Ep.153 続・ゲーム補正入りました
『どうやら今年の夏休み、平穏無事とはいかないようです』
「さぁ、ちゃんと説明して!」
本当に、よくぞ飽きずにここまで根掘り葉掘り聞いてくるものだと感心してしまうくらいに野次馬根性丸出しの来賓客の皆様を必死にかわしたパーティの終了後。
恐らく一番事情を把握してるであろうフライと、未だにちょっと唖然としてるライトとクォーツの3人を引っ張って大急ぎで自室に飛び込んだ。
「説明も何も、パーティの際に陛下から宣言頂いた通りだよ。本日を持って、僕達“四人”は正式に婚約者になるんだ」
「いやいやいや、色々とおかしいよね!?」
あわてふためく私を意に介さずに、フライはいつもと何ら変わらずに飄々(ひょうひょう)とした様子だ。それどころか、私について一緒に部屋に戻ってきてくれたハイネからちゃっかり紅茶を受け取って美味しそうに飲んでいる。……って!
「お茶なんか飲んでる場合じゃなーいっ!!」
「……へぇ、じゃあフローラの分はいらないね」
「いや、飲むよ、せっかくハイネが淹れてくれたし貰ったばかりの新鮮な茶葉で美味しそうだしそりゃ飲むけど!!私は今‼その婚約についての話が聞きたいのであって!」
「結局飲むんじゃない。はい、ミルク入れるんでしょ?」
「あ、ありがとう……。って違ーうっ!!」
お砂糖とミルクたっぷりで甘いミルクティーを一口飲んで、テーブルごとひっくり返す……のは危ないしお行儀も悪いので心の中だけにしておく。美味しいお茶も勿体ないしね。
「……おい、誤魔化すなよ。お前が相談なしに何か策を講じるのはいつもの事にしても、今回は事態が大きすぎる。一体何だって急に?」
「ん?別にそんな急な話ではないでしょ。前々からこの話は何度か出てたんだし」
「まぁそりゃそうだけどよ……」
「「何それ(私/僕)知らない!!」」
フライとライトらサラッと流してるけど、今の話は聞捨てならないよ!?私、自分に婚約云々の話が来てたなんて微塵も知らなかったのに!!と、思ったら、人の気配もない壁際から不意に飛んでくる声。
「それはうちの皇子がやんわりとフローラ様への婚約話を片っ端から制してきたからでしょうね!」
「ライトが!?」
「へぇ……、それは興味深いね」
「クォーツもフライもそんな目で見るな!おいフリード、お前も誤解を招く様なことを言うんじゃない!!」
声の主は、ライトの護衛の為壁際に控え、意味深な笑みを浮かべているフリードさんだった。
そんなフリードさんを睨み付け、クォーツとフライの疑わしそうな眼差しを受けながらライトが片手で頭をガシガシと掻く。
問いただそうと思って未だパーティー仕様に着飾ったままのライトの顔を覗き込むも、頑なに目を逸らされ続ける。流石にちょっと首が痛くなってきた。
仕方がないので、フリードさんと付き合いもあり、メイドの中でもトップに近い地位のために情報通な我が専属メイドに聞くことにする。
「ハイネ、今の話本当なの!?」
立ち上がって壁に控えてるハイネに聞けば、それはもう従者のお手本のような綺麗な微笑みだけが返ってきた。でも、無言のままフリードさんの手の甲をつねってるところを見ると、多分本当なんだろうな……。
「痛たたたたたっっっ!ちょっ、メイドさん痛いんですが!!」
……ハイネ、そろそろ真面目にフリードさんの手が一皮むけちゃいそうだからいい加減離してあげて。
手加減抜きにギューッと引っ張られたフリードさんの手の甲は、解放されたあとも赤くなってて痛そうだ。お気の毒です。でも、手加減無くフリードさんを絞めてるハイネの姿がなんとなく生き生きして見えたので、敢えて止めないことにした。頑張って、フリードさん!!
さて、で、結局ライトが私の婚約話を潰してたとはどう言うことなのでしょうか?
