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Ep.130 密室の会談・前編

  いやにハイペースでいつもの倍近く働いてくれたクォーツと、あんまりお喋りしないで淡々と仕事をこなしてくれたレインのお陰であっという間に今日のお手入れはおしまい。

  さっきはおふざけって言うか、茶化すような口調でいってたけど、レインの言葉通り皆成長期なんだなぁ。なんか、自分が一番遅れてる気がして焦っちゃうよ。


  ……と、言うわけで!


「やっぱ放課後の方が混んでるなぁ……。」


  今日はせめて予習、復習の量を増やすべく、放課後も図書室にやって参りました。


  中等科の図書室は初等科に比べて本の数が格段に多い。流石にこの世界にマンガはないけど、恋愛や推理ものなんかの小説はたくさん出回ってるから、ベストセラーなんかは結構入ってきてるんだ。

  だから、放課後の図書室には結構な数の人がいて、思い思いの本を読んでるんだよね。どこの世界も女の子はコイバナが好きだから、恋愛小説を読んでる女の子の固まってるテーブルなんかもある。


  って、キョロキョロしてる場合じゃないや。自分の席探さなきゃ。でも、見た感じ座れそうな所はないな。困った……。


「あ……。」


  そう言えば、中央の螺旋階段の上に自習用の個室があるんだっけ。予約制だって聞いたけど、ひと部屋くらい空いてるかなぁ。


  上に上がれば、そこは簡易的だけど確かにいくつかの個室に分けられていて、どの部屋も扉だけがガラス張りだった。多分、防犯のために多少は中が見れるようになってるんだろうな。


「お仕事中失礼致します。少々お聞きしたいのですが、今現在空いているお部屋はございますか?」


  カウンターで本を読んでいる委員の人に声をかけると、予想通り満室だそう。ですよね~……、やっぱ事前予約って大事だわ。


「時間で区切られているわけではありませんから、絶対に空くとは申し上げられませんが、よろしければご予約だけ入れていかれますか?」


  そう言って差し出されたのは、受付用であろう一冊のノート。

  開いてみると、中には部屋番号と使用理由、そして借りる人の名前を書く欄があり、そこにいろんな人の名前が書き込まれていた。うわぁ、皆結構活用してるんだなぁ……。

  どうでも良いことだけど、こう言うのみるとやたら友達の名前とか探したくなるよね。あ、フライとクォーツの名前見っけ。


「あら……?」


  ちょっと前の日付のページに書かれた二人の名前から視線を下に流していくと、ひとつの欄に結構な人数の名前が書かれてる所が。

  その一番最後に、すごく見慣れた名前を見つけた。ヒロインちゃんにふさわしく、丸っこくて可愛い字だね。


「お知り合いの方がいらっしゃいましたか?」


「あ、えぇ、まぁ……。」


  『よろしければ相部屋も可能ですよ』って言われたけど、流石にこの大人数の部屋に乱入は気が引けちゃうので丁重にお断り。他の部屋にも見知った名前がもうひとつあったけど、彼もきっと一人で集中してるだろうから邪魔は出来ないし。


「いかがなさいますか?」


「お時間を割いていただいたのに申し訳ございません、本日は断念致しますわ。」


「……その必要はありませんよ。」


「きゃっ!」


「おっ……と、驚かせてしまいましたか。」


「キールさん!だ、大丈夫ですわ。」


  あー、ビックリしたぁ。

  不意に肩に置かれた手に驚いてバランスを崩したけど、誰かの手に腰を支えられて助けられる。

  慌てて顔をあげたけど、そしたら今度はかなりの近い距離にキール君の整った顔が!と、言うことは……!


