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Ep.135 人の噂もなんとやら



     『お、お兄様……?』




「そう言えば、今日はフライ来てないわね。いつもは三人一緒なのに。」


  未だ続くライトとクォーツの喧嘩を眺めながら、レインがポツリと呟く。

  その言葉に、久々の長い怒鳴りあいで喉を痛めたらしいライトがティーカップ片手に『あいつ今日休みだぞ。』なんて答えていた。


「お休み?昨日は元気だったのに……。」


  日曜日、結局クォーツから順番にフライと謝って回ってから、フライはいつもの笑顔で手を振って部屋に戻っていった。別に顔色は良かったし、咳き込んだりもしてなかったのになー。


「まぁ、元から少し体が弱いからな。中等科に入ってからは授業もより厳しくなったし、ここ数ヵ月は目まぐるしく環境も変わっていたから、疲れが溜まったんだろ。」


「そうだったの!?」


  ここ7~8年のそこそこ長い付き合いなのに、初耳なんですが!?


「クォーツも知ってたの?」


「え!?う、うん、まあね。隠していた訳じゃないんだけど、もうフローラ達に出会った頃には大分元気になった後だったし、話す機会もなかったから……。」


  苦笑混じりに言うクォーツと淡々と語るライトの話によると、フライはルビーみたいに極端に病弱って言う訳じゃなくて、ちょっと熱を出しやすい体質って感じだったらしい。二人も物心ついてすぐくらいの頃の話だし、詳しくは知らないみたいだけど……。


「全然知らなかった……、明日は来れるといいね。」


「そうだな……。ま、ストレスの原因が片付かないことには厳しいかもしれないが。」


  だから、そのストレスの原因とはなんなんでしょう?

  レインと私が理由を聞いても、ライトとクォーツが二人で目で会話して話を逸らすから聞き出せなかった。うーん、気になる……。


「そもそも、皆の初対面っていつだったの?フローラがライト……皇子と会ったのは、確か五歳の時だよね?」


「あ、あはは……、そう……だったかなぁ。」


  ちょっとレインさん、今になってその話する!?

  笑ってごまかすけど、丁度紅茶を飲んだ所で話を振られたのがいけなかった。動揺で手が震えて、カップから零れた紅茶を私の代わりにテーブルクロスが飲んでいる。汚してごめんなさい。


「そうそう、確かライトの乗ってた馬車が子供を跳ねそうになって、ひかれそうになったその子をフローラが助けたんだよね。」


「なんでそんな詳しく知ってるんだ……!」


  友の思わぬ裏切りにガックリと項垂れるライトに、クォーツは笑って『自分で手紙に事細かに書いたじゃないか』なんて答えている。あー、やっぱ書いてたかぁ。予想はしてたよ、うん。


「……俺、あの時なんて書いたっけ。」


「覚えてないの!?便箋3枚に渡って事細かに書き上げてたのに!!」


「ーー……うん、覚えてないな。なんせ、あの時は完全に頭に血が昇ってたもんで……。」


「フローラ、目を逸らしても過去は消えないよ。」


  紅茶がほぼ溢れ出たティーカップをソーサーに戻しつつライトから目を逸らす私に、隣のレインから追撃が。クォーツとレインってこう言うとこ似てるよ……。

 

「……うぅ、出来ることなら是非とも忘れて頂きたい……!」


  そもそも、あの一件から色々おかしくなっちゃったわけだからね。ライトとマリンちゃんの出会いイベント横取りしちゃったわけだし……。

  でも、あそこでライトと会ったお陰でこの学院に入って、こうして皆と友達になれたわけだから、無しにしちゃうわけにもいかないのかな?うーん、難しい問題だ……。


「まぁ、その話はもう良いだろ。紅茶も冷めたことだし、解散にしようぜ。」


  ばつが悪くなったのか、冷めた紅茶で一気に喉を潤したライトは、さっさとガーデンから出ていってしまった。逃げたな……!


「あーあ、行っちゃった。じゃあ、とりあえず私たちも解散にしようか。」


「そうだね。レイン、一緒に帰る?」


「えっと……。そうしたいけど、このあとちょっとクラスの友達と約束があるんだ。」


「そっかぁ、残念。じゃあ、また明日ね!」


  そうか……、レインにもレインの付き合いがあるよね。久しぶりに一緒に帰れるのかと思ってたから残念だけど、仕方ないよね。


  申し訳なさそうに去っていくレインを見送ると、クォーツが苦笑いで『じゃあ、置いてかれた者同士で帰ろうか』と、二つの鞄を持って立ち上がった。

  ん?鞄がふたつ……?