疑問を解決すべくもう一度ライトに向き直ったけど、やっぱり視線は合わない。
とりあえず、優しく名前を呼んでみる。
「ライトー?」
「ーー……」
「ライトさーん」
「………………」
頑なだなもー!別に婚約したかったわけじゃないから怒らないし、ただ真相が知りたいだけなのに。
「さて、俺も茶もらうかなー」
「ちょっと待った」
「ーっ!?」
むくれつつも呼ぶのをやめた私にあかさらさまにホッとした顔になり立ち上がったライトだったけど、テーブルと壁の間に入り込んだフライがそんな彼の前に立ちはだかる。
その顔に浮かぶ笑みはまるで、最終決戦前に勇者を見下す魔王様がごとき黒さで……って、さっきまで普通だったのに急にどうしたの!?
「僕も今の話は詳しく聞きたいなぁ。今更、僕達の間に隠し事なんていらないよね?」
「お前がそれ言うのか!?」
恐い……、背中に『話さないなんて許さん』と言わんばかりのオーラを漂わせたフライの手を振り払って、ライトが後退りで逃げている。
そんな攻防をしばらく繰り返した後、先に観念したのはライトだった。
「ったく、フリードがおかしなこと言うから……!言っておくが、別に意図して邪魔してた訳じゃないぞ。ただ以前、ミストラルの高位貴族にフローラと俺の婚約話はまだ生きてるのか聞かれたから、可能性は消えていないと答えただけだ。政治的に見ても、うちとミストラルはわりと付き合いが濃いからな」
「あぁ、そっか!初等科の二年生の頃に一回そんなお話あったもんね。でも、それでなんで私に婚約話が来なくなるの?」
両手をぽんと合わせて首を傾げると、なぜかライトとフライにため息をつかれた。
訳がわからず困る私に、苦笑いを浮かべたクォーツが優しく説明してくれる。
「王族同士の婚姻は、国の利益と平和に関わる非常に重要な案件なんだよ。まして、ライトの国……フェニックスは、4カ国の中でも最強に当たる国だからね。そんな相手と婚姻する可能性がある女性に横槍を入れるなんて人はまず居ないんだよ。それこそまさに、自殺でもしたい人は別だけどね」
「なるほど……。……って、ちょっと待った。そんな重要な事なら尚更、こんないきなり婚姻しちゃったら駄目なんじゃ……!?」
サーッと血の気が引く感じがしたけれど、そんな私をクスクス笑ってフライが言う。
『僕が外堀も固めずにこんな大胆なことをすると思うの?』……と。つまり、もう逃げられないと言うことですねわかります。
「あぅ……、それにしたって困るよ……!」
こんなに仲良くなって、皆の人柄を知った今。三人が私を邪険にしたり、捕縛して身分剥奪だなんてしないとは思うよ?思うけど、やっぱり“皇子達の婚約者”って身分は、多少はゲームのシナリオが関わってきそうで恐怖もある。
でも、そんなとき、すっと温かい手が私の両手を取った。
驚いて顔をあげると、そこにいたのはクォーツだ。破滅への予感に不安がる私以上に、その瞳が悲しそうに揺れている。
「クォーツ、どうしたの?」
「……フローラは、僕達との婚約がそんなに嫌?」
「えっ……?ううん、嫌なわけないよ!」
今にも泣き出しそうな声で呟かれたそれに、罪を感じるより先にそう答えて。それからしまったと口を押さえた。
……もちろん、もう遅いのだけれども。
「嫌でないのなら構わないよね?じゃあ、改めて婚約成立と言うことで」
「……言質取られたな」
「えっ、あ、ごめん!僕そんなつもりじゃ……」
「もういいよクォーツ、どのみち私がフライに勝てるわけなかったもん」
「さぁ、わかったら返事は?」
「「「…………」」」
「へ・ん・じ・は?」
「「「はーい……」」」
覇気のない声で響いた返事だったけど、フライは満足したらしい。
『じゃあ失礼するよ』と立ち上がった彼に続いて、ライトとクォーツも帰り支度を始める。
そして笑顔の魔王様は、帰り際に更に爆弾を落として帰っていった。
「と、言うわけで、近々僕の視察に君達にも付き合ってもらうから、よろしくね」
パタンと静かに閉じた扉を見て、しばしフリーズ。
「え……、えぇぇぇっ!!?」
~Ep.153 続・ゲーム補正入りました~
『どうやら今年の夏休み、平穏無事とはいかないようです』




