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Ep.156  回り出す運命(シナリオ)


『どうか、あの子が……この世界の運命シナリオを壊してくれます用に』




「フライ、お前さてはわざとここに来る日付合わせやがったな?」


  何とか死守した最後の一皿シフォンケーキをフライが完食したところで、ずーっと不満げな顔をしてたライトが待ってましたとばかりに口を開いた。

  それは私もそうじゃないかと思ってたから、まぁ良いんだけども。だって、ライトからの連絡が昨日の夜で、フライから今日来るって連絡来たの当日の朝だからね!何らかの意図がなきゃ、こんなに突然の訪問がたて続くことはなかったと思う。


「それが何か?元より、近々例の視察の件を皆に話さないといけないとは思っていたんだよ。丁度いい機会だったから、こうしてお邪魔しただけさ」


「それにしたって、当日の朝に先触れって……。婚約発表にしろ今日の件にしろ、いくらなんでも急すぎだ。お前、そんな強引なタイプじゃ無かったろ。どうした、ストレスで壊れたか?」


  いやライトさんや、注意をしてくれるのはありがたいし一向に構わないんだけど、先触れがギリギリだった件に関しては貴方も人のことを言えないんじゃ……。前日の夜と当日の朝じゃ、そんなには大差ない……よ、ね?あぁ、でも一晩あったら出来ることも色々あるから、多少は違うと言えるのかも知れない。


  そして、言い方にちょっとトゲがあるのは、もしや…………


「……ちゃっかりケーキまで平らげてるし」


  やっぱりそこですか!

  そんなに食べたかったのかと思わず苦笑したけど、自分の作ったお菓子をこうして気に入ってもらえるのはやっぱり嬉しい。

  なんだか温かい気持ちになって微笑むと、ライトには拗ねたように『笑うなよ』と言われ、フライにはなぜかサッと顔を背けられてしまった。


  実はあの婚約発表の少し前辺りから、何度かこう言うことがあるのだ。目があって微笑んだり、手を振ったりすると、大抵弾かれるように顔を逸らされる。場合によっては肩が震えてる時なんかもあって、正直腑に落ちない。


(顔合わせただけで爆笑されるような事したっけなぁ……)


  小さい頃から、確かにフライは割りと笑い上戸ではあるんだよ。今までも、何かの折りに笑いのツボを押しちゃって爆笑されたことも少なくない。

  でも、でもですよ?なにもそんな、耳まで赤くなるほど笑いを必死に堪えることはないじゃないですか。だったらいっそ声たてて笑ってくれていいよ!


  元々綺麗な白い肌をしてるせいで、フライの肌色の変化はわかりやすいんだから!


「フローラ様、程ほどにして差し上げてはいかがです?そんなに見つめられていては、フライ様が緊張されてしまいますわ」


  口元を覆っている手のひらの隙間から見える赤色を恨みがましい気持ちで見つめていた私の耳に、使い終わった食器類を片し終えたアリアさんの柔らかい声が届いた。


  確かにそうだ。いくら仲良しな相手でも、理由もわからないまま見つめられたらそれは居心地が悪いに決まってる。


「……こんな長い付き合いで、今さら緊張とかあるか?」


「こら、そう言う言い方しない!皆が皆、ライトみたく度胸溢れる性格じゃないんだから」


「そうか?別に自分じゃそんなつもりないんだがな……。あぁ、でも確かに“鋼の心臓”とかよく言われるわ」


「えっ!?」


  言われたときのことを思い出してるのか、ぼんやりした感じで呟かれたその言葉に食いついてしまった。

  いくら思ってたとしても、それをライトに……フェニックスの王太子に直接言えちゃう人居るんだ!?ちょっとビックリ。その人こそ度胸の塊なんじゃ……と思ったら、なんの事はない。言ってきたのは、未だこっちを向いてくれないフライと、今はこの場に居ないクォーツだそうだ。


  ……ん?そう言えば、クォーツは?


「そう言えばクォーツは来てないな……。一人だけ仲間はずれにしちまって、拗ねるぞアイツ」



  台詞取られた!!

  けど、結局聞きたかった答えは変わらないのでせなまま2人でフライの返事を待つ。


「あぁ、ちゃんと彼にもひと声はかけたんだよ。そうしたら……」


「「そうしたら?」」


「……仲良いよね、君達。まぁいいや。国主催の夏祭り……、いわゆる縁日の視察と財政状況の確認の仕事があると断られてしまったんだよ。だから、今日は君達にだけ話させて貰うよ」


  声を揃えて聞き返した私とライトにようやく向き直ったフライは、さっきまでとうって変わってなんだかちょっとご機嫌斜めそうだ。

  ほんの少し眉間にシワを寄せたまま、小さく咳払いをして。次に紡がれるその単語は、今生では初耳だけど……、酷く聞き覚えのある場所の事でした。


「単刀直入に言うよ。君達には、僕と一緒に“聖霊の森”……、『フォレ・ブラン』へと来てほしいんだ」


  今、目の前にいるフライじゃない、画面越しのスプリングの王子様のこの台詞を。

  私は確かに、知っている。












 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  一方、フライが重要な話の為にミストラルへと向かっている最中のこと。

  今、平穏そのものであった春のスプリングでは、春一番も真っ青な噂の嵐が吹き荒れている。それも、2つも。


  ひとつは、自国の王子の婚約騒動。こちらは、相手が自国ミストラル内のみならず、他国の災害時や行事に精力的に、誠実に動いてくれると民からの評判が高い姫君が相手であると言うことで、めでたい話だとして街中の記者達がこぞって記事を書き立てている。

  こちらは良い知らせなので構わないのだが、その裏で、ひっそりと広まる影がひとつ。


  スプリングの王家と契約をし、長きに渡り着々と築いてきた“聖霊の森”との仲が、学院の温室に寄贈されていた薬草達の悪用により崩れつつあると言う。

  どの伝手で仕入れたのかは知らないが、恐らく機密事項であろうその話と、場合によっては自国の王家だけでなく、他の3カ国も踏まえて謝罪に訪れるのではないか……など、かなりいい線な予想を下記連ねられた一枚の号外記事を読み、一人の町娘が深いため息を溢した。


「“聖霊の森”の怒りと、王子キャラ達の謝罪イベント……。少し早いけど、第二シリーズもいよいよ始まってしまうのかしら……。あんな脚本シナリオにしなきゃ良かったな」


  苦しげに吐き出されたその呟きと、娘の桃色の柔らかな髪を、不穏な突風がザワリと揺らす。


  そんな彼女が自分と“同じ”であることを、フローラは……まだ、知らない。


     ~Ep.156  回り出す運命シナリオ


『どうか、あの子が……この世界の運命シナリオを壊してくれます用に』







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