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Ep.172 聖霊王の試練 《参》


  『そして、今日も私は独りなのだ』



  私がこの場所にきてから一週間が過ぎた。


  毎日話しかけたりはしているものの未だにライト達はもちろん、ルビーも、レインも、果てにはクラスの皆まで冷たく、だーれも話し相手になってくれないのでその間にこの前誕生した『ただいまなさい』に続き、『ありがとう』と『どういたしまして』を組み合わせた《ありがとうございまして》と、『いただきます』と『ごちそうさまでした』を組み合わせた《いただきました》が新たに誕生した訳だけど。

  ん?考えてみたら《いただきました》は前からあるかな?まぁいいか。そんなことより今は、色々とすることが目白押しなのである。


「えーっと、電卓電卓……あった!」


  机に広げたファイルは、今期の生徒会予算案の帳簿だ。本来ならとっくに締め切りが過ぎているそれを電卓片手に処理しながら、この一週間のことを思い返していく。


  まず、この場所での私や皆は高等科の2年生で、同時に生徒会役員でもあった。この事は丁度飛ばされてここに来た翌日に生徒会室で会議があった為に発覚したわけだけど、その時の衝撃ったらなかった。


  会長の印鑑や署名が大事な書類は部屋中に未処理のまま出しっぱなしで錯乱してるし、帳簿は未記入。届いた資材の段ボールは中身を出す出さないの前に開封すらされずに山積みでもはや壁!!

  部屋が無駄に広いから足の踏み場もないとはならないし、会議をするスペース位はあったけど……。何故、あんな悲惨な状況で行われた会議中に、信号機トリオはもちろん他の男子生徒達までマリンちゃんのご機嫌取りに夢中になれるのか……。


  一応やんわりと進言はしてみたものの、最早暴言すら返ってこず無視されちゃったからねー。

  しかも、学院の重要書類なんかも扱う高等科の生徒会室には、何と使用人さん達は誰も入れない。つまり、役員が片す以外にこの状況を打破する術はなく……。


「もう、どなたも片されるつもりがないなら私がやります!!」


  なんて、啖呵を切って以来、毎日少しずつ処理している訳なんだけど……。


  終わった分だけはしっかり提出用のファイルに移して、作業椅子代わりにしていたソファーに倒れ込んだ。

  そして、未だにテーブルに山積みの書類が勝手に視界の端に写り込む。


「もーヤダ!終わらないよーっ!!」


  幸い、重要書類の仕分けはライトから、帳簿の記入と計算の仕方はフライから、資材の管理についてはクォーツから。中等科の生徒会に入ってすぐに習っていたので、一応私にも出来る。出来はするんだけど、何分量が半端じゃないの!!


  しかも、この一週間でわかったことがあって……


「……っ!嘘、またなの……!?」


  今は夜中の1時過ぎ。本来なら日差しなど射さない筈の窓から不意に差し込んできた光に目を細めて、それから壁掛け時計を見た。

  白地の文字盤に銀色の針がついただけのシンプルな時計の上で、二本の針がぐるぐると回る。……本来の進みとは、逆の方向に。


  それと同時に、つい先程処理を終えた筈の書類達がファイルから飛び出し、ひとりでに未処理の方の束へと戻っていく。


(あぁ、やっと3分の1まで終わらせたのに……!)


  内心では落胆するけど、何も出来ない。

  ここ一週間の間に何度も経験してわかった。この奇妙な現象が起こっている間、私の身体は指の一本すらまるで動かなくなるのだ。


  そして、ゆっくりと時計の針が止まると、徐々に身体の感覚が戻ってくる。そうして起き上がってカーテンを開けば、そこには静寂の夜空じゃなく、清々しい青空が広がっていた。


「今日は丸々1日戻っちゃったかぁ……。また制服に着替えなきゃ」


  再び壁の時計に視線を移せば、時刻は6時。丁度、朝起きて学校の支度を始める時間。


  何故か部屋のクローゼットに初めから大量に用意されていた予備の制服に袖を通しながら、つい長いため息が溢れた。

  机に重なる書類を見やれば、“昨日”何とか粘りに粘ってライトから貰った筈の判は跡形もなく無かったことになっていた。


  それも当然だ。だって、時間が巻き戻って、私が過ごした“昨日”は綺麗さっぱり無かったことになってしまったのだから。


「ゲームの機能で言えば、“ロードされた”って感じなのかな」


  最初に私がこの奇妙な現象に気が付いたのは、飛ばされてきてから3日目。マリンちゃんが、丁度クォーツとのガーデニングイベントを起こしている場所だった。花壇の御手入れ中にマリンちゃんが誤ってバラのトゲで手を刺してしまい、クォーツ手ずから怪我の手当てをしてもらうと言う割りとシンプルなイベントだからそんなに難易度は高くない。だけど、このイベントにはひとつ失敗パターンがあった。


  起こすタイミングを金曜日以外にしてしまうと、手当てをされる直前に現れたライバルキャラが無理矢理クォーツを拐っていってしまうのだ。ちなみにこの時のライバルキャラとは、全ルートに共通の公式悪役フローラでなく、お兄様大好きっ子のルビーである。


  そして、私がマリンちゃんとクォーツのイベントを見かけたのは水曜日……。当然ルビーの乱入が入り、イベントは敢えなく失敗。呆然と一人取り残されたマリンちゃんに、バラのトゲの怪我はちゃんと正しい手当てをしないと大変なことになるよと伝えに行くか否かで柱の影でうだうだしていたら、急に足が動かなくなったのだ。


  で、動画を巻き戻すみたいにハイスピードで流れていく景色を眺めていたら、急に私が立っていた場所まで切り替わり、気づいたらその日の一番最後に授業を受けていた教室の座席に腰かけて居たのである。


  そして、ついさっき終えたばかりの筈の授業をもう一度受けてからさっきの花壇へ行ってみると、そこにはもう誰も居なかった……。


  そして、何故か靴で踏んづけたみたいに何ヵ所かの花が折れていたので応急処置だけしておいた。あくまで素人のやっつけ仕事だから、あとでちゃんと庭師さんが気づいて処置をしてくれてるといいんだけど……。どうせまた同じ1日を繰り返すのだし、教室に行く前にちょっと様子を見に寄ろうかな。

  そして、放課後は……


「またライトに判貰いに行かなきゃ……、うぅ、次は何を言われるやら」


  考えるだけで憂鬱だけど。と、ファイルにまとめた書類を抱えて部屋を出た。





  そうして、二週間後に学園祭が迫りちょっと浮き足立ち始めた校舎の裏側。人混みを避けて歩いて行くと、イベントスチルに使われるだけあって華やかなバラの花壇が現れる。

  花が踏みつけられていたのは、丁度花時計の真ん前のピンクのバラ。折れた箇所に包帯代わりに巻いた私のリボンが目印になってわりとすぐに見つけられたので、屈んでそっと触れようとした、丁度その時。


「その花壇に何をする気だい?汚れた手で触らないで貰えないかな!」


  指先が花に触れる前に腕を引っ張られて無理矢理立たされた。


  驚きは顔には出さないように、小さく微笑み振り返る。


「……おはようございます、クォーツ様と、マリンさん」


  そこには、穏やかなはずの相貌に冷たい表情を浮かべたクォーツと、笑顔のマリンちゃんが立っていた。




    ~Ep.172 聖霊王の試練 《参》~


      『そして、今日も私は独りなのだ』




 次回かその次の話で、フローラが大分痛め付けられる展開が待っています(´・ω・`)

 主人公が悲惨な話が苦手な読者様はご注意お願い致します((((;゜Д゜)))

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