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Ep.165 いざ聖霊の森へ

  抗う間もなく落下した先は、大きく開いた白いマーガレットの真ん中だった。


  着地しようとした筈なのにトランポリンの如く弾んで、ポーンと宙に放り出される。気絶したままのレインの身体だけはブランに預けて、安全に下へと下ろしてもらった。これでひと安心。このシーンはアニメでもあったので、落下しても下の土がスポンジみたく柔らかくなってて怪我をしないことは知っているので、落下はこの際別に良い。いや、痛いのは嫌だけども。

  でも、それより問題は、せっかく作ってきたこれが壊れちゃわないかどうかだ!!


「わーっ!!大変だ、フローラが落ちる!!えーと、どうしよどうしよ、どうしたらいい!?」


「お兄様ったら落ち着いてください!むやみに走り回ったところでどうにもなりませんわ!フローラお姉さま、大丈夫ですかーっ!?」


「うん、大丈夫ーっ!!それより二人とも、そこに居ると危ないよー!」


  取手の代わりに箱にきつめに結んだリボンを握りしめつつ、落下中の私の真下で漫画みたく一ヶ所を延々と円形に走ってオロオロしているクォーツとルビーに叫ぶ。このまま落ちたら、むしろ私の下敷きにされて二人が危険だ。


  そう思って叫んだんだけど、まだ距離があるせいで聞こえなかったのか、二人ともまだグルグルと走り回っている。そんな走ってたらバターになるよ、二人とも!!

  なんて、小さいときに読んだ虎がバターになっちゃう絵本のネタを思い出しつつ内心で突っ込んでると、不意に柔らかな風にふわりと背中を押された。


  その風は羽織っていたカーディガンを帆のように操って、見る間に私の落下速度を弛める。それと同時に、落下の時に飛ばされてしまった帽子がふわりと手元に戻され、ふと感じる既視感。そうだ、確かあれは、初等科の入学式の日だった。


  懐かしい温かさに導かれて、段々と地面が近づいてくる。もう、激突の恐怖は無い。

  ーー……それなのに。


「フローラ、危ない!!!」


「えっ……?」


  無事着地するその直前。ブランの声に振り向く間もなく、背中に感じる冷たさと衝撃。


  押されるがままに数歩踏み出し、今正に地面へと触れるはずだった爪先が再び宙へ浮く。


  勢い余って、花畑から下の森へと続く滝壺まで踏み込んでしまったのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。


  このままでは落ちる!と、伸ばした手の先には何もない。かろうじて、大慌てにこちらへと飛んでくるブランの姿が見えるけど、手を掴み合うにはあまりに遠い……。それにしても。


(これじゃ、あの“最期の日”と真逆ね)


  あの時、私へのいじめに巻き込まれたブランを助けられなかった事を、私は今でも後悔してる。だからこそ、強く思った。皆に傷を残すような、こんな死に方は出来ないと。と言うか、流石にこんな死に方は困る!!


『ふふふっ!』


「……っ、何……?」


  崖っぷちで両手を広げながらどうにかバランスを取っていたら、ふと耳に届いた子供みたいな可愛い笑い声。飛ばされてる内に皆とは大分離れてしまったみたいで、周りには誰も居ないのに……。

  そう思うと同時に、小枝に引っ掻けたかな?くらいの強さで髪の毛が何ヵ所か引っ張られる。一体なんだと言うのか。

  正直気になって仕方がないけど、気にしている余裕もない。しかしその時、一際強く引っ張られた箇所の髪がプチンっと音を立てて抜けた。


「あいたっ!」


  思わずその箇所に手を当ててから、しまったと思ってももう遅い。ぐらっと崖下に揺らいだ身体に、思わず強く目を閉じた。


「…………?」


  でも、待てど暮らせど身構えていた衝撃は来ない。

  その代わりに、宙を切っていたはずの左手に感じる強い力と自分以外の体温に、恐る恐るそっと目を開いた。


「……全く、一人でジタバタしてる余裕があんなら助けくらい呼んだらどうなんだよ」


「ライト!ありがとう、助かったよ!でも、いつの間に?」


「いつの間に、じゃないだろ!ブランに感謝しろよ、あいつがお前の落下先教えてくれなかったら間に合わなかったぞ」


  落ち着いて視線を動かせば、片腕で軽々と私を抱き上げるライトの後ろで尻尾を激しく揺らしてるブランと、少し離れた所から駆け寄ってくるフライの姿が目に入る。

  私が一人でワタワタしてる間に、助けに向かっていてくれたらしい。


「大体お前は昔っから……痛っ!」


「フローラ、大丈夫!?ごめん、ちゃんと着地位置まで気を付けてたつもりだったんだけど……」


「う、うん、私は大丈夫だけど、今、ライト飛ばなかった……?」


  一言くらい言わないと気がすまないのか、呆れた声音でお説教を始めようとしたライトがふと視界から消えたと思ったら、次にフライに両肩を抱かれてそちらを向かされた。

  やっぱりあの優しい風はフライの魔法だったらしい。あのお陰で私は無事に下りれた訳だし、落下位置がずれたのは絶対彼のせいではないだろうしそもそも感謝しかない訳だけど。


  あの、後ろで貴方に押し退けられた衝撃で木に激突したライトが、『おい、何で突き飛ばした……?』とか呟きながら掌に炎を浮かべてるんですが、フライさん、ほっといていいんですか……?


  そして、私を一番始めに心配してくれてたであろうアースランド兄妹の姿が見えないんだけど、大丈夫?







  一方その頃の、アースランド兄妹。


「僕って、どうしてこう締まらないのかな……!」


  落下するフローラを追いかけようとして足を滑らせ転んだ挙げ句、それに気づかずに走り回っていた妹に背中に足形を付けられ、哀れなアースランドの皇太子は顔を突っ伏した大地を無意識に潤すのだった……。




    ~Ep.165 いざ聖霊の森へ~


『ライト、火気厳禁!!火事になったらどうするの、ちゃんと手紙に書いたでしょ?』


『え!?あ、あれってそう言う意味だったのかよ、四文字だけじゃわからねーよ!!』






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