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Ep.162  黄昏のエンディング・中編

  スプリングの城下街を出て、東に少し進んだ先の花畑。日の光が射さない日でも、月のない深夜でも淡く光を放ち咲き誇る花畑のその中心に、小さい頃絵本に出てきたような、メルヘンな造りの建物が花達に守られるようにして建っている。その建物こそ、聖フローレンス教会。私が転生したゲームの前作品のヒロインさんが、エンディングで想い人と永遠の愛を誓う場所だ。

  とはいっても、結婚する訳じゃないみたいだけどね。第一シリーズにあたるそちらのヒロインさんも、特殊な魔力を見込まれて学院に入った街娘なのだけど、彼女の迎える結末エンディングはこっちの主人公マリンちゃんとは違う。どのルートを進んだにしてもハッピーエンドなら最終的に王家にまでのしあがるマリンちゃんとは対照的に、彼女はどのルートに進んだとしても、必ず途中で魔力を失ってしまい、学院を退学になるのだ。


  片や全てを失った街娘と、各国でも指折り数えるほどしか居ない名家の令息では、“同じ学院の生徒”と言う繋がりでもなければ会うことさえ出来ず。しかし想い人を忘れることが出来ない彼女は、学院の卒業式を迎えるある日に、この教会を訪れる。そして、かつて世界を導いたとされる聖霊の神子姫の像を見上げ、祈るのだ。“もう一度だけで良いから、彼に会いたい”と。そして、扉が開いてそこに現れた彼と……


「見事ハッピーエンドを迎えると、聖霊の神子姫の像がつけてた指輪が2人を祝福するように輝いてから、ヒロインさんの手に下りてくるらしいのよね」


「自分の登場ゲームすらちゃんとクリアできなかったくせに詳しいね」


「攻略本におまけでついてたドラマCDの方に、今の話とゲームのエンディング曲が入ってたの」


  その時のエンディング曲がとても素敵で今でも歌えるくらいよく覚えてるとか、CDで聞いたヒロインさんの声になんだか聞き覚えがある気がするとか、そんなことは今どうでもよくて。と、教会の裏の天窓から、ブランに中を伺って貰う。


  スプリングのお城から馬車で揺られて一時間。伝説が本当かは定かでないにしても聖霊に所縁がある品があるこの教会は、王族でもそう簡単には入れてもらえないらしく。

  到着したはいいけど、フライは着いてからずっと担当の牧師さんに交渉をしている。


  周りだけなら好きに見ていいとの許可は下りたので、私達はこっそり皆から離れてこうして中の様子を調べている訳なんだけど……。


「牧師さんが、街の代表として入るのを許可された女の子と付き添いの人が今中で祈りを捧げてる途中だから、入っちゃダメって言ってたけど……どう?人影とか見える?」


「駄目だー、見えるわけないよ。すりガラスだし色もついてるし」


「やっぱり駄目か……。そして、ここに、あからさまに裏口らしき簡易扉があるわけなんだけど、やっぱり入るのは不味いよね?」


「当たり前でしょ!第一、入れたとして指輪はドでかい像の、更に高く掲げた手の指にあるんでしょ。届きやしないよ、馬鹿なの?」


「わぁ、今日は毒舌だねブラン!傷ついちゃうぞ!!」


  だって事実だもん!とぷいっと顔を背けて飛んでいってしまったブランはさておき(多分表側を見学してる皆の方に行ったんだろうし)、私がここに来た理由は、私達の世界から何年か以前のイノセント学院高等科が舞台であるそのゲームのシナリオがもう始まっているかを知るため。これは、転生者としての理由。

  そしてもうひとつ。姫としての理由は、聖霊の神子姫と指輪の伝説を調べ、明日の聖霊さんたちとの話の席で話せる内容を少しでも増やす為……だったんだけど。実はこっちは、行きの馬車の中でほぼ解決してしまっていたりする。


  あれは、30分ほど前のこと。


「聖フローレンス教会の神子姫の伝説では、あの指輪は聖霊王と、それから一角獣に真に心根が美しいと認められた乙女のみが与えられる魔法の指輪だったそうだな。ひとつしか無いものなのかはわからないみたいだが、歴史上指輪を与えられたのは、特殊な癒しの魔力を持ったその少女だけだったらしいぜ」


「まぁ、ライト様、お詳しいですね!」


「なっ……!この間会ったときには全然知らなかったくせに何でたった数日で私より詳しくなってるの!?」


「いや、この間の時説明されっぱなしで癪だったから帰って片っ端から文献漁った」


「なんと!!この負けず嫌いめ……!なんかこっちが負けた気になるじゃん……!!」


「ふふん、せいぜい悔しがるといい」


「……じゃあもうライトの分は無しね」


「ちょっっ、何でだよ!!」


  悔しいので、隣で勝ち誇ったように腕を組んでるライトはおやつ抜きだ!チョコチップ入りマフィンだけど自分で食べてやる!!


「残念だったねぇ、ライト。大人げない真似するからだよ」


「俺かよ!別に意地悪したわけじゃ……」


「でも、今の言い方はどうかと思うな」


「クォーツまで……!薄々思ってたが、お前ら最近フローラに甘くないか!?」


  信号機トリオが何か騒いでたけど、私は脇目もふらず到着までマフィンを頬張り続けた。


「……と、言うことがあったわけだけど」


「じゃあ、別にわざわざここに来なくても良かったんじゃ……!」


  がっくりと項垂れるブランの喉を指でコショコショしつつ、私も肩を落とす。

  残念だけど流石に不法侵入は良くない、諦めるしか……


「……っ、オルガンの音……。確かに、中に誰か居るみたいだね。フローラ、どうする?……フローラ?」


  ブランがなにも答えない私を心配そうに見上げてくるけど、今はそれに答える余裕が無い。

  だって、今、教会全体を包み込むように響いてるこの曲……。


(間違いない、CDに入ってた、ファーストシリーズのエンディング曲だ……!)


  オルガンで弾いてるからかちょっとアレンジが入っては居るけど、この世界にはちょっと不似合いな現代的な曲調……。それに誘われて、無意識に手が教会の裏口の扉へと伸びる。


  しかし、私の手がそのノブを回す前に、フッと辺りが暗くなる。


「きゃっ!?」


  その理由を確かめる前に、背後から両手を掴まれ扉へと追い込まれてしまった!


  これは、もしやピンチですか……?



    ~Ep.162  黄昏のエンディング・中編~



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