Ep.120 声無き声・捜索
※中間でフライ視点が入ります
『嬉しそうだねー。やっぱり一緒に来て貰ってよかった。』
ほんの一、二ヶ月しか経ってないのに、こうして来てみるとなんだか懐かしいなぁ。
「久しぶりに初等科来たけど、なんだか前より小さく見えるな。」
「そうだね、前来てから二ヶ月も経ってないのにね。」
「確か前に来たのは、どこかの誰かさんが中等科の入学式前に迷子になってこっちに来た時だったからな。」
「うっ……!そ、その節はご迷惑をお掛けしました……。」
ライトはがっくりと項垂れつつ頭を下げる私をチラッと見てから、ため息混じりに『行くぞ』とだけ呟いて歩き出す。
ーー……それは別にいいんだけども。
「ライト、行き先わかってる?」
さっさと遠ざかっていくその背中に声をかければ、動画を一時停止したみたいにピタリと動きが止まる。そして、数秒黙ってから後ずさりで私の隣に並んだ。
「……先に行け。」
「……っ、はいはい。」
吹き出しそうになるのを堪えてから返事をすれば、『返事は一回だろ』なんて苦笑される。そうでした。
さてと、じゃあ“彼”の所に行かなきゃね。
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まだ早朝なので、最近は大分暑くなってきたとは言え頬を掠める空気が冷たい。
普段は人で溢れている筈の廊下を、たった一人で歩いていると言う事実も、その肌寒さを助長している気がするけれど。
「ごきげんよう、フライ様。」
「うん、ごきげんよう。ねぇ君たち、クォーツ皇子を見なかったかな?」
「え?」
そんな事を考えながら昇降口に戻れば、偶然タイミングよく校舎に入ってきた同級生の女の子達とすれ違う。楽器を持っているので、音楽のレッスンに来た子達だろう。
丁度向こうが僕を取り囲むように声をかけてきてくれたので、ついでだからと目的の人物の情報を聞くけど、彼女達は『クォーツ様ですか?』と困ったように顔を見合わせた。この様子じゃ、目ぼしい情報は期待できそうにないな……。
「申し訳ございません、お見かけしてませんわ。」
「そう……、困らせちゃってごめんね。わざわざ時間を割いてくれてありがとう。」
「いっ、いえ、そんな!フライ様なら、いつでも歓迎致しますわ!!」
「そうだ!私達、これからオーケストラのレッスンなんです。フライ様、良かったらご指南頂けませんか?」
話は終わったので、あいさつもそこそこに切り上げようと笑みを浮かべれば、僕の右隣に立っていた女子が期待を込めた眼差しでそう言ってきた。返事を待つまでもなく僕を連れていく気満々なのか、すでにその両手が僕の右腕に触れるか触れないかギリギリの距離で添えられている。
これだけにじり寄ってきているのにほとんどの子が直に触れてこない辺り、初等科の頃より皆成長はしているんだなと感じた。まぁ、迷惑なことにはあまり変わりがないけれど。
「ごめんね、今日はこの後ライトと約束があるんだ。」
申し訳なさそうな笑顔を貼り付けるのは忘れずに、丁重にお断りの意を述べる。貴族に生まれれば、笑顔の扱い方などお手のものだ。
せっかくのチャンスを逃すまいと僕の周りにバリケードのように立ち塞がっていた彼女達も、一国の皇子にそんな表情をさせては二の句は告げまい。
案の定、『先約があるのでしたら……』と、残念そうではあったが素直に退いてくれた。
「ありがとう。本当にすまないね、また誘ってくれるかな?」
最後に今後のフォローの為にそう微笑みかければ、彼女達は一瞬呆けたような顔をしてから『勿論です!』と笑みを浮かべた。
その後、そんな様子の彼女達に見送られつつ向かった待ち合わせ場所にしたベンチには、何故かライトの姿がなかった。何故だ。
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前にルビーに聞いた話をなんとか記憶の引き出しから引っ張りだしつつ校舎をさ迷って、たどり着いた先はなんと地下室だった。
なるほど、なんか聞き覚えない教室だなぁと思ったら、地下だったからかぁ。
「ここは……、以前使われていたカメラの暗室だろ?こんな所に人が居るのか?」
「うん、ルビーから聞いた話だから間違いないと思う。じゃあ、ライト、お願い。」
「ーー……俺にノックしろと?」
「うん、ごめんね。」
だって私が声かけても絶対入れてくれなそうなんだもん。
やれやれと言った感じで肩をすくめたライトが、優雅に扉をノックする。
「失礼、中に誰かいらっしゃいますか?」
「ーーっっ!!!ライト殿下!?」
「な、何だっ!?」
と、同時に勢いよく開け放たれる扉と、室内から舞い上がってくるたくさんのはがきサイズの紙切れ。
そんな真っ白な紙吹雪の向こうに居たのは、ライトにちょっと危ない熱い視線を向けるエドガー君だった。
~Ep.120 声無き声・捜索~
『嬉しそうだねー。やっぱり一緒に来て貰ってよかった。』




