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Ep.119 声無き声・捜索


  『でも、私が行って話してくれるかな……。』



  紙パックに入った牛乳に、食べやすい小さめサイズじゃなく、昔ながらの立派な丸いあんぱん(桜の塩漬けつき)。昔から、この組み合わせを持つ人間がすることと言ったら……


「そう、やっぱり張り込みだと思うのよ、ブラン!」


「何がどうしてそうなったかはあえて聞かないけど、これだけは言えるよ。止めといた方が良いって!」


  『って言うか、こんな朝っぱらから何!?』なんてイライラを隠さずに叫んだブランは、私が折角ハイネにねだって用意してもらった牛乳のパックを尻尾ではたき倒した。


「あーっ!何てことするの!折角ブランの分はちゃんとお腹壊さないように猫用ミルクにしたのに!!」


  基本的に、犬や猫に牛乳を飲ませちゃうと乳糖がどうちゃらこうちゃらでお腹を壊してしまうらしい。だから、私前世の時もブランのミルクはちゃんとペットショップで猫ちゃん用の買ってたんだからね!

  ……なんて話は置いといて。


「せ、せめて理由くらい聞いてくれても……」


「休日の朝5時にたたき起こされた時点で聞く耳持たないよ!」


「そんなぁ!ブラン、ごめんね。謝るから話くらい聞いてよーっ……。」


  ベッドの上で丸まってしまったブランの背中を突っついてみるけど、言葉通り耳をしっかり塞ぐように頑なに丸まったその身体は微動だにしない。

  うーん、困った……。私は男子寮には近づけないから、ブランにクォーツが出てくるまで男子寮の方を見てもらおうと思ったんだけど……、一度曲がったブランのおへそは一日は戻らないのがわかりきってるからなぁ。


「わかった、ごめんねブラン……。」


「……わかったなら良いよ。さぁ、そんなストーカーまがいな真似は止めて……」


「一人で行ってくるから、折角だからこのあんぱん食べててね。」


(ボク)の話聞いてた!?」


  ブランの最後の一言を聞く前に、先にお団子にまとめておいた髪を帽子にしまって部屋から飛び出した。

  仕方ないから、門の所で張り込むかなぁ……。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  お母様から送られて来たものの気候になかなか合わなくて一回も着てなかったピンクブラウンのロングカーディガンに、カーディガンと同じ色の帽子を被って寮の玄関近くのベンチに座って早30分。

  一応カモフラージュ用に用意しておいた本を開いて読書してるふりをしてるけど、流石にもう読み終わっちゃうよーっ。なのにクォーツはまだ出てこないし……、いくら日曜日でも貴族は皆さん結構早起きだから、ちらほら人は増えてきてるんだけどなぁ。

  そして、たまにチラチラ私を見ていく人が居るのが辛い……。眼鏡は用意できなかったからかけてないけど、帽子はちょっと目深にしてあるし、まさか私だとはバレてないよ……ね?


「ーー……こんな朝早くから、何でそんな格好で本を読んでるんだお前……じゃない、君は。」


「え!?」


  仕方ないから二週目に入ろうか、もしくは寮の共有スペースを見に行こうかと悩んでいたら、不意に開いた本に落ちる人影と、呆れ混じりの声。

  驚いて顔を上げると、朝日を浴びてキラキラ輝く金色の髪に目が眩んだ。


「あぁ……。」


  私が目を細めたのに気づいたライトは、光が反射しないように少し立ち位置をずらしてから、外面用の声で『おはようございます、フローラ様』と微笑んだ。


「お、おはようございます、ライト様……。」


「お隣、よろしいですか?」


「えぇ、もちろん構いませんわ。どうぞ。」


  いつもならこんなやり取りもなく普通に座るんだけど、今は遠巻きとはいえ人目があるから一応形式にそった会話をしてからライトが座る位置をずらしてスペースを開けた。


「で?そんな怪しい格好で何してんだよお前は。」


  中等科の人達にも早くも一目置かれているライトが現れたことで近くにいた人達が気を使って離れてくれたので、小声でなら周りに聞かれる心配も無くなったこともあって、ライトが呆れ声でもう一度訪ねてきた。