「クォーツ、私の荷物まで持ってくれなくていいよ!」


「大丈夫大丈夫、フローラ今日色々大変だったみたいだし、これくらいさせてよ。」


「いやいや、大変だったって言ってもただお花飾られてただけだから!本当に気にしないで?ね!」


  ついこの前にフライとも似たようなやり取りしたなぁ。本当、私の幼馴染み達は有望な紳士様候補ばっかりなようだ。でも、正直自分のことは自分でする現代っ子感覚が染み付いたままの私は、嬉しさより戸惑いの方が勝ってしまうよー……。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「結局ずっと持ってもらっちゃったよ……。」


「別にこれくらい良いって言ってるのに。」


  いやいや、たかが鞄持ち、されど鞄持ちですよ?

  現代では、いじめっ子達がいじめのターゲットに自分達の鞄を大量に持たせてる姿なんかもよく見たしね。幸い、私はそれはやられたことないけど……。やっぱり、自分の荷物くらいは自分で持たないと。


「あはは、大袈裟だなぁ。はい、鞄。」


「そんなことないと思うけどなぁ……。でも、ありがとう。じゃあ、また明日学校でね。」


「……ちょっと待って!」


  寮の共有スペースで鞄を受け取って、女子寮側に続く扉に手をかけた所で、何故だか腕を掴まれた。


「……?どうかしたの?」


「あ、あのさ……、僕は女子寮までは入れないから、中の状況がどうなってるかわからないけど、今日の学院での様子を見るに、噂は多分ここでも広まってると思うんだ。」


「……うん、そうだね。」


  むしろ、女しか居ない場所だからよりえげつない話にされてそうだ。ちょっと恐ろしいね。


「でも、何を言われても気にすることないからね!フローラは何も悪いことしてないんだから。」


「ーっ!うん、ありがとう!」


  クォーツ、結局詳しい事情も話してないのに信じてくれるんだね。……クォーツだけじゃない、レインも、ライトも、今は信じてくれる人達がちゃんといる。だから私、こんな大丈夫で居られるんだなぁ。

  そう思って、ニマニマしちゃいそうになる頬を抑えていると、クォーツは何故か私の両肩に手を置いて揺さぶり始めた。


「大体人間、噂なんて自分達が楽しければなんでも良いんだ。ついこの間まで、僕の周りも酷いものだったよ!やれ、『アースランドの跡取りはライト皇子やフライ皇子にいつも数歩先を行かれてる』だの、『病弱な妹の世話に追われてたせいで教育に割く時間が足りなかった可哀想な皇子』だの、終いには『温厚すぎるのも考えもの』だのって……!よくもまぁ好き勝手言ってくれたものだよ!!」


「そ、そんなこと言われてたんだ……。」


  珍しく激昂してるクォーツの剣幕に、最早相槌も上手く打てない状態だ。

  でも、そっか。やっぱライトやフライと比べられて落ち込んでたんだね。アミーちゃんとベリーちゃんからの情報でちょっとは内容を知ってたとは言っても、改めて聞くとやっぱり心が痛む。そんな心ないことばっか言われて、傷つかないわけないよ……!


「クォーツ、あの……」


「でも今は、フローラのお陰で僕は僕のままで良いんだってわかったから大丈夫なんだけどね。」


  ようやく揺さぶりの手を止めたクォーツは、そう言うと今までに無いくらい優しい笑みを浮かべた。

  包み込むような愛情さえ感じられるその笑顔に、ちょっとドキッとしてしまう。ルビーは多分、こんな笑顔をいつも向けられてきたんだろうな。それはお兄様っ子になるのも仕方ないわ……。


「とにかく、噂なんてものは所詮自分のことをろくに知らない人たちによる暇潰しなんだから、何も気にしないこと。いいね!」


「ふふ、わかりました!ありがとう、お兄様。」


「わかればよし。……ん?フローラ、今……」


「じゃあ、いつまでも扉塞いでると邪魔になっちゃうから私行くね。また明日ー。」


「う、うん、また明日……。」


  


  部屋に戻るまでの間、廊下では確かに好き勝手に背ビレに尾ひれ、終いには足まで付け足された噂が飛び回ってたけど……、さっきのクォーツの励ましや、私を信じてくれる友達が居ることを思えば、どうってこと無いような気がした。

  それにしても、クォーツってば本気で私のこと妹扱いしてるね。さっきはノリで『お兄様』なんて呼んでみちゃったけど、今後もずっとあのままだったらどうしよう……なんてね。


   ~Ep.135 人の噂もなんとやら~


      『お、お兄様……?』

 




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