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Ep.189 聖霊王との謁見

  指輪の契約者が変わった為だろうか。


  火柱から水柱へと変化したそれは、10分ほど辺りに癒しの雨を降らし続け、最後に空に七色の橋を残して静かに消えていった。


「虹だ!」


「本当!私、実物を見るのは初めてですわ。素敵ですわねぇ」


「辺りの景色が綺麗だから、尚更幻想的ね。写真に残しておきたいくらい」


  一枚の絵画のような綺麗な光景にはしゃぐ女の子達を眺め、少し離れた位置に腰かけたまま皇子達は苦笑した。


「ったく、元気だよなぁ、女の子ってのは」


「可愛らしくて良いじゃない。元気な姿が見られて、ライトだって安心したでしょ?」


「そうだよ。全員無事で済んで、本当に良かったよ。……僕は正直何の役にも立たなかったけど」


「……ま、まぁ、元気出せよ。役立たなかったのは最後だけで、お前の力であの火事の中でも安全に話せる場所が作れなかったら、作戦立てる前に全員お陀仏だったしな。で?この後どうする」



  濡れた服を更に涙で濡らすクォーツを適当に慰め、フライにそう問いかける。

  色々と想定外のことが続いてしまったが、元々今回はスプリング王家を中心として聖霊の森と再び和平を結び直すことが目的だった。いい加減先を急がなければならない。

  断じて、皆して上手に焼かれている場合ではないのだ。


「そうだね、フローラも見たところ大丈夫みたいだし、一気に玉座の花園まで……」


「ーっ!おいっ、大丈夫か!?」


  はしゃぐ少女達に向けていた優しい表情から一転。真剣な面持ちになったフライだったが、話ながら腰を上げた所でその身体が前のめりに傾いだ。正面の切り株に腰かけていたライトが、咄嗟に支えて座り直させる。

  支えるために掴んだその手は、明らかに異常なほど冷たかった。


「ごめん、少し目眩がしただけだから」


「体力ないのにあんな無茶な魔力の使い方するからだろうが、全く……。少し身体を温めた方がいいな。待ってろ、フローラが水筒持ってたはずだから」


「……っ、待って!!」


「うわっ!?なんだよ急に」


  立ち位置が離れているせいか事態に気づいていないフローラ達の方へと足を踏み出したが、そんなライトの腕をフライが咄嗟に掴んで引き留める。


  何事かと振り返れば、フライが弱々しい声音で『少し休めば良くなるから、彼女達には知らせないで』と笑っていた。


(得意の作り笑いすら上手く出来ない状態のくせに……)


「馬鹿言え、自分の顔色見てみろ!強がってる場合じゃ無いだろうが。……って、次はお前かよ!」


  空色の双眸があまりに真っ直ぐで一瞬怯んだが、やはり話さない訳には行かないと再度歩きだし……今度は、両手を広げたクォーツに行く手を阻まれて肩を落とす。


「なんなんだよ一体……!」


「本人が知られたくないって言ってるんだから、わざわざ騒ぎにすること無いじゃないか。少し休めば大丈夫だよね?」


  ふわりと微笑んだクォーツに問われ、フライが頷く。

  『ほらね』と、優しいながら圧を感じるクォーツの微笑みに気圧され、渋々ライトも最初の位置に戻った。


  その事に安堵しつつ、フライが小声でクォーツに礼を述べる。


「ありがとうクォーツ、助かったよ」


「いいよ、情けない姿を見せたくない気持ちは、きっと同じだから」


「……!あぁ、そうだね」


(ヒソヒソと何話してるんだ?あいつ等は……)


