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Ep.148 嫉妬に理由は必要ない・中編


  『レインの悪い笑顔を見ながら、これが交渉術かとこっそり感心したのは内緒だ。』

「あら……?お一人でお越し下さる様、お願いしていた筈ですが?」


  そう言って可愛らしく首を傾げながら振り返ったミリアちゃんが、その大きな瞳で私とレインを捉える。何だろう、いつも通り笑顔なのに、どこかいつもとは違うような……?


「ごめんなさい、ミリアさん。実は……」


「フローラ様の様子がおかしいのをお見かけして、私が勝手について参りましたの。」


  と、フライも顔負けの綺麗すぎて恐ろしいタイプの笑みを浮かべながら、レインが『何か不都合でも?』と続けると、ミリアちゃんは何かを見極めるように僅かに瞳を細めた。

  やっぱり、二人で来たのはまずかったかなぁ……。


「……いいえ、別に構いませんわ。本日は、お話しか致しませんので。」


  快く……とは言えないだろうけど、承諾してくれたミリアちゃんに促されるままに腰かける。ミリアちゃんが私に渡したいもの……かぁ。何となく予想がついちゃうよね、うん。


「あの、ミリアさんが私に渡したいものとは、一体なんなのでしょうか?」


  とは言え、レインも居る手前あんまり下手なことは言えないのですっとぼけた感じでそう切り出す。出来れば、私の予想は外れてて欲しいです、無理だと思うけど。


「……こちらですわ。」


「ーっ!」


  案の定、淡々とした様子の彼女が取り出したのは、綺麗にまとめられた私のリボンだった。

  たったこれだけの流れで経緯を察したらしいレインが、何か言いたげに私の方を見てるのがわかるけど、恐ろしくてそっちを向けないです……!今日はもう散々皆に叱られた後だから、お説教は正直ご遠慮したいし!!


「……フローラ様、受け取らないのですか?」


「えっ!?えぇ、そうですわね……。ミリアさん、ありがとうございま……、あら?」


  レインに促されてリボンに手を伸ばすけど、掴む前にそれを引っ込められてしまう。

  突然のことに首を傾げる私とレイン。……けれど、そんな呑気にしていられたのはそこまでで。


  ようやく顔を上げたミリアちゃんの、あまりに鋭い眼差しに。ただ只躊躇(ためら)う他なかった。


「ミリアさん?あの……」


「こちらをお返しする前に、お伺いしたい事がございます。」


「……何でしょう?」


  どうやらここからが彼女に取っての本題なようなので、私も姿勢を改めて話を聞く体制を整える。もう、ここまで来たら腹を括るしかないでしょう。


「このリボン……、今朝の朝礼の際にはフローラ様はお持ちで無かった筈です。どこで無くされたか、身に覚えがございませんか?」


「キールさんが利用している実験用のお部屋ですわね。」


  私があまりにあっさりと白状したからか、ミリアちゃんは大きな瞳を更に大きく見開き、レインは呆れたように小さく頭を振った。これは帰ったらお説教コースですねわかります。


「それで、ミリアさんがお聞きになりたいのは私がキールさんを訪ねた理由について、でよろしいでしょうか?」


「え!?えぇ、まぁ……。」


  あんまり長くなって帰りが遅くなるとハイネに怪しまれるし、もう何だか最近回りくどいお話ばっかで疲れてきたので、まだポカンとしていたミリアちゃんにこちらから話を切り出した。まぁ実際、婚約者の居る男の子に一人で会いに行った私が悪いし、もっと言えばその婚約者であるミリアちゃんは、会いに行ったその理由を知る権利がある。まぁ、といってもそんなに深い理由があったかと聞かれれば、決してそんなことはないけれども。


「私が今朝キールさんに会いに行ったのは、彼の本当の意図を伺って互いの妥協点を探りたかったからです。ミリアさんが心配なさるような事は、何もございませんのよ?」


  とりあえず安心してもらおうとそう口にすれば、ミリアちゃんは考え込むように再び俯いた。私の話が真実か否か、図りかねている様子だった。

  もしかしたら、私達に接触する前にキール君からなにか聞いているのかもしれないと思う。


  ……そもそも、ミリアちゃんはキール君の事情をどこまで知っているのだろうか。


「……そんなの、嘘よ。」


「え?」


「嘘とはなんです?いくら学園内が自治区で生徒同士の身分が対等とは言っても、あまりに不躾な物言いではないかしら。」


  唐突に口調の変わったミリアちゃんに驚く間もなく、レインがいつになく厳しい言葉でそれを制した。

  でも、そんなレインの言葉を聞き流し、ミリアちゃんはガタンと椅子を鳴らして立ち上がる。普段は至って品行方正で、足音すら立てない彼女にしては珍しいと首を傾いでいれば、同い年の女の子とは思えない力で腕を掴まれて立たされる。

