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Ep.141 ミスリード

  夏休みまであと5日もない……。このまま長期休みに入ったら確実にうやむやなまま終わっちゃいそうだし、のんびりはしてられないと思った私はとりあえずフライとキール君の周りで何が起こっているのかをこっそり探ってみることにした。


「うーん、二人とも居ないなぁ……。」


  とりあえず、いつもより一時間早く学校に来てみたものの、二人の姿は見当たらない。と言うか、人の子ひとり見当たらない。当たり前か、まだ授業開始まで二時間近くあるもんね。

  そもそも、あの二人がいつもどれくらいに登校してるのかもよく知らなかったわ、馬鹿じゃん私。


「うーん、どこから探そう……。フライ……は神出鬼没でよくわかんないから、とりあえずキール君から当たるべきかな。さて教室か、それとも図書室か……。」


  よし、まずは初心に帰ろう。そもそもの事件の発端になった図書室からだ!捜査の基本は現場だって言うしね。


  静まり返った廊下で独り言を言いながら歩く、端から見たらちょっと不審な人になりつつもまずは図書室へ。


「全く、何考えてるんだよあの子は……!」


「ん?」


  今、なんか声がしたような……?


  振り返ってしばらく廊下を眺めるも、そこにはせり出した柱と静まり返った通路があるだけだ。


「……気のせいか。」











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「失礼しまーす…………。」


  やっぱりと言うかなんと言うか、図書室にもまだ人気はなかった。扉につけられた小さな窓から中を覗くも、照明がまだついてない上に高い本棚が立ち並ぶせいで日の光が遮られてしまう図書室の中は薄暗くてよく見えない。

  ただ、鍵だけは開いていたので、一応中を確かめてみることにした。


「それにしても、人気のない図書室って廊下以上に不気味……。きゃーっ!」


  電気はスイッチの場所がわからなかったので暗い室内をぐるぐると練り歩いていたら、不意に辺りがパッと明るくなる。な、何!?


「フローラ様、こんな早くからどうされました?」


「え……?まぁ、マリンさん!」


  びっくりしてしゃがみこんだ私を見つけて目を丸くしているのは、薬草学の本を何冊か抱えたマリンちゃんだった。

  慌てて立ち上がって制服を整え、にこりと微笑みつつ膝を折る。まぁ、悲鳴を聞かれちゃった時点で多分色々手遅れなのだけども。

  でも優しいマリンちゃんは、その事には一切触れずに私が聞いたことに苦笑いで答えてくれる。気を使わせてごめんなさい……!


「図書委員のお仕事で蔵書の整理に来たんです。」


「あら……マリンさんは図書委員もやっていらしたのね。知らなかったですわ。」


  『委員の仕事ぶりもポイントになりますから』と笑うマリンちゃんは、なんだかちょっと疲れた様子。特待生は大変だ。

  そんなことを思いつつ、何となく視線が彼女の手元の本に移る。あの本……、この間からキール君が読んでたやつだ。


「ところでマリンさん、そちらの本は……?」


「あぁ、これですか?最近人気が高いようで貸出率が高いので、取りやすい棚に移動になるんです。」


  なるほど、そう言うことかぁ。そういえば、この図書室よく本の配置変わってるなと思ったよ。


「ところで、フローラ様は結局なぜここに?貸し出しでしたら、今朝はご覧の通り出来ないんです。」


「あ、いえ、本を借りに来たわけではないのでご安心下さい。私は……その、ちょっと人を探しに来ましたの。ですがいらっしゃらないようですし、私がこのまま居るとお仕事のお邪魔になりそうですからお(いとま)致しますわ。」


  そそくさと出口に向かう私を見ながら、『探し人……』と首を傾げていたマリンちゃんが、ふと気付いたように手をぽんと叩いた。


「そう言えば、キール様でしたら先程魔法薬の実験室前で見かけましたよ!」


「本当ですか!?ありがとうございます、失礼致しますわ!」


  なんと、これは意外なところからの目撃情報!そこは盲点だったわ……。

  音は立てずになるべく急いで、足早に実験室へ向かう。そろそろちらほら人が増えてくる時間だ。その前に見つけて、話ができるといいんだけど……!













