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Ep.224 女子会の情報は情報屋に負けない

  アイナの屋敷は地方に在る為か、普通の男爵家よりは広いらしい。だからきちんと1人一部屋割り振られた筈なのだが、何故だか夕食後のこの時間、フローラの部屋にはルビー、レインに加えてアイナまで訪ねて来てちょっとした女子会状態となっていた。


「あの、フローラ様って結局お三方のどなたにも恋慕の情はお持ちで無いのでしょうか?」


「ーっ!!?」


「あーあ、クッキー粉々……。これはもう食べられないね」


「ご、ごめん、びっくりしちゃって……。アイナちゃん、いきなりどうしたの?」


  摘まもうとしていたクッキーを握りつぶしてしまった右手を拭きつつ聞き返すフローラに、アイナがズイッと詰め寄った。


「だって、今日一日を通して見ていると、皆様が大変親しいのはわかるのですが、何というか、その……」


「“家族的な仲の良さ”って感じよね。実際のところ、どうなの?」


「ーっ!そうですわ!好みの方の理想が有るのならばそれも是非!!」


「ど、どうって……皆してどうしたの?それにアイナちゃん、そのお三方の中にもれなくクォーツが入って来ちゃうけど良いの!?」


「良いんです、もう吹っ切れました!……勝ち目が無いこともわかりましたし」


  最後の方はよく聞き取れなかったが、確かに今日のアイナはクォーツにも至って普通に接していた。あの夜会でクォーツと一曲踊って寮まで送ってもらい、いい思い出として切り替えることが出来たと言うことだろうか。


  何にせよ、見つめてくる皆の眼差しが興味津々で逃げられそうにない。いい機会だからと、少し考えては見たけれど。


「……ごめん、まだよくわからないや」


  ずっと、嫌われる場所に居るのが当たり前であったからだろうか。

  自分が誰かからそう言う意味で好かれたり、逆に好きになったりする姿が、どうにも上手く想像出来なかった。


「あんなに素敵な方々がお揃いなのに……。ときめいたりする出来事とか無かったんですか!?」


「えぇっ!?ま、まぁ、そうだね。フライとか、あとライトにドキドキしたことはあるといえばあるけど……」


「わぁ!どんなときにですか!?そもそも皆さんとの出会いは!?三人の中ならどの方が一番お好みですか!!?」


「わぁ、予想外にグイグイ来るこの子!!!」


「お兄様……!なんてこと、これは呑気に構えている場合ではございませんわね!!」


  予想外だが、アイナはかなりの恋ばな好きらしい。グイグイ来られて困っていると、レインが『まぁまぁその辺で』とアイナを離してくれた。……が、その眼差しが生暖かい。

  ルビーはルビーで隅っこで何かブツブツ言っていて怖いし、2人の生暖かい視線も気恥ずかしいしで、『もうっ、この話はおしまい!!!』と布団の中に逃げ込んだ。


「ふふふ、フローラ様はまだ純情なんですね。反応がお可愛らしいです」


  アイナのその言葉にうんうんと頷き、ルビーとレインも同意している。

  そんな気配を感じながら、薄暗い布団の中で今までにドキドキした場面を頭の中で思い返してみる。


  出会ってすぐに手の甲にキスされたり、さりげなく抱き寄せられたり、耳元で囁くように甘いセリフを言われたり。

  先日の夜会で最後にライトと踊った記憶を除けば、全体的に自分の心臓が忙しなくなるのはフライと一緒に居るときが多いような気がする。


(いや、でもこれは私が男の子に慣れてないだけのような気も……)