「ごっ、ごめんなさい!」


  焦って腰から背中に回された手から身を捩って離れると、キール君はまるで動じた様子もなく『お怪我がないようで何よりです』と言ってくれる。

  助けてくれたのに突っぱねたような態度しちゃってごめんね。


「本当にありがとうございます、助かりましたわ。キールさんもお勉強ですか?」


  失礼にならない程度に距離を数歩分とってから向き直れば、キール君はこの間の朝と同じように表紙の黒いノートを見せてうなずいた。そして、私と受付の人をちらりと見てから、『部屋の空きがなければ、ご一緒にいかがですか』と少しだけ口角を上げた。


  キール君の笑顔!!(微笑程度だけど。)

  何とも珍しいそれに背筋に何かがゾワッてなって、咄嗟に返事ができなかった。ライトやクォーツやフライのお陰で大分耐性ついたかなと思ってたけど、やっぱり美少年の不意打ちは心臓に悪いです。


「では、参りましょうか。」


「えっ?でもお邪魔なのでは?」


「構いません、丁度人の意見を聞きたいと思っていたところですから。」


  いや、そうじゃなくて、流石に二人っきりで個室使用は婚約者のミリアちゃんに悪いのでは?

  でも、それを指摘する前にキール君は『どうぞ。』と扉を開けてくれる。それに、さっきから彼の言葉は全部断定系だからお断りする隙がないのだ。

  どうしよう……。でも、規律や規則に何より厳しいキール君だから下手に不貞と取られるような真似はしないか。ドアはどうせガラスで中は見ようと思えば見られるんだし、まぁ大丈夫かな。何より、頭の良い彼との勉強は為になることも多そうだし……。


「では……、お邪魔いたしますわ。」


「えぇ、どうぞ。」


  私が部屋に入るとすぐに、ガラス張りの小さな扉が音もなく閉まった。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……なので、この2種の薬草を混合して火の魔力を加えることで魔力の回復効果が得られるわけです。わかりましたか?」


「はい、よくわかりました!ありがとうございます。」


  なんと無駄がなくわかりやすい説明!キール先生と呼びたい気分です。スプリングの人が薬草とかに詳しいって本当なんだなぁ。もちろん、彼自身の努力の成果もあってのこの知識量だろうけどね。

  この間も持ってた小さいけど分厚い専門書は、なんと学校のじゃなく私物なんだって。スプリングで数十冊しか出回らなかった、すごく希少な物らしい。

  そうなんだ、だから図書室で探しても見つからなかったんだ。フライなら同じの持ってるかな?


「フローラ様、少しお疲れですか?」


「ーっ!いえ、大丈夫ですわ。申し訳ありません、少々考え込んでしまって。」


「無理をなさらなくて大丈夫ですよ、知識を沈着させるには、脳にも休息が必要ですから。」


  『少し休憩にしましょう』と、キール君は立ち上がって部屋に備え付けられたサーバーで紅茶を淹れてくれる。って言うか、図書室って普通本を守るために飲食禁止なのでは……?まぁ、ここは個室だからいいのか。他の部屋にもサーバーあるみたいだったし。


「どうぞ、お口に合うかはわかりませんが。」


「ありがとうございます、いただきますわ。」


  キール君が出してくれたのはアールグレイのストレートティー。角砂糖を二つ入れて、しっかり溶かしてまずは一口。

  うん、美味しい!糖分が疲れた脳を回復させてくれる……気がする。

  なんか、フェザー皇子もフライもキール君も、紅茶を淹れるのが上手な気がする。これもお国柄だったりして?


「キールさんは紅茶を淹れるのがお上手ですわね。とても美味しいですわ!」


  猫舌なので紅茶をちょっとふーふーして冷ましながらそう言うと、キール君は黙って微笑んだ。おぉ、本日二回目の笑顔……!今日は機嫌がいいのかな?


「お褒め頂き光栄ですが、それは、フライ殿下よりも……ですか?」







    ~Ep.130 密室の会談・前編~


『ねぇ、今のお部屋、フローラ様とキール様が一緒にいらっしゃらなかった?』


『あら、気のせいではなくて?だって、キール様には婚約者がいらっしゃるではありませんの。』


『えぇ、でも、フローラ様のお姿は人目を惹くわ。見間違いでは無いと思うのだけど……。』




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