  間近から改めて見たミリアちゃんの眼差しは、今朝のキール君の瞳ととても似た色をしていた。


「ーっ!ちょっと、ミリアさん……!」


「レインさん、大丈夫ですから。ミリアさん、どうして疑うのですか?何か、私の言葉が信じられない理由でも?」


「ーー……。」


  私の両腕を掴んでいる小さな手のひらを見やれば、その手がほんの少しだけど震えてることに気づく。あぁ、キール君の時も感じたけど、どうして彼女達はこんなに……


「それに……、どうしてそんなに寂しそうにされているのですか?」


「なっ……!わ、私は……っ、」


  斜め下に逸らされたその視線を追うように顔を覗き込めば、直ぐ様また別の方へと逸らされる。

  でも、腕に添えられたままの手のひらが、掴んでいると言うよりすがり付くように変わっているのは確かにわかった。


「だ、だって、あの人が……!」


「あの人?」


  よく耳を澄ましていなければ聞き逃してしまいそうだったその呟きは、どうやらただの一人言だったようで。聞き返した私から慌てて手を離したミリアちゃんは、なんでもありませんと小さく首を振った。

  立ち上がった私の背中に当たる位置に居るレインにはそもそも聞こえなかったようで、怪訝そうな表情(かお)をしたままこちらをじっと見つめている。


「……ミリアさん。」


「ーー……。」


「ミリアさん、……わざわざ私だけをお呼びになったと言うことは、少なからず話し合う意図があったと言うことでしょう?」


  わざわざあんな手紙を書いてまでのお呼びだしだったところを見ると、まだ彼女はキール君よりかは冷静なんじゃないかと思うんだ。もし私をこの件で陥れたいなら、もっとたくさんの人が居る前で私を糾弾すればよかったんだから。


  そう考えてから、もう一度念を押すように静かに彼女の名前を呼ぶ。


「…………本当に、彼に……、キールに、関心があるわけではないのですか?」


  観念したように口を開いたミリアちゃんのその言葉に、しっかりと頷く。だって、今まではただの同級生だったし……。こんな事態にならなければ、ここまで関わることは無かったんじゃないかなと、正直思う。


「……フライ様に指示されて、彼に危害を加えるつもりは?」


「そんなことはあり得ませんわね。」


  あぁ、それを心配して私をこんなに敵視してきたのかぁ。確かに、今までのキール君の振舞いを考えれば、不敬罪として断罪されてもおかしくない……だろうしね。

  でも、まだ子供なんだし、そんな物騒な事はしませんよ。ましてや、一番の被害者があのフライじゃ……ねぇ?


「ですが、フライ殿下は……」


「フライ様も、これ以上攻撃さえしてこなければ別段何もしないと思いますわよ?あの方は、元々去るものは追わない性格ですから。」


  フライは元々、仲の良い家族や友達以外の人にはあんまり深く関わろうとはしないし。正に“来るもの拒まず、去るもの追わず”タイプだよね。


「ーー……ですが、フローラ様はお怒りなのでは?」


「いいえ、気にしておりませんわ。特に怪我もありませんし。」


  今回私が受けた被害なんて、精々やたらと独り歩きしまくる噂話と、今朝の一件位のものだ。

  いや、確かに今朝のは流石に怖かったけどね。いくら薬草園の件で事前にその可能性を聞いてても、流石に目の前で黒魔術なんて物騒なものを見ちゃうとゾッとするよね。

  ……流石に物騒すぎて、皆にはその事は話せなかったけど。


「そう、……ですか。」


「ミリアさん!だ、大丈夫ですか!?」


  私の全否定に力が抜けたのか、フラりとよろけたミリアちゃんが床にへたりこんだ。

  慌ててその体を支えると、ずいぶんと痩せて……って言うか、やつれてるのに嫌でも気づく。とにかく椅子に座ってもらおうと引っ張ったら、かなりの勢いでこっちに重心崩してきたけども、それはミリアちゃんが軽いからであって私が馬鹿力だった訳ではないのです。……多分。


「ミリアさん、大丈夫ですか?」


「……はい。」


  嫌々いや、嘘はいけないよお嬢さん。顔面蒼白ではないですか。


  話すことは話したし、リボンも無事受け取ったんだからじゃあこの辺りでお開きかなと、レインに帰ろうと促そうとしたその時。私の言葉を笑顔で抑えて、ミリアちゃんを見てこう言った。


「ですがフローラ様、今回の件は既に学内でも噂になっております。自らの手を汚していない彼女はともかく、キールさんに関しては、無罪放免とはいかないと思いますわ。」


  ちょっ、レイン!そんな朗らかな笑顔で物騒なこと言わないで!!


「そんな……!」


「ですから、あとは彼に親い間柄の方からも事情を聞いて、情状酌量の余地を測るしかありませんわね。」


  突っ込む間もなく言葉を紡いだレインを見据えて、ミリアちゃんがまた何か考え込み始める。そして、ちょっとの間を置いてから、昔語りが始まった。


    ~Ep.148 嫉妬に理由は必要ない・中編~


『レインの悪い笑顔を見ながら、これが交渉術かとこっそり感心したのは内緒だ。』


  

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