  そもそも、フライに感じるあのドキドキと、あの夜会の日の感覚では何か違うのか。考えてみても、それすらよくわからなかった。


「でも実際、どの方と結ばれてもきっとお幸せですよね」


「あら!お兄様以上の優良物件は居なくてよ?ライトお兄様はまだまだお子さまですし、フライお兄様なんて、本心が読めなくて二人で居ても安らげなそうですわ」


「まぁ、そうかもね。一緒に居て安心出来るのは、彼の一番の魅力かも」


  ルビーの兄自慢にレインも乗った。ここの女性陣は、全体的にクォーツに一番好意的だ。

  ルビーは実の妹だし、アイナはクォーツに惚れていたし、レインはあの三人の中ではクォーツが一番親しいだろうし。

  当たり前と言えば当たり前なんだが、比較されるようなその物言いに、少しだけモヤっとした。しかし、そのモヤは次のレインの言葉に吹き飛ばされていった。


「そう言えば、ライト様って一般生徒の間では恐いって有名らしいわよ」


「ーっ!(恐いって、ライトが……?)」


「あぁ、私もそう思ってました!剣技の授業中とか、会議の場とかでも日常でもあまり微笑まれず、かつ魔力と腕っぷしがお強いので、男子の間では尊敬を集めると同時に畏怖されているとか。でも、お話してみたら全然噂と違いましたね!全然恐くなかったです」


「……見た目が良いって便利ですわね」


  テンション高めに語るアイナの話を、ルビーが見も蓋もなくそう締めくくった。

  意外な噂だが、確かにライト怒ると恐いもんなー……などと呑気に考えていたフローラの耳に、更なる意外な情報が届く。


「そう言えば、ライト様は女子生徒の間では“恋愛嫌い”で有名なんだとか」


「……っ!それ、どう言うこと……?」


「あ、冬ごもりから出てきた」


  茶化すレインをスルーして、アイナにもう一度どう言うことか聞く。


「私も詳しくは知らないんですが、愛や恋をテーマにしたロマンス小説や、恋だけにかまけて仕事を疎かにするような者に異常なまでの嫌悪感があられるとか。でも、こちらもただの誤解かも知れませんね」


「ライトお兄様でしょう?嫌いと言うよりは、そう言ったロマンチックな世界は性に合わないのかもしれませんわ。ね、フローラお姉様!」


「……うん、そうだね」


  ルビーの言い分は確かに一理ある。ライトの性格は、現代っ子にしたら『色恋より男友達が大事』なタイプになりそうだとはフローラも思っている。


  だけど、理由はわからないが、嫌に心がざわついた。


  気分を変えようと窓から庭に視線を写すと、雨の上がった庭の中央に一本だけ、葉も花も何もついていない大きな木が生えていることに気づく。


「……ねぇアイナちゃん。あの木は何?」


  思わず指差してそう聞くと、アイナはほんの少し目を伏せて『母の桜です』と答えた。


「“”母の桜”?」


「はい。母が生前一番好きだった木で、亡くなったあとにあの木の土に少しだけ遺骨を巻いたそうなんですが……私が物心つく前には、枯れて花をつけなくなってしまって」


  『でも諦めきれずに、ずっとあそこにあるままにしているんです』と言ったアイナがあまりに切なくて、何となく皆黙りこんでしまう。


「……あっ!そうだ。フローラ様、お土産本当にこれで良かったんですか?」


  そんな空気を変えようと、アイナが父がフローラに譲ったそれを手に取った。


  白銀製のスタンドに、宝石が散りばめられた枠がついたそれは、かつては鏡の役割を持っていたようだが……今となっては鏡面は無く、ただの枠つきの置物になっていた。


「うん、鏡を張り直せば使えると思うから。叔父様にも、もう一度ありがとうございましたってお伝えしておいて?」


  しかし、どれでも好きなものを選べと言われた際、フローラは無性にこれに心惹かれたのだ。


「そうですか。確かに、綺麗ですよね。使えるようになったら見せてください!」


「うん、約束ね」


  和やかな空気に戻り、アイナと皆と笑い合う。


  鏡のすぐ横に置いた水差しの水が、風もないのに波打ったことには、その場の誰も気づかなかった。



   ~Ep.224 女子会の情報は情報屋に負けない~





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