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Ep.144 本題前の雑談が一番楽しい



 『但し、話は全く進まない。』



  私が確かに頷いたのを確認して、フライ背筋を伸ばして小さく息をついた。そして、さっきまで私に向けていたのと同じ真っ直ぐな目で自身の後方に立っていた親友二人を見やる。


「……君達も聞く気?」


「当然だろ、仮に嫌だって言っても無理矢理聞き出すからな。」


「僕だって聞くよ!フローラのことはもちろん心配してたけど、フライのことだってずっと気にしてたんだからね!第一、君が居なくなったら誰が暴走したときのライトを言いくるめるのさ?」


  『僕にはとてもじゃないけど荷が重いからね!』と声高に叫ぶクォーツの背中を叩いて、ライトが『お前等この間からあんまりな言い種だな!』と拗ねる。

  そんな二人を見て一瞬毒気を抜かれたようにぽかんとしたフライが、俯きつつもほんの少し口角をあげたのが見えた。


  ライトの扱いがぞんざいな件も含め、すっかり今まで通りな三人にほっとすると同時に、何だか私まで嬉しくなった。


「……何ニヤニヤしてるんだい?一応、今から少なからず大事な話をするはずなんだけど。」


  いつの間にか喜びで緩んだ表情を引き締め直したフライが、片手で頬杖をつきながら私の表情に突っ込んでくる。でも、綺麗な色白の手が当たっているせいで、ほんの少し赤くなった頬の色が余計に目立ってるよー。本当、素直じゃないんだから。


「……ちょっとフローラ、聞いてる?」


「ーっ!うん、聞いてるよ。」


「じゃあ、その表情止めてよ。第一何で君が笑ってるのさ?」


「ふふっ、ごめんね。こう言う感じ久しぶりだから、何だか嬉しくて。」


  堪えきれずにまだクスクスと笑う私に一瞬目を見開いてから、フライは『本当に、君はよくわからない子だよね』と苦笑した。

  それから一旦振り返って、まだ言い合ってるライトとクォーツに『ほら、話を始めるから君達も座ってよ』と促す。


「さてと、フローラとライトは兄さんからある程度聞いてるかも知れないけれど……、ん?」


  姿勢を正してフライが口を開いたその時、不意に外から誰かが扉を叩く。

  今居るこの部屋は、フライがフェザー皇子経由で急遽借りた高等科側の会議室だから、私達がここに居ることを知ってる人なんてほとんど居ないはずなんだけど……。あ、レインにだけは来る前に一声かけたけどね。これ以上心配かけたくないし。


「……一体誰だ?」


「フェザー兄さんじゃないの?事情を知ってるのなんてあの人位なものだよね。」


「いや、兄さんは今日は教師としての会議があるからまだ来られる時間じゃないよ。」


「そうなんだ……、じゃあ誰だろ?」


  皆して首を傾げる中、フライがポケットから1枚のコインを取り出した。

  そして、それを指で弾いて上に飛ばしたあと、自分の手の甲で受け止めた。転がり落ちないようにもう片方の手でしっかり押さえているから、コインが今、表か裏かがまるで見えない状態になっている。

  そんな中で、外には聞かれない位の小さな声でライトとクォーツに囁いた。


「さぁ、選んで。」


「ーー……ったく、自分で見に行く気は無いんだな。」


「だって、僕やフローラが顔を出したらまた噂を増長させることになりかねないでしょ。」


  ニッコリと笑うフライにそれ以上の抗議は無駄だと思ったのか、諦めたように息をついたライトとクォーツが同時に口を開く。


  ライトは“裏”、クォーツが“表”を選んだのを確認してから、フライがそっとコインから手を離す。コインの向きは……


「裏面が上を向いているね。と、言うことは……?」


「俺の勝ちだな、気を付けて行けよ。」


「……どうせこうなる予感はしてたよ。」


  “予想通り”だって落胆したクォーツを他所に、ライトとフライに引っ張られて扉の位置から見えない死角へと連れ込まれる。


「……どちら様ですか?」


  物影から様子を伺うと、クォーツが微笑のような苦笑な様な、判断に困る表情を浮かべながら扉を開けているところだった。


「え……、えっ!?」


  心配でハラハラしつつも、しっかりフライに腕を掴まれているので下手に飛び出すことも出来ず。

  盗み聞きしていたクォーツの声色が何だか明るくなったなと思った所で、聞き覚えのある可愛らしい声で『とにかく中に入れてくださいませ、お兄様!!』と言う台詞が耳に入ってきた。


