を選ぶのはライト様だもの。それに、ライト様が選ばれし者ならちゃんと使えるんだから、使えなかったとしてもケヴィンじゃなくライト様が悪いのよ!」
本当は、“それが確実に選ばれるようになっている”事など知らないふりをして純粋に語るマリンに、ケヴィンも段々と悪くない手な気がしてきた。正直、明日の勝利については少々自信も無かったので尚更だろう。
母の死と義母の不妊による“唯一の跡取り”と言う立場に磨かれたその力、ハッキリ言って人間の粋を超えている。そもそも、向こうだって今回は私の名を語ってこのリコールを仕組んだ。ならば、こちらも別に真っ向から相手をしてやることはない。
「……わかった、ありがたくいただこう」
受けとると、握りしめた柄から一瞬身体を気だるさが襲った。ぐらりと薄暗く歪む視界によろけた自分を支え、マリンが笑顔のまま言った。
「ノアが言うには、ケヴィンが一番素晴らしいらしいの。明日は頑張って、あの女を穢して、ライト様達から切り離してね?愛しの操人形様!」
彼女がなんと言ったのか、ぼやけた意識ではハッキリとはわからなくて。ただ、“あの女を穢せ”と言うその囁きだけが、痺れた脳の奥に染み込んで行った。
古びた柄に収まったまま主を探す焔の宝珠の揺らめきは、古の闇に呑まれてくすんだ。
~Ep.251 太陽を遮る者達~
『その暗雲が隠し足るは、世界を救いし英雄の焔』