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  フローラが飛び出してからわずか一分後の図書室。

  マリンは抱えていた本を乱暴に机に放り出し、勢いよく近くの椅子に腰掛けた。


「ホントに単純な女……、前世の誰かさんを思い出すわね。」


  『笑っちゃう』と言いながらもまるで笑っていない目のまま腰かける彼女だったが、不意に後ろから扉の開く音がして姿勢を正す。


  まさか今しがた立ち去ったフローラが戻ってきたのかと内心舌打ちをしつつ振り向くが、そこに居たのは、彼女にとってまるで面識のない一人の女生徒だった。


「あ、あの……、今さっき、こちらにフローラ様がいらっしゃいませんでした?」


「え……?えぇ、確かにいらっしゃいましたけど、貴方は?」


「あ、申し遅れました。私、ミリア・ヴァーミリオンと申します。」


  その“ミリア”と言う名前に、直前まで興味も無さそうだったその瞳が妖しく光る。

  自身の記憶が正しければ、この娘はキールの婚約者で、しかも彼に強い好意があるはずだと。


  途端に申し訳なさそうな表情を作ると、マリンはそっとミリアの手を取り『こんなことを申し上げるのは、非常に心苦しいのですが……』と、秘め事を話すように囁いた。


「フローラ様は、まだキール様にちょっかいをかけているようです……。今も、彼の居場所を聞くなり走っていってしまいましたから。」


「……っ!そう、ですか。お話、ありがとうございます。」


  大きな瞳を更に見開き、気落ちしつつ去ろうとするミリアに、最後に静かに囁いた。


「あの方には気を付けた方が良いですよ。表向きが優しそうな方ほど、裏で何をしているかわからないものですから。」





















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  時折後ろに気配を感じつつも駆け込んだ実験室では、昨日のフェザー皇子の部屋よりずっと禍々しい空気が漂っていて。

  明らかに珍しい薬草を大量に抱えたキール君が、何かを片手にぶつぶつと口を動かしていた。

  よほど集中しているのか、私が入ってきたことにも気づかない。


  ……話しかけるべきかも躊躇われるような雰囲気でたじろいだけど、彼のその手に握られているものが何なのかに気づいて、今まさにそれを鍋に放り込もうとしていたその腕に掴みかかる。


「……っ!何をするんだ!?」


「それはこちらの台詞です!これは、フライ様の髪留めじゃないですか!」


  飛び付いたキール君の腕から素早く離れ、床に転がった金属製のそれを拾い上げる。

  とても見覚えのあるそれは、フライが自慢の髪を束ねるためにいつもつけている金色の髪留めだった。


  それに、机や鍋の中に散らばっている、その薬草……。


「……キールさん、何をなさっていたのですか?」


「ーー……貴方には、関係のないことでしょう。一体何なんです?こんな早朝から。」


「……キールさんに、お伺いしたいことがあって参りましたの。ですが、その前に解決しなければならないことがありそうですわね。」


  取られないようにフライの髪留めはしっかりと内ポケットにしまって、鍋の側に散らばっていたマンドラゴラの葉を掴んで彼に突きつける。キール君は私から目を逸らし、この手から葉っぱを引ったくった。

  でも、たかが1枚隠したところで正直無駄だ。ここに、証拠はいくらでも散らばっているのだから。


「これは……、学院の温室で育てられていたものでしょう?」



   ~Ep.141 ミスリード~


『フライ!一人か?あいつはどうした?』


『ごめん、見失った。』


『えぇ!?何してるのさ、今のフローラを一人にしたら何をしでかすかわからないよ!』


『そんなことは僕だってわかってるよ!……心当たりはもう一ヶ所あるんだ、行こう。』




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