「……相手が悪かったね、あの子に言われちゃったらクォーツが拒めるわけ無いもの。」


「本当にな。まぁ、あの“二人”なら入れていいんじゃないか?他に余計な同伴者が居ないなら、だけど。」


  明らかに相手が特定できている状態なのに出ていけない事にやきもきしてこっそり抜け出そうとする私をよりしっかり押さえ直しつつ、頭上から二人が話している声が降ってくる。

  そんな二人の表情は、私だけしゃがみこんでいるせいで角度的によく見えなくて。

  仕方がないのでもう少し大人しくしていようと扉の方に視線を戻したタイミングで、クォーツがこちらに向かって小さく手招きをした。


  ……あれは多分、“出てきても大丈夫”ってことなんだよね?


  ライトとフライにもその意図は伝わったようで、一瞬顔を見合わせてからまずライトが、そしてそれに続いてフライが柱の陰から扉の方へと出ていった。

  私も着いていこうとしたら、『お前/君はここに居ろ(居なさい)』とハモりながら止められた。理不尽だ!


  頬を膨れさせてむくれる私に笑いつつもさっさと行ってしまう辺りがなんともドライな対応である。巷で流行りの“塩対応”ってやつかな……。


「……ブランも連れてくれば良かったな。」


  何を話しているのかはわからないけど、なんだか皆の様子を見ていると、どうやら笑い声なんかも聞こえてきちゃって、何となく疎外感。思わず窓から外を見上げて、可愛くて頼りになるパートナーの姿を求めていた所で……


「フローラお姉様!!」


「きゃっ!?」


「ちょっ……!ルビー、駄目じゃないか、いきなり飛び付いたりしちゃフローラが驚いちゃうよ!」 


  う、うん、すでに充分ビックリしましたけど……。背中に飛び付かれた衝撃で変な声が出たのと転んだのとで、驚いた以上に恥ずかしい。


  クォーツが慌ててルビーを止めてくれてからゆっくりと身体を起こせば、目の前に綺麗な白い手が差し出された。


「ーっ!レイン!それにルビーも……、どうしたの?」


「どうしたのって、私達だって部外者じゃないもの。仲間はずれは寂しいじゃない?」


  そう言いながら私を助け起こしてくれるレインに、クォーツが『二人とも、遊びじゃないんだけど……』なんて呟く。

  でも、そんな会話をするレインとクォーツの表情は至って穏やかで。レインが心配して来てくれたであろうことと、クォーツにもその意図がちゃんと伝わっているであろうことがわかった。


「お兄様っ!」


「わっ!ルビー、急に飛び付かないでって言ってるのに……。」


  と、どこかほのぼのした空気が流れた所でルビーがクォーツの腕に抱きつく。……うん、(たしな)めるようなこと言ってるけど、顔から喜びが滲み出てるね。


  そんな仲良し兄妹のやり取りを眺めていた私に、レインが小声で囁く。


「ルビーは私が呼んだの。クォーツの件があったときに、なにも知らなかったことでショック受けてたみたいだから。」


「そうだったんだ!ふふ、ルビーは本当にクォーツが大好きね。」


「まぁ、今日来た理由はそれだけじゃないだろうけどね……。」


「え?」


  私と笑いあってた顔をふと二人の方に向けて遠い目をするレインにならって、私も意識をそちらに向ける。

  『フローラお姉様がピンチの時こそが、勝負の時ですわよお兄様!!』って、一体何の話?あの兄妹は一体何と戦ってるの?


「……はいはい、無駄話はそこまで!二人の考えもわかったから、全員座ってよ。」


  自分も席に戻りながら、『これじゃいつまで経っても話せないから!』と珍しく叫ぶように言うフライ。この面子だとすっかり素が出ちゃってますなぁ……。


「わかったわかった、これ以上怒られないようにさっさと座ろうぜ。」


「そうだね、じゃあルビーは僕の隣に……」


「ーっ!いえ、私達は後から来たのですから、レインお姉様と一緒に端のお席に失礼しますわ!」


「え!?ち、ちょっと……」


  妹から思わぬ拒否を受けて狼狽えるクォーツを無視して、ルビーはさっさと右端に座るレインの向かいに座ってしまった。そんなに気を使うことないのになーなんて思いつつ、私もかなりの当事者側なのでフライの向かいの席に座る。

  大事な話なら尚更、相手の顔が見えた方が良いもんね。


  そんな訳で、北側にフライ、ライト、ルビー、南側に私、クォーツ、レインの並びで座った所で、いよいよ本題が始まった。



    ~Ep.144 本題前の雑談が一番楽しい~


     『但し、話は全く進まない。』



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