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Ep.166 持ちつ持たれつ?

  『どうして、皆居ないの……?』



  5分としないで目を覚ましたレインと、何故だか疲れた様子のアースランド兄妹も合流しまして、全員揃って再出発!

  ……と、その前に。


「クォーツ、顔に土がついちゃってるよ。大丈夫?」


「ーっ!!?だ、大丈夫!自分で拭くから……!」


  ルビーに平謝りされながら最後に合流したクォーツの頬に、目の辺りから筋状にうっすら砂がこびりついてることに気づいてそっとそこを触ったら、ハンカチだけ手から取られて激しく距離を取られた。ど、どうしたの?痛かったの?


「フローラ、気にすることないよ。本人も理由はわかってないだろうからね」


  普段はおっとりとしているクォーツらしからぬその早業に唖然とする私の肩を叩いて、フライがちょっと困ったような表情で微笑んだ。

  よくわからないけど、フライが励ましてくれたことはわかったし、クォーツ自身にも理由がわかってないのに私にわかるわけも無いので気にしないことにした。


  遠くでルビーが『お兄様のヘタレ!鈍感!!』とかなんとか叫んでるけど、私には何も聞こえません。


「……あれ?」


「ん?どうかした?」


  指先で優しく背中をなぞる指の感触に、ちょっとゾクッとしつつ横を見ると、丁度フライの手が私の背中から離れていくところで。

  そんなフライはと言うと、首を傾げて自分の指先を見ていた。


  そして、何度か自分の指先と私の背中を交互に見比べてから、『フローラ、さっき自分の魔法使った?』と聞いてくる。


  魔法?私の魔力属性は水だ。空中で使ってもどうにもならないし、そもそも上手くコントロールが出来ないので全くもって使った覚えはないんだけど……。


「使ってないけど、なんで?」


「いや、今触れたら背中が濡れてたから。雨も降ってないし、魔力のコントロールミスで濡れたのかと」


  言われてみれば、確かにさっきから背中が妙にひんやりしている気がする。


  首だけで振り返って自分の目で確認してみれば、確かに羽織っているポンチョから数滴の水が滴り落ちていた。

  落下の最後に感じた衝撃と冷たい感触はこれか!


「うわぁ、ホントだ!なんでだろ……?」


「うーん、原因がわからないな。この中で水が扱えるのは君とレインだけだし」


「レインは気絶してたし、魔法なんか使えるわけないよね。ってことは、やっぱ私が無意識に何かしたのかな……くしゅんっ」


「ーっ!いくら気候が穏やかと言えど、濡れたままじゃ冷えてしまうね、大丈夫?」


  さわりと吹いたそよ風にさえゾワリとして、数回くしゃみが飛び出した。

  フライの言う通り、このままじゃ冷えて風邪ひいちゃいそう。でも、着替えなんか持ってきてないし……。


「着替えが無いなら、乾かせばいい話だろ」


  ようやくくしゃみが収まって息をつくと同時に、背中からひょいと抱き上げられる。驚く暇もないままに、温かい力に包まれた。


  爪先から地面に下ろされると、さっきまでは水気のせいで身体にまとわりついて来ていたポンチョが風もないのにふわりと揺れる。

  目を見開いて振り返れば、肩を竦めてライトが言った。


「念の為に言っておくが、炎は出してないからな」


  さっき私の言った“火気厳禁”を気にしているらしい。それは良いことだ、聖霊の森が火事になるリスクはひとつでも減らしておくに限るから。……それにしても、ライトの魔術の上達ぶりには驚かされてばっかりだ。


  魔力の“主属性”が何よりも物を言うこの世界で、物理的な力(私なら水で、ライトなら火、クォーツなら土や石となる)を出現させずに、その副産物である熱気や冷気のみを操ることが出来るのは、それこそ“賢者クラス”と呼ばれる位の高い魔導師さんくらいのものなのに。これぞまさに努力の賜物だ……と、思う。


