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Ep.168 聖霊王の試練《壱》

「ここ……どこ?」


  思わず呟いた私だけど、流石に『私は誰?』とは続かない。だって別に記憶喪失になったわけじゃないから。


  いや、そんなことより……


「ライトーっ、フライーっ、クォーツーっ!」


  とりあえず、さっきまで向いていた方へ身をのりだして、道の安全を確かめる為に前を歩いてた3人を呼ぶ。しかし、返事はない。


  次にくるりと反対を向き、更に大きな声で叫んだ。


「レインーっ!ルビー!居ないのーっ!?」


  しかし、もちろんこちらも返事はない。


  それもその筈だ。だって、さっきまで私達が居た場所とここは、全く似ても似つかない。何をどう見たって、別の場所だと思う。


  先程まで麗らかな日差しが注いでいた森の小道は跡形もなく消え、代わりに周りに広がるのは白亜の大理石で造られた立派な渡り廊下。

  すぐ横には、宝石がふんだんにあしらわれた石造りの彫刻と色取り取りの花々が華やかな中庭。どうしよう、初めて来るはずなのにとても見覚えがある光景だ。


  ……それにしても、何だかさっきまでよりお菓子の家が持ちづらい。胸が圧迫されてるみたいな……。いや、今はそんな場合じゃないか。


「ねぇブラン、これって……」


  言いながら背中に背負った鞄に話しかけようとして、嫌な予感に口を閉ざした。どうにも、背中に感じる感触がリュックのそれとは違っている気がしたのだ。


「あぁっ!やっぱりブランも居ない……!」


  両手がお菓子の家のケースで塞がってるので、恐る恐る首だけで視線を動かしどうにか背中を確認し……、そして愕然とした。


  ブランが居ないどころか、そもそも鞄ごと違ってる……!

  ーー……それに、と、近くのガラスに反射する今の自分の姿を見た。


「飾りにターコイズがついたリボンに、膨らみ袖のブレザー。スカートの柄もいつもの制服と違うし、これって、どう見ても……」


  高等科の制服だ……!!え、どういうこと!?私まだ中学生だし、しかもついさっきまで聖霊の森に居たよね!?


  しかも、何でだか私の身体も成長しているようだ。いつもより、幾分か視点が高く感じてちょっと変な感じ……。ん??身体が成長してるってことはもしや!


「おぉ、お胸がある……!!」


  いや、別に普段の私が絶壁とかそういうわけではないんですよ?でもほら、やっぱり劇的な変化って嬉しいじゃないですか!

  と、言うわけで改めて視線を下に下ろしてみれば、ガラスケースでちょっと潰されている自分の胸が見える。これは、もう少し育てばハイネにも負けないサイズ……!!これは、成長すれば私もちゃんと育つって啓示だよね!


  壊れやすいお菓子の家を持ってるので派手には喜べないけど、内心ちょっとウキウキしたそのタイミングで、これまた聞き覚えのある鐘の音が響く。

  本来ならこの場で聴こえるはずじゃない音を耳にしたそのお陰で、パニックと喜びとでおかしなテンションになっていた私の頭もスッと冷めた。


「……いや、喜んでる場合じゃないな」


  小さく息をつき、どうしたものかと考える。

  今、私が置かれている現状を簡単にまとめると、さっきまで居た場所から、いきなり何の前触れもなくとても遠い場所に移動してしまった訳で。

  この状況で考えられる原因は3つ。

  ひとつは、私が寝ちゃったか気絶しちゃったかのどちらかで意識を失って、夢を見ている場合だ。周りの柱や壁に触れるし、私自身の身体が自由に動く上に、ここに移動する前の状況から意識を失うようなことも無かった事から、この線は薄いと思う。と言うか、もし夢オチだとこの立派なお胸もただの私の願望になってしまうので、是非とも夢説はご遠慮したい。

  二つ目は瞬間移動だ。あくまでゲームの中での話だけど、この世界には“空間転移魔法”と言うものがある。これは、名前の通り、さっきまで自分が居た空間と他の空間を転移……つまり、そっくりそのまま移動して入れ替わらせる魔法。

  ゲームの中じゃ主人公が学院や他の国々を行き来する為にさも当たり前のように使っていたけど、実際に現実でこれを使おうと思ったら魔力の消費量が半端じゃないそうだ。距離によっても魔力の必要量は変わるみたいだけど、それこそ、聖霊の森から孤島にあるイノセント学院まで飛ぼうと思ったら、学院の先生、生徒の全魔力を合わせても多分足りない。それに、空間転移はあくまで場所の移動。これだと私の身体が成長してる理由の説明がつかないので、やっぱり空間転移の線も薄い。


「となると、やっぱ3つ目かなぁ……」


  もしこれが“そう”なら、さっきまで一緒に居た皆はここには居ないかもしれない。


「どうしようかな、とりあえず寮に……」


「おい、そこの女子生徒!何をしている、もう授業が始まっているぞ!!」


「ーっ!はい、申し訳ございません。すぐ向かいますわ」


  不意に飛んできた怒鳴り声に驚いて振り返ると、廊下の反対側からやって来た先生らしき人がこちらを睨み付けていた。

  なるほど、さっきのは始業の鐘だったのかと内心納得しつつ、殊勝に頭を下げれば、いつもより更に長く伸びた金色の髪がふわりと揺れる。


「……っ、フローラ姫だったのか……!」


「え?」


  そうして私が顔を上げた瞬間、男性教師の顔が青くなった。


「あの、先生、どうかなさいましたか……?」


  そのあまりの変わりように心配になり一歩近づけば、先生が二歩後ずさる。これを数回繰り返て最初より大分距離が開いた後、『無礼な物言いで失礼致しました』と言い残して走り去ってしまった……。


「いや、先生が生徒に注意するのは別におかしなことじゃ無いんじゃ……?」


  むしろ、授業サボってこんな廊下の真ん中に突っ立ってる生徒が居て注意しない方がおかしいのに。何か変だな……。いや、そもそも今私が置かれている状況自体が“変”以外の何者でも無いんだけども。


「さて、このままここに居ても悪目立ちするだけだし、とりあえずは授業に……」


  呟きながら一歩踏み出し、そしてピタリと停止する。何てことだ、そもそも自分のクラスがわからない!!

  授業ははじまっちゃってるから、周りには他の生徒の姿もないし。どうしよう、職員室でも行ってみようか。でも、またあんな態度取られたら傷つくなー……。


「あはははっ、やだライトったら!」


  ……ん?今、何か聞き覚えのある名前がしたような。

  うだうだ一人で考えてたら、再び不意に耳に飛び込んできた第三者の声。今度は大人の男性じゃない、同い年くらいの女の子の声だった。


(位置的に、中庭の方からだったよね……?授業中のはずなのに……)


  そう思って体ごとそちらに向き直ると、豪華な花壇に囲まれた中庭の中央。きらびやかな造りの噴水よりも美しい、見知った顔に思考が止まる。


  私はまだ、現実では皆のあの姿は見ていない。だけど、見間違える筈がない。


「一体、どうなってるの……?」


  ゲームのオープニング画面にもなった、学院自慢の噴水の前。

  一人の少女を取り囲んで、談笑していたその人影は。今の今まで一緒に居た、大事な幼なじみ達と、その真ん中ではしゃいでる、主人公マリンちゃんその人だった。



   ~Ep.168 聖霊王の試練《壱》~



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