表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/399

Ep.128 正反対な人

 『とりあえず私もキール君を見習って、明日からは毎日図書室で予習をしようかな。』


  フェザー先生人気爆発事件から数日後、私はなんだかいやに早く目を覚ましてしまった。

  ……ので。


「行ってきまーす。」


「あれ、もう行くの?」


「うん、せっかくだから図書室に寄って調べ物してから教室行こうかなって。じゃあまた後でね、ブラン。」


  誘惑満載な真っ白いお腹を指先で少しだけ撫でてから、名残惜しい気持ちを振り切って部屋を出る。我慢我慢、今全力でもふもふしちゃうと制服が毛だらけになっちゃうからね。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  早朝の図書室は初めて来たけど、思ったよりはちらほらと人が居るなぁ。

  朝早いと言うことでいつも以上に空気が凛と静まり返っているのと、座っているのがほぼ2~3年生の先輩方なので緊張してしまう。


  席はどうしようかな、空きテーブルは無さそうだし……。どこかに知り合いでも居てくれたら良いんだけど。


「フローラ様、おはようございます。」


「ーっ!」


  あまり不自然にならないように辺りを見回していたら、誰かから小声で挨拶される。

  驚いて声がした方へ振り向けば、そこには背筋をしっかり伸ばしたキール君が立っていた。

  側のテーブルを見るとまだ本やノートが広がっているので、わざわざ挨拶の為に立ち上がってくれたことがわかる。礼儀を重んじるキール君らしいなぁ。見習わなきゃ。


「おはようございます、キールさん。」


  私も軽く膝を折って挨拶を返し、キール君が退いてくれた椅子に腰掛ける。勉強の邪魔しちゃってごめんね。

  私を自分の向かいの席に誘導したキール君の態度を見ると、このままこの席を使わせて貰って良いみたいなので、私も棚から探してきた本を開く。


「えぇと、マンドラゴラは…………」


「マンドラゴラならば、98ページですよ。」


「あ、ありがとうございます。」


  分厚い薬草図鑑にもたついている私に、正面からキール君が教えてくれた。

  言われたページを開けば、確かに根が小人みたいになっている草の写真(?)が。なんと正確な……!検索エンジン並みだね!


「ありがとうございます、助かりますわ。キールさんも魔法薬のお勉強ですか?」


「えぇ。本来なら気になる点は先生にお尋ねするのが一番なのですが、今はとてもじゃないが近づけませんから。」


  やれやれと言わんばかりに肩を竦めてから、『フェザー殿下はお優しすぎるのですよ。』とため息をつく。

  中等科に上がってから知ったんだけど、キール君はスプリングの出身だからフェザー皇子やフライと生まれた頃からの付き合いらしい。……って、考えてみたら当たり前か。

  私だって、前世を思い出しちゃった反動でほとんど忘れちゃったとは言え、小さい頃から他の貴族の子達とは多少なりとも交友を深めてた……らしいし。


  でも、キール君とフライはたまに廊下ですれ違ってるの見ても会釈位しかしてないし、ろくに話してること見たことないんだよなぁ。まぁ、フライもキール君も普段はあんまり喋るタイプじゃないってこともあるのかもしれないけど。


  要点をキリの良いところまでまとめてから、こっそり勉強しているキール君の顔を眺めてみる。

  スプリングの人達は、フライやフェザー皇子を始めとして、カッコいいって言うよりは中性的な顔立ちの人が多い。フライなんかはまだ幼いながらも、髪はサラサラで長いし小顔だし、早くも中性的な美人になりつつあるしね。

  でも、こうして見てるとキール君も顔立ちは整ってるけどちょっと毛色が違う。艶々だけど少し固そうな黒髪に、シャープにつり上がった切れ長の瞳。表情も普段からキリッとしてて、笑ってるところは見たことがない。


  うん、考えれば考えるほどフライとは正反対な子だ。唯一の共通点と言えば、ふたりとも表情からは考えがほとんど読めないってところかな。まぁ、それでもフライは付き合いも長いし、今では大分わかるようになってきたかなと思うけど。


「……僕に何かご用ですか、フローラ様?」


「ーっ!失礼いたしました、何でもございませんわ。」


  いけない、不躾(ぶしつけ)に見すぎちゃった。

  深い翠色の双眸を訝しげに細めたキール君が首を傾げている。勉強の邪魔してごめんなさい、もう見ません……。


  視線を彼から外す意味も兼ねて時計の方を見れば、そろそろ朝礼前の鐘が鳴る時間。調べ物って言うのは意外と、時間がかかるものだよね。


「そろそろ良いお時間ですわね。私はそろそろ教室に参りますが、キールさんはどうなさいますか?」


  私は広げていたものを片して立ち上がっ

たけど、キール君はまだギリギリまで勉強してから戻るらしい。中学一年生にしてなんと言う勤勉さ、見習わなきゃ。

  今はまだ学力的には前世の貯金があるけど、いつ無くなるとも知れないもんなぁ。私は実技が弱い分座学で補うしかないからね。


「では、お先に失礼いたしますわ。また教室でお会いしましょう。」


「えぇ、また後で。」


  丁寧に頭を下げて見送ってくれるキール君にバイバイして廊下に出ると、そこはもう登校してきた生徒たちで賑わっていた。


  ……って、騒がしすぎるよ!何か下から黄色い声が聞こえますが!?


「ーっ!!おはようございます、フローラ様。」


「あら、クォーツ様!おはようございます。」


  そんな朝からハーレム状態の中心から私を見つけたクォーツが、女の子達の隙をついてこちらに駆け寄ってきた。親友二人を置き去りにして……。人に合わせることが多いクォーツにしてはなんとも珍しいなと首を傾げつつ、私も笑って挨拶を返す。

  まぁ、ライトとフライならすぐ自力で抜け出して来るだろうし……あ、来た。


「おはようございます、フローラ様。」


「おはようございます。朝からお勉強ですか?」


「えぇ、お勉強と言える程ではございませんが、魔法薬の予習をして参りましたの。」


  私がライトの問いかけに答えると、それを聞いていたフライが僅かにクスリと笑った。これは、フェザー皇子から私の魔法薬の成績が芳しく無いことを聞いてるな……?


  お目当てだった三人がこちらに逃げてきたことで、女の子達は一時解散。名残惜しそうにしながらも、口々に挨拶をして去っていった。おまけとは言え私にも挨拶をくれる子達が多くて嬉しいです。中には私には一瞥だけくれて去ってく子も居たけどね。


「それにしても、クォーツはあの場所からよくフローラを見付けたよね。」


「ーっ!!いや、丁度そろそろあそこから逃げたいなー……と思ってたときに金色の髪が目に入ったから!」


  頭をかきながら頬に汗を伝わせるクォーツ。そんな焦らなくても……、なんて苦笑いしつつライトとフライに置いてきぼりの件でクォーツが弄られてる様子を見てたら、不意に突き刺さるような視線を感じて振り返る。


「フローラ、どうしたの?来ないなら置いていくよ。」


「あ、今行くー!」


  今、図書室の中でキール君が笑ってた気がしたんだけど……、気のせい、かな。



    ~Ep.128 正反対な人~


 『とりあえず私もキール君を見習って、明日からは毎日図書室で予習をしようかな。』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