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Ep.14 もう一人の“カゲ”



『光は影をつくり、影は光を侵食する。切り離せない物だって、前世で誰かが言っていた。』





『マリン・クロスフィードを知っているか』


そのライト皇子の問いかけに、私の思考が固まった。


「あ、えぇと……」


若干六歳にしてかなり目力のある紅い瞳で私を見てくるライト皇子に、余計にしどろもどろになってしまう。


結論から申し上げれば、もちろん知っていますとも。


“マリン・クロスフィード”

フェニックスの城下町に暮らす、それはそれは愛らしい少女である彼女は、この“恋の行く道”の世界の主人公(ヒロイン)だ。


ちなみに、本来の名字は“マリン・エターナル”なんだよね。

お母さんも美人で無理矢理町のちょっと偉い人と入籍させられていて、表向きはクロスフィードの姓を名乗らされてるんだって言うエピソードが、アニメ化した時の主人公の過去編でやってた。


「知ってるのか知らないのか、ハッキリしろ。」


と、前世の知識を呼び起こしている間にもライト皇子からの圧力は続く。


えっ、これ何て答えればいいの!?

確かに知ってるよ!!?

でも、当然まだ直接会った事なんてない。

私がわかるのは、名前と髪型と髪色と、ちょっとした性格くらいだ。

本来、自分が主人公として話を進めていくタイプのゲームは、主人公にあまり特徴を持たせない。

あまり奇抜なキャラにしちゃうと、自分と主人公を重ねて楽しめないかららしい。


私はアニメもろくに見れてなかったから余計、本来の“マリン”の事は全然わかっていないままだ。


第一、何で今ライト皇子の口から彼女の名前が出てきたんだろう。

唯一無二の幼少期出会いイベントは、私が謀らずも横取りしちゃった筈なのに……。



「……答えろフローラ!」


「はっ、はい!存じ上げませんわ!!」




答えない私に業を煮やしたのか、ライト皇子が怒鳴り声をあげた。

その声にびっくりして、反射的に『知らない』と答えちゃったけど……、ま、まぁいいよね。

実際会ったことは無いんだから、知り合いですら無いもの。


「――……まぁ、そうだよな。」



私の答えに、何故かライト皇子が『よかった……』と項垂れる。


そんなライト皇子を励ますかのように、クォーツ皇子は隣に座って背中をさすってあげていた。

いい友達だなぁ……。

こら、隣で一見慈愛に満ち溢れているようで実は黒い笑みを浮かべている少年、貴方も少しは見習いなさい。

貴方のことよ、フライ・スプリング!

あぁっ、『そのマリンって子がどうしたの?』とか聞いちゃう!?



でも、ライト皇子は気だるそうにしつつも口を開いた。


その内容に、私は絶句してしまう。



なんと、私の“ライト皇子×ヒロイン初対面イベント横取り事件”の翌日から、主人公であるマリン……ちゃんが、毎日フェニックスの王城に通いつめていたらしい。

毎日、畏れ多くも『ライト皇子に会わせて!』と叫ぶ少女は、その幼さ故に追い払われるだけに留まっていて、更にライト皇子がイノセント学園の寮暮らしになったことで来なくなっていたらしいんだけど……。


「今日、城から馬車が出た瞬間に、中に乗り込んでこようとしたんだ……。」


ライト皇子が、心底深いため息をつく。

うわぁ、怖い……。

怖いけど、それって元を正せば私のせいだもんね。本当に申し訳ない……。


あれ?でも……


「それで、何故私がその“マリンさん”を知っていると言うお話に?」



「あのガキ、事あるごとに『フローラに騙されてはいけません』、『あの子は危険な女なのです』って俺に伝えようとしてくるんだ。」



そう言ってライト皇子は肩を竦めたけど、私は今にも立ちくらみを起こしそうだった。



あの日にライト皇子と出会えなかった事の焦りと、彼に対する異常な執着。

六歳とは思えないその行動力。

そして何より、私を“危険な女”だと言い切ったその言葉……。


その後、あの場に揃った全員で頂いた食事の味は、ある疑惑で頭がいっぱいだった私の中にまったく残らなかった。



――……まさか、主人公(ヒロイン)も転生者なの……!?













―――――――――

ミストラルの城にある自室に帰ると、私は即行でノートを取り出した。


「お帰りフローラ。って、どしたの、怖い顔しちゃって。」


出迎えてくれたブランには顔を上げずに「ただいま!」と伝えて、ページを巡り続ける。

あっ、あった!


主人公(ヒロイン);マリン・クロスフィード《本姓エターナル》

出身国はフェニックス。使える魔術属性は水と炎。

そうだ、確か類い稀な“二種の魔法を操る者”として高い評価を貰って、学園に来るのよね。

そして、入学早々迷子になった主人公は、偶然にも校舎裏でライト皇子との再会を果たす。

この時、主人公は彼をハッキリとは覚えておらず、またライト皇子も『どこかで見た奴』程度の認識だった。

しかし、主人公が着ていた赤とピンクの制服で自国の民であることに気付いたライト皇子は、主人公のマリンを女子寮まで案内してあげるのだ。

これが、ライト皇子ルートの第二イベント(強制発生)だ。


って……


「うわぁ、既にいろいろ辻褄合わないよ……。」


「ふ、フローラ、ホントにどうしたの?大丈夫?」


「う、うん、なんとか……。」




ちなみに、主人公は攻略期間である三年間、あの初対面の日の事はハッキリとは思い出さない。

時折イベントのCGイラストは出るけど、その時に出るイラストのライト少年は敢えて顔が逆光で見えない表現になっているのだ。

そして、主人公がライト皇子を攻略成功して告白された時、ようやく全てを思い出した彼女の記憶の一ページとして、ちゃんと顔が見えるバージョンの初イベントのCGイラストが解放されるのだ。

あぁ、見てみたかったなぁ……なんて言ってる場合じゃなくて!




「あ、あのね、ブラン……。」


「うん、何?」



ブランは、私の背中を擦りながらちゃんと話を聞こうとしてくれる。

だから、私もちゃんと言うことが出来た。


「私とブラン以外にも、元の世界から来てる(転生している)人が居るかもしれない。」


……と。




~Ep.14 もう一人の“カゲ”~



『光は影をつくり、影は光を侵食する。切り離せない物だって、前世で誰かが言っていた。』



ちょっと暗いお話が続いておりますが、またすぐに日常に戻りますのでご了承下さい。

連載始まってからまだ二週間経っていないにも関わらずブックマークしてくださっている皆様、ありがとうございます!


頑張って書き進めていくので、どうぞよろしくお願い致します(^^ゞ



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