「そ、そんなに怪しかった?って言うか、ライトよくわかったね、私だって。」


  一番目立つであろう髪はちゃんと帽子にしまったのに。


「いや、普通わかるだろ……。で?目的は?」


「あ、うん。実は……この間話したクォーツの件で気になることが出てきて。」


「気になること?」


  そうなのだ、この間アミーちゃんとベリーちゃんとお茶したときにたまたま色々聞かせてもらったのだ。社交ベタな私と違ってちゃんとお嬢様らしい付き合いのある二人はなかなかに情報通だった。


「後で詳しく話すけど、なんか騎士科の実技の様子のことで、クォーツの悪口を言って追い詰めるようなことをしてる人達が居るみたいなの。」


「ーっ!本当か、それ……。」


「まだあくまで“噂”の域をでないし、現場を見てないから何とも……。ただ、ちょっとその話のなかで聞き捨てならない情報もあったの。だから、今日一日だけクォーツにこっそりついていって、現状を見てみようかと。」


「なるほどな……、その格好は変装のつもりだったわけ。」


  『子供かよお前は』なんてライトが苦笑いしてるけど、昔わざわざイジメ調査の為に探偵服をあつらえてた人に言われたくない……。これじゃあ私が恥ずかしい子みたいじゃないか。


「まぁいいや、とりあえず今度からその格好で出歩くのは止めておけよ。」


「はい……。」


「あと、いくら待っても多分出てこないぞ、クォーツは。」


「あら、そうなの?」


  なんだ、今日はおでかけ無しの日なのか。そして、それをライトが知ってるってことは、心配はいらなかった感じかな?

  もしかしたら様子が変だったっていうのも私の勘違いで、本当は全然元気だったりして……。


「あいつ、昨夜は寮に帰ってないらしいからな。」


  なんて思っていたら、ライトから爆弾が落とされた!え、帰ってないって、外泊したってこと!?


「まぁ、寮には申請を出しているようだから無断外泊ではないだろうが……。でも、何処に行ったかがわからなくてな。探しにいこうと早起きして来てみれば……」


  怪しい格好で座ってる私に出会った訳ですね、わかります。


「お前がこないだ話しに来た件が俺たちも気になっててさ。気を付けてはいたんだが、昨日は仕事と授業が忙しくて別行動せざるを得なかったしな。」


「なるほど……。心配だからせめて居場所を知りたいね。」


「今、フライが学園の方に探しにいってるけど、連絡が来ないところを見ると居なかったようだし。だから、とりあえずしらみ潰しに探すしかないかと思ってたんだが……。フローラも行くよな?」


「うん、もちろん!……でも、どこから探すの?」


  私の言葉に、先に立ち上がっていたライトの足が止まる。

  さては、考えてなかったのね?


「こんなとき、クォーツの普段の行動に詳しい人でも居ればいいのにね。」


「そうだな。今までだったらルビーが頼りになったが、今はもう校舎が違うしな。他にそんな他人の日常に詳しい人間なんて居ないだろう。」


「そうだよね……。」


  仮に居たとしたら、その人は属に言うストーカーだ。流石にこの世界にそんな人は…………


「あーっ!」


「ーっ!?ばっ、声が大きい!」


「あ、あら、ごめんなさい。(わたくし)ったら……。」


  集まってしまった好奇の目におほほほと笑って誤魔化した。よかった、人が少ないときで……。


「それで、いきなりどうした?」


「どうしたじゃないよ。居るじゃない、クォーツはもちろん、皆の行動に精通してる人!」


「はぁ?」


  首を傾げるライトを連れて、“彼”を探しにいざ出発!


    ~Ep.119 声無き声・捜索~


  『でも、私が行って話してくれるかな……。』



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