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Ep.21 使い魔


『それにしても、使い魔って実は凄いよね。』




ルビー王女との森での密会を始めてから早一週間。

今日は日曜日なので、私は早朝から仔リスちゃん達に会いに校内の森を訪れていた。


「しっかしまぁ、フローラは動物が好きだよねぇ。」


「あら、だって可愛いじゃない。」



私がそう答えると、ブランが頬を膨らませた。


「もちろん、ブランも可愛いわよ?」


「……ふんっ。」




あらら、拗ねちゃった。

あの日、部屋に戻ってすぐにブランに事情を話したし、あの森に通ったり真犯人探しをしながら、あいた時間にブランを目一杯構ってたんだけど……。

どうにもブランはまだご機嫌ななめだ。



……ちょっと酷いかもしれないけど、正直嬉しい。

ヤキモチを焼いてくれるって事は、その分慕ってくれてるって事だもんね。


今も、『おいで?』と広げた手に、不機嫌な顔をしつつも抱きついて来ている。

可愛いなぁもう。




頭の上と肩には仔リス達、そして腕の中にはブランを抱えて至福の一時を味わっていたら、不意に後ろでパキッと言う枝が折れるような音がした。


「あらルビー様、ごきげんよう。」


「……ご、ごきげんよう。」


当たり前だけど、後ろに居たのはルビー王女だった。

いつもは大抵ルビー王女の方が先に森に来ていたので、先に私が居てちょっと驚いたみたいだ。



「……あの、フローラ……様。」


「はい?」



ここでよく会うようになってから、ルビー王女はそれなりにお姫様らしい口調で話すようになった。

まだちょっと不馴れなのか、躊躇いがちに私の名前を様付けで呼びながら、ルビー王女はブランの方に顔を向けた。


「あの、その猫は……?」


「あぁ、私のお友達のブランですわ。」


「はじめまして、ルビー様!」



ブランが背中の羽を使い、クルンッと一回転してルビー王女の前に出て挨拶する。


ブランが人間の言葉を話し、背中に翼を生やして飛んでいるその姿を見て、ルビー王女は『あぁ……』と納得したような顔をした。




「使い魔、ですか?」


「えぇ。六歳になってすぐの頃に、家庭教師の先生に魔法陣を習って契約しましたの。この子が、私の一番の友達ですわ。」


「ーっ!」


笑顔でそう答えたら、ブランがつぶらな瞳を大きく見開いてから、私に抱きついてきた。

ふふ、可愛い。




「……ルビー様、どうかされまして?」


私とブランのやり取りを聞いたルビー王女が、きょとんとした顔でこっちを見つめていた。


何だろう、使い魔持ちってそんなおかしい事じゃないよね?

ほら、“恋の行く道”の主人公(ヒロイン)のマリンも高等科に入ってすぐに召喚して、可愛い使い魔連れてたし。


ちなみに、ゲーム内のヒロインの使い魔は攻略のサポートキャラクターだった。

放課後や休日に寮の自室で使い魔キャラに話しかけると、自分のプレイ次第で増えた各攻略キャラクター達の情報と、主人公(ヒロイン)への好感度(友情度/愛情度)を教えてくれるのだ。



――……なんて話は置いといて、だからルビー王女は何を驚いて居るのかしら?


「あ、いえ、使い魔との契約は普通どんなに早くても十歳以上になってからだと聞いていましたので……。」


「えっ、そうなの!?」


「ーっ!?は、はい……。」


あっ、ビックリしてつい素の口調が出ちゃった。


ルビー王女が怪訝そうな顔してるわ。うん、驚かせてごめんね。



まぁでも、『何歳じゃないと契約しちゃいけない』なんて決まりは無いみたいだし、良いよね別に。

その後、ルビー王女から使い魔の事を色々聞きつつ数十分くらいまったりと過ごした。


朝の森の空気は気持ちがいいねぇ。










―――――――――

「それで、何か手がかりは見つかりまして?」




ルビー王女がブランのお腹を撫でながら、私に気まずそうに聞いた。

うーん、残念ながら成果はないのよね……。



実はあの日以降、私の持ち物に危害を加えられるようになってしまったので、靴箱、ロッカー、更には教室の机の引き出しまで鍵つきの物にして、いつの間にか騒ぎを耳にしていたハイネが気づかれないように監視までしてくれてるけど、まだ犯人らしき人物の姿はまるで見えてない。




「そうですか……。」


「ごめんなさい。偉そうな事を言っておきながら、まるで手がかりすら見つからないなんて……。」


私が謝ると、ルビー王女は静かに首を横に振った。




「フローラ様のせいではありません。元はと言えば……」


ルビー王女が目を伏せる。

その綺麗な赤い瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。



「本当は、わかっていたんです。私のワガママが、周りや大好きなお兄様に、ご迷惑をかけている事を。」




「ルビー様……。」


「でも、お兄様が離れていってしまうんじゃないかと思うとどうしても不安で……っ!」



そう言うと、ルビー王女は何かが切れたようにボロボロと涙をこぼし始めた。


彼女の膝に乗っていたブランが、驚いたようにルビー王女の顔を見上げる。

私は、隣に座るルビー王女との距離を少しだけ縮めた。



ルビー王女は泣きながら、『失礼な事を言ってごめんなさい』と私にも謝っている。

いや、あんなの痛くも痒くもないから全然いいのに。




「……寂しかったんだね。」


「――……っ!」



泣きじゃくるルビー王女にどうしてあげたらいいかわからなくて、とりあえずその震える手に私の手を重ねる。


「フローラ、様……。」


「でも、寂しい心を隠すために剣を振るっても、余計に自分が傷つきますわ。他人を傷つけることは、自分の心を傷つけることですから。」


この言葉は、私が小さいときにお母さんに言われた言葉だ。

私も、本当にその通りだと思う。



「……はい。」


「いいお返事です。」


そっと頭を撫でると、ルビー王女の髪はなめらかな絹の糸のような手触りだった。


馴れ馴れしく撫でたりしたらまた怒られちゃうかなと思ったけど、ルビー王女に抵抗したり怒ったりする様子は無い。


寧ろ、自分からよりそって来てるような……って、それは流石に自惚れすぎか。


その後、ルビー王女は落ち着くまで泣き続け、そんな彼女の涙をブランが舐めとり続けていた……。




それにしても、こんなに思い詰めてたんだね……。

これは犯人探しものんびりしてられないなぁ。










―――――――――

その日の夕方、私は乾燥させて取っておいた切られた花を確認していた。


「これが何か手がかりになんないかなぁ……。」


「それ、荒らされてたって言う花壇の花?」


「うん。ザックリ切り刻まれてたから、鎌か何かを振り回したんだと思うんだよねぇ……。」




そう言ってその花を見せると、ブランが『ふぅん』と呟きながら花の香りをクンクンと嗅ぎ出す。


「もう乾いちゃってるし、花の香りなんてしないでしょ?」


嗅覚と言えば犬のイメージだけど、猫も結構鼻が利く。



とは言っても、あそこまでパッサパサに乾いてたら匂いはしないでしょうに。


と思っていたら、ブランが不意に『あっ……』とヒゲと耳をピンと立てた。




「ブラン、どうかした?」


「うん、この花……風の匂いがするよ。」


「“風”?」


「うん、正確には、風の魔力の匂い。」


ブランのその言葉に、私はベッドから跳ね起きた。


「魔力に匂いなんてあるの!?」


「うん、感じ取れるのは使い魔くらいだけどね。多分これ、鎌じゃなくて風の魔法で荒らしたんじゃないかなぁ。」


「――……っ!」



なるほど、だからあの日から使われた鎌の行方を探しててもまるで見つからなかったんだ!!




「ブラン、良いヒントをありがとう!」


これはジッとして居られないわ、早速フェザー皇子に相談に……


「きゃっ!?」


部屋の扉を開いて飛び出したら、柔らかいものにぶつかった。


「姫様、こんな遅くにどちらへ?」


「は、ハイネ……!」




どうやら、私が激突したのはハイネのその豊かな胸だったようだ。


そして、ハイネはその豊かな胸の前で腕を組み、黒いオーラをまといながらニッコリと微笑んだ。

この笑い方、どこぞの腹黒王子を思い起こさせるなぁ……。




「あ、えぇと、ちょっとお友達にお話が……」


「なりません。間もなく門限です、お部屋にお戻りを。」


「そんなぁ……。」


ごねる私を、ハイネはその細腕から出ているとは思えない力で部屋の中に押し戻した。



そして、外から扉をしっかりと閉められてしまった。

向こうに人の気配がする所を見ると、これは下手したら一晩中扉の前に立ってる気ね……?



「……仕方ない、話は明日にしよう。」




それにしても……と、自分の胸を見下ろした。


「――……。」


私の胸はハイネのそれと違い、スライスレモンくらいにしか膨らんでいない。



「……今夜は、牛乳を飲んでから寝よう。」


ま、まだ四年生だし、これからきっと育つわよね……!





~Ep.21 使い魔~





『それにしても、使い魔って実は凄いよね。』




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