「ありがとう!ライト、乾かすの上手だねぇ」


  ふわりと舞うスカートを翻しながらお礼を言えば、ふとライトが遠い眼差しになった。


「あー、水を被った服を乾かすことには慣れてるからなぁ、……誰かさんのお陰で」


「その節は大変ご迷惑をおかけいたしました!!!」


  腰をきっちり90度に折って深々と頭を下げる。

  いや、いくら小学生の時の過ちとは言え、あれは本当に申し訳なかったと思ってるよ……!もちろん、当時もちゃんと謝ったし、あれ以来そんな事故は起きていないけど、ライトは今でもたまにふと思い出したようにこの件で私をからかうのだ。


  なので、いつもならちょっとからかわれて『はい、おしまい』なんだけど、今日は何かを思い返すようにライトが腕を組んでじっとこちらを見たまま固まってしまった。

  小さな頃から見慣れているとは言え、群を抜いて整ってる上に凛々しいその顔にまじまじ見つめられると対応に困る……!


「そう言えば、俺あの日のことでずっと気になってたことがあるんだけど……」


  と、言うライトの言葉に、ずっと抱えたままの荷物を抱き締める手にも無駄な力が入る。

  何年も前のことなのに、気になることとは一体……!?


  身構える私の顔を間近で覗き込み、ライトは言葉を続ける。


「あのときさ、お前に水ぶっかけられる前に……」


「気になることといえば、僕もさっきから気になってたんだけど」


  しかし、それに待ったをかけたのは、いつの間にかルビーのお説教(?)から解放されて帰ってきたクォーツだった。

  男の子とは思えない可愛らしさで小首を傾げながら、私が両腕に抱えた荷物を指先でつつく兄の姿に、ルビーは何故か『でかしましたわ、お兄様!』と瞳を輝かせている。


「ねぇ、この大きな荷物の中身はなんなの?」


「ーっ!」


「確かに、それも気になるな」


「そう言えば、朝からずっと大切そうに抱えてるね」


「私も気になりますわ!何か大切なものなのですか?」


「実は私も気になってたわ。ミストラルから船と馬車でスプリングまで来る間も、ほとんどの間ずーっと抱えてたよね」


  いつの間にやら、全員の視線が私の荷物へと集まってしまった。

  製作に10日もかけた自信作だし、お披露目するのは一向に構わないんだけど……、ライトの話途中だよ、半端だよ!いいの!?と思ったら、『そっちはまた今度でいいさ』とのこと。


  ならば、今はこちらをご覧にいれましょう!



  カバー代わりに被せていたビロードをおもむろに取り去ると、中から現れるのは立派なガラスケース。

  つやつやと輝く壁に覆われたその中には……


「まぁ、何て可愛らしい!素敵ですわ!!」


「まるで絵本の挿し絵みたいね、本当に可愛い」


「これ、お菓子の家?まさか、本物!?」


「へぇ、扉にはちゃんとドアノブまで……。細かいところまでよく出来ているね」


  ケースの中で佇む一軒家に、皆の反応も上々だ。

  ちょっといい気になってどや顔してたら、じっとケースを見つめた後にライトが小さく一言。


「お前……これあれだろ、この間俺が調子に乗って作りすぎたクッキー生地」


  って、淡々とした口調だけどやっぱ調子に乗ってた自覚有ったんじゃないか!消費するの大変だったんだからね、ちょっとは反省しなさい!!


「あぁ、聖霊の森への視察の話をしに僕がミストラルに行った日の話だね」


「そっか、クッキー作ったとか言ってたもんね。でもライト、ちゃんと作れたの?オーブンの使い方わからなくて魔法で焼こうとかしたんじゃない?」


  むぅ……と頬を膨らませる私を他所に、男の子達3人で雑談が続く。ってちょっと待って。なんで詳細知ってるの?


「あぁ、あの翌日にライトから手紙が来たからね」


「まだ継続してたんだ、その文通……」


  筆まめなのね、3人とも。

  よくよく話を聞くと、もちろん最近は昔ほど頻繁ではないみたいだけど。それでも、今でも長期休みにはちょくちょく手紙のやり取りはしてるのだそうだ。仲がよろしくて大変結構ですなぁ。


「今回はたまたまクッキーの話みたいだったけど、普段は手紙の時はどんなこと話してるの?」


「普段?いや、別にその時々で変わるだろ」


「普段……ね、最近何書いたっけ」


「夏休みに入ってすぐに一回書いたはずだけど……」


  単なる興味本意で聞いたのに、なんだか困らせてしまったようだ。

  それもそうか……、3人からしたら、この文通も日常の一貫だろうしね。悪いこと聞いちゃった。反省……。


  と、思いきや、しばらく考え込んだ後、何かに納得したような表情になった3人の視線が、示し合わせたように私に集まった。


「な、なに?」


「いや、別に特に意識したわけじゃないんだが、こうして思い返してみるとお前の話が一番多いなと思って」


「何故!!!」


  さっと目を逸らしたフライとクォーツとルビー、それから何故かクスクス笑いながらこちらをチラ見するレインと違ってなんとなく圧力を感じさせる視線を真っ直ぐに私に向けたライトが『さぁ、なんでだろうなぁ?』と呟く。


「わ、私が、色々やらかすからですかね……」


「理解してるならもう少し大人しくしててくれよ、お姫様」


  『逃げることは許さん』と言わんばかりに肩を掴まれたままか細い声で正解かなと思う答えを言えば、掌でパシッと額を叩かれる。痛いけど、ここは罰として甘んじて受け入れましょう。


「……まぁ、本当の理由は他にあるけどそう言うことにしておこうか」


「え?フライ、今何か言った?」


「いや、何でもない。さぁ、お喋りはこの辺までにして行こう。先はまだまだ長いからね」


  あれっ、いつの間にかフライとクォーツが先に歩き出してる!


「フローラもライトも行くよー、はぐれたら会えなくなっちゃうから、離れないようにね」


  少し離れた距離を詰めようと早足で追いかけるも、何故か一番出遅れている私の方へ振り返ってフライが言う。


「う、うん、気を付ける!」


  そう答えたものの、皆との距離は開くばかり。抱き抱えたお菓子の家が意外と重い、持ち方考えてサイズ決めるべきだったかな……。


「全く……。ほら、その荷物貸せ。そのペースじゃ本当にはぐれるぞ」


「え!?いや、でも悪いし!持ってきた以上自分で持つよ!!」


  それに、他の人にあずけて壊れちゃってもお互い気まずいし!何て本音は隠して、お菓子の家も背中に隠す。


  全身で『渡しません!』アピールをする私から顔を逸らして頭を軽く掻いてから、ライトが小さく舌打ちをした。お行儀悪いぞ、王子様!


「……チッ、渡さないなら仕方ないな」


「諦めてくれた?……って、きゃーっ!!な、何!?」


  しまった、油断した!

  一瞬の隙に腰に手を回され、荷物ごとひょいと持ち上げられる。

  暴れる私を難なく押さえ込み、ライトが意地悪く笑みを浮かべた。


「仕方ないから選ばせてやる。大人しく荷物を渡すか、自分ごと荷物になるか選べ」


「なにその二択!!」


「答えないならこのまま運ぶが?」


  戦おうにも、相手に抱えられたままじゃあまりにも部が悪い。ので、


「うー、わかったよ……。じゃあ、お言葉に甘えてお願いします」


「わかればよろしい」


「……とにかく、ちゃんと渡すから下ろして」


「おいっ、抱えられたまま人の頬つねるな、危ないだろ!」


  ふんだ、勝ち誇った顔してるライトが悪いんだ!


  とにかく下ろしてもらって、約束通りライトにケースを渡すため、一度皆から視線を外したその時、さっきまでさわさわと心地よく吹き続けていたそよ風が、不意に止まった。


  それどころか、微かに聞こえてきてた、森のざわめきも聞こえない。


「皆……?」


   戸惑いに顔を上げたときには、私は独りになっていた。



     ~Ep.166 持ちつ持たれつ?~


    『どうして、誰もいないの……?』  


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