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Ep.214 猫を被ったお姫様

  さて、普段は制服姿が基本の学院生活であるが、夜会となればそうはいかない。

  ハイネがいつの間にか城(実家)から取り寄せたドレス達に囲まれ悩みに悩んで、ようやく決まった一着に着替えてみたのはつい先程のこと。

  『このまま小物も決めてしまいましょうか』とドレスの柔らかい水色に合う飾りを探しているハイネの後ろで、自室の扉が控えめに叩かれる。

  急いで扉を開くと、ドレス選びを手伝ってくれたフライが廊下で待っていた。


「ごめん、お待たせ!」


「大丈夫だよ、着替える間少し廊下で待つ位。さて、じゃあ袖を通した感じを見せてもらおうか……」


  返事を受けて部屋に入ったフライが、フローラの姿を見て言葉に詰まる。

  そんな彼のリアクションの理由を知らないフローラは、無邪気にその目の前でドレスの裾を持ち、軽やかに身を翻して見せた。


「どうかな、おかしくない?今まで着たことの無い型のドレスだから、似合ってるかちょっと自信ないけど」


「……っ、あぁ、……よく似合ってる」


「じゃあ、何で目を逸らしてるの?やっぱり、肩出しなんてちょっと私には早すぎたかな……」


「ーっ!そんなことない!綺麗だよ、きっと、当日も会場の誰より君が輝くだろうね」


「……っ、あ、ありがとう。フライが見立ててくれたお陰だよ」


  珍しく荒い動きで剥き出しの肩を掴まれ、間近で顔を覗き込まれた状態での甘い褒め言葉は心臓に悪い。

  ちょっとドキドキしていたら、ハッとした顔になったフライの手はすぐに肩から離れていった。


「でも本当、肩を出したドレスはシルエットも綺麗に見せるからね。それにして正解だったな」


  顔を背けて小さく咳払いをしたフライだが、すぐにフローラへと戻されたその顔はもう、いつも通りの優しい微笑みに戻っていた。


「自分でパーティーのドレスを選ぶなんて初めてだったから、フライが手伝ってくれて本当に助かったよ」


「どういたしまして。でも、今回は順番的にクォーツが君のエスコートか。そのドレスの君の隣に立てないのが残念だな。……でもまぁ、仕方ないか、順番だからね」


「ふふ、フライはこの間の春休み中に一回エスコートしてくれたばかりだもんね」


  婚約者が三人という異例の立場により、フローラの夜会等でのエスコート役は三人がローテーションで行っているのだが、今回はたまたまクォーツの番なのである。

  自分を無理矢理納得させたフライは、鞄から小さなリボン付きのケースを取り出した。そして、フローラの片手を取り、そっとケースを握らせる。


「……?これは?」


「エスコート役をゆずる代わりに、些細だけど贈り物だよ」


「え、いいの?誕生日でも無いのに……」


「うん、君に着けて欲しいんだ」


  吸い込まれそうなその瞳で見つめられながらそう囁かれれば、受けとる以外に選択肢はない。

  はにかんだフローラが礼を述べ、ケースから取り出したそれをそっと髪に結んだ。


  部屋の隅からそれを見ていたブランが、ふわりと飛んでフローラの頭を覗き込む。


「へぇ、フローラそれ似合うじゃん、可愛いよー!」


「本当に?ありがとブラン!フライも、素敵な髪飾りをありがとう!」


  ブランとじゃれるフローラが動く度、フライが贈った髪飾りも揺れる。

  その姿を微笑ましく見守るフライに新しい紅茶を出しながら、ハイネが親の様にフローラに色々と学院内での夜会の注意点を教え込んでいた。


「そんなに心配しなくて大丈夫だよ、いつもと違って周りも年の近い子ばかりなんだし……」


「いいえ、油断してはなりません。学生のみの夜会だからこそ、大人の目が行き届かない分騒ぎが起きやすいのです。姫様は特に素直なお方なのですから、注意しなくてはいけませんよ!」


  ハイネの苦言に『そう言うものかねぇ』と言いながらも、フローラはブランを高い高いしたりして未だじゃれている。

  平和な光景に思わずクスクスと笑いながらも、ハイネが不憫になったのか、フライが助け船を出すようにフローラに声をかけた。


「確かにフローラはどんな時でも素直な部分があるからね。そこも君の魅力ではあるけれど……、もう少し、猫を被るときがあっても良いんじゃないかな」


「ーー……ふむ」


「ぐぇっ!」


  にこやかなフライにもそう言われ、ふと考え込んだフローラが徐に高い高いをしていたブランから手を離す。ボスンッと自分の頭の上にブランを乗せ、どや顔のフローラが胸を張る。

  一瞬理解不能で固まったフライだが、頭の回転が早い彼はすぐにフローラが何を言いたかったのかを理解する。それに対し、考えるまでもなく口を突いて出たのは……


「違う、そうじゃない」


  と言う、至ってシンプルな指摘であった。


(一度呆気にとられたお陰で何とか笑わずに済んだけど、口元が震えてきたな……)


  笑いを堪える為、フライは頬杖をつくフリをしながら片手で自分の口元をつねる。しかし。


「姫様……!物理的に猫被ったって何の意味も無いでしょう!!!」


「……っ!ふっ……、あはははははっ!」


  目を吊り上げながらそう叫んだハイネの一言により、我慢も虚しくフローラの部屋に笑い声を響かせたのだった。



     ~Ep.214 猫を被ったお姫様~


  『全くもう……、君と居ると毎日が面白くて仕方ないよ』




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