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Ep.115 光と影と

  ポカンとしつつ去っていくマリンちゃんを見送ってから正気に戻った私は、小走りで昇降口に走った。


  あぁ、やっぱ皆待ってくれてる!


「ごめん、お待たせ!」


  靴に履き替え終えた皆が談笑……いや、笑っては無いけど、足を止めて何かを話してるのが見えて慌てて駆け寄った。

  真っ先に私に気づいてくれたレインが、私の革靴を下駄箱から出してくれる。


「レイン、ありがとう。」


「いえいえ、どういたしまして。この内履きもしまっちゃうね。」


  急いで靴を履き替える間にも、レインは丁寧に揃えて私の上履きを片してくれた。こう言う気遣いが出来る人って素敵だよね……。


「……遅かったな。あの後、なにかあったのか?」


「えっ?ううん、別に何もないよ。お別れの挨拶してちょっと話しただけ。」


  と、私が立ち上がるのを待ってから、柱に寄りかかっていたライトがじっとこちらを見てそう言った。私が普通に答えると、なんだか怪訝そうに眉が上がる。どしたの急に。そんなにマリンちゃんが嫌?


「まぁ、いいか。でも、気を付けておけよ?」


「……?う、うん、わかった。」


  声にしようとした何かを口の中で噛み潰して首を横に振ったライトは、よくわからないまま頷いた私の頭をぽんと叩いてから歩き出した。

  疲れてるから早く帰りたいんだろうな、普段は溢れてる気合いや元気がすっかり萎んじゃってるのがわかる。


「フローラ、もう用事は済んだんだよね?」


「え?あ、うん、大丈夫!」


「じゃあ、レインと三人で花壇見てから帰ろうよ。ね?」


  クォーツからの提案に、さっき生徒会室を飛び出す前にレインがそう誘ってくれてた事を思い出した。隣に立ってたレインを見ると、『先に場所を知っておけば、フローラも迷子にならないもんね』と笑ってくれる。方向音痴ですみません……。


「うん、じゃあ見に行こ!二人は場所わかるの?」


「僕は知らないけど、レインが知ってるみたいだよ?」


「以前、中等科のガーデン係の方から初等科に種を分けて頂いた事があって、それを取りに行った時に見たの。」


  『案内するね!』と歩き出すレインに、それをすぐ後から追いかける私。

  クォーツは、先に帰る二人に一声かけてくるって反対方向である寮の方に歩いているライトとフライを追いかけていった。


  じゃあ、クォーツが私達を見失わないように、少しのんびり目に歩きますかね。





「と、言うわけで僕らは花壇を見てから帰るね。」


「あぁ、係続行するんだっけか。わかった、じゃあ先帰るわ。」


「君達は意外とタフだよね……。まぁ、頑張って。」


「うん、また明日!…………二人共やっぱりフラフラだし、今は早く一人になりたいんだろうなぁ。」









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「わぁ……!」


  そんな訳でレインに案内されてたどり着いた中等科の花壇……らしさは皆無なそこを見て、一瞬言葉を失った。


  ガラス張りの明るい建物内に造られたそこはいわば温室らしくて、一歩足を踏み入れると花々の甘い薫りがして。建物の中心に進む小道の両サイドには、色とりどりの花がたくさん咲いていた。特にバラが多くて、乙女チックな感じですごく素敵!!


「すっごく綺麗だね!!ここがまるごと中等科の管理する花壇なの?」


「ううん、高等科の方と日付を決めて共有してるんだって。ちなみに、花壇じゃなくて“ガーデン”だよ。」


「“ガーデン”?」


  お庭ってことかな?うん、確かに小道やテーブル、椅子なんかのデザインを見てるとイングリッシュガーデンっぽい気がする。もちろん行ったことなんかないけども。


「そう、月・水・金曜日は高等科が、火・木曜日は僕たちの担当だって。」


「高等科の方が日数が多いのね。」


「あー、どうしても年上が優先だからね、仕方ないよ。」


  レインの問いに苦笑いでそう答えてから、『でも、休日には予約をいれればどっちの生徒も平等に使えるみたいだよ』と言って奥のテーブルを指差した。


  さっきから気になってたからそこに近づいてみれば、繊細な彫りの白い脚にガラスの丸板のついたテーブルが、射し込む陽射しを反射してキラキラと輝いている。こんな所でお茶が出来たら素敵だなぁ。この場所の雰囲気に合わせるならやっぱりコーヒーより紅茶だよね!お茶請けはクッキーやケーキを小さめで数種類……、いや、でもスコーンも要るか。プレーンがイギリス風で、チョコチップとか入ってるのがアメリカ風なんだよね?確か。


「あら、またフローラがトリップしてるね。」


「だねー、この場所がよっぽど気に入ったのかな。ほらフローラ、係の内容話すから帰ってきて!」


「ひゃっ!」


  私がスコーンとクロテッドクリームの起源に思いを馳せていると、クォーツに背中をバシッと叩かれて強制的に呼び戻される。

  って言うかビックリして変な声出た!恥ずかしい!!


「さーて、フローラも戻ってきたからざっと仕事について話すね。」


「ありがとう、レイン。