  お互い笑顔なのに何処かぎこちない2人にため息をつきつつ、すっかり平和を取り戻した青空を見上げる。


「ったく、身勝手に試練なんて受けさせたんだから、合格後の迎えくらい寄越して欲しいもんだな」


  憎らしい程澄み渡った青を瞳に写しながら、つい愚痴っぽく呟きが飛び出した。存外、自分も疲れているらしい。


『ハハハハッ!それは失礼した。面白いものを見せてもらった礼に、全員まとめて我が玉座へ招待しよう』


「ーっ!誰だ!!?」


「姿を探しても無駄だよ、念話だ。声だけを何処かから飛ばしてきている様だね」


「……っ、ルビー、フローラ、レイン!すぐにこっちへ!!離れていない方がいい!」


「は、はいお兄様!」


「ね、念話って何!?」


「魔力を使って特定の相手にだけ声を伝えることが出来る魔術の一種よ」


「なるほど、電話みたいなものね」


  レインの説明に頷くフローラの呟きに『電話?』と全員が首を傾げる。

  しまったと慌てて口を押さえる主人に呆れつつ、ブランは話を逸らすためこう言った。


「これ、聖霊王“オーヴェロン”様の声だよ」


  その言葉に全員が唖然とした所で、集まった人間達の足元に巨大な魔方陣が開く。試練に飛ばされた時と同じ様に強い光に包まれて、目を開けたらそこは……


「よく来てくれた、未来の四大国の跡継ぎ候補諸君!」


  色取り取りの花弁舞い散る、聖霊王の玉座の花園だった。


  その中でも一際目立つ大輪のアネモネの花に腰かけた青髪の男に、まずブランが頭を下げる。

  それに倣い、全員も聖霊の王たるその男に頭を垂れた。色々と、言いたいことはあるけども。


  そんな思いを知ってか知らずか、余裕綽々に足を組んだ聖霊王が、フローラの指に光るそれを指差し、笑う。


「さて、それは元々和平の証にスプリングに預けていた我が妻の指輪の様だが?」


  その言葉に、全員の視線がフローラの片手に注がれる。そこには、すっかり邪気の消えた“聖霊女王タイターニアの指輪”が光っていた。


「わ、私が盗んだんじゃありません!すぐお返ししま……っ、あ、あれ?」


  そう言えば盗まれたものだった!!と真っ青になり慌てて外そうとしたフローラだが、どうやら焦りすぎて抜けないらしい。


「落ち着けって、別に皆疑ってないんだから外せば済む話だろうが。……あれ、抜けないな」


  フローラの手をとったライトも指輪を動かすが、ピッタリと指に収まったそれはびくともしない。

  彼女の名誉の為に言うが、断じて指が太くて引っ掛かっているわけではない。寧ろ、指輪は彼女の細い指によくこんなにも隙間なく収まったものだと言いたくなるほどのジャストサイズだった。


「本当に外れないね……、石鹸でもつけてみましょうか」


「レイン、意外と庶民的なやり方しってるのね!?」


  ポーチから小さめの石鹸を取り出したレインに驚きつつ、もう一度フローラも自分で指輪を引っ張ってみるが……やはり、まるで抜けなかった。


(ど、どうしよう、外れる気がしない……!)


  そんな時、あたふたするフローラを見据えて聖霊王が立ち上がった。


「外れないのなら仕方がないな……」


「えっ!?」


  驚いた人間達が意図を聞き返すより先に、聖霊王がパチンと指を鳴らす。その音を合図に、辺りに漂っていた水鏡の水が一斉にフローラの身体に巻き付いた。


  突然の出来事に、呑み込まれたフローラは暴れることすら出来ずに玉座の正面まで運ばれる。

  絡み付いた水はまるで竜の如くうねり、とてもじゃないが自力では抜け出せなさそうだった。


  唖然とする人間達を見据える王が、そんなフローラの姿に冷徹とも取れる嫌な笑みを浮かべる。


「仕方がないから、指輪をつけたこの姫さんの身体ごと返してもらおうか」


「……っ、こっちが落ち度があるからって下手に出てれば……!」


  カッとなったライトが咄嗟に腰に手をかけて、いつもならそこにある筈の物が無いことに気づき舌を打った。剣がないのだ。


  元々、今回の目的は謝罪と和解。余計な軋轢あつれきを生まぬ様にと、武器となる物は全て置いてきてしまったことを思い出す。

  そして、自分が帯剣して居ないと言うことは、フライとクォーツも同じだと言うことだった。


  全員、既に魔力も尽きている。フライに至っては体調的に立っているのもやっとだろうし、まだ小学生のルビーと、生まれながらの令嬢であるレインも戦う力などあるわけがない。


  万事休すのその状態で、フローラの身体を絡めとる水は見る間に量を増やして居る。


(まさか、溺れさせる気か……!?)


  あと少しで、その顔まで水に覆われてしまうかと思われた、その時だった。


「ーっ!フローラお姉様!」


「大丈夫、怪我は無いようだよ。レイン、タオルはある?」


「はい、すぐに拭きます!」


  一瞬、僅かに風が吹いたかと思えば、拘束されていた筈のフローラが花畑へと落下した。

  一番近くにいたフライがその身体を受け止め、ルビーとレインが2人がかりでタオルで水気を取る。


  どうしてそうなったのかと目を見張れば、すぐに答えは出た。


  何者かが音もなく操った刃により、彼女に絡み付いていた水が見事切り刻まれたからだ。


  そして……


「人を軽んじるのも大概にして戴けませんか」


  そう呟いて聖霊王の背に刀を突きつけているのは、普段の温厚さを全て投げ捨てた、凛々しい表情のクォーツだった。



    ~Ep.189 聖霊王との謁見~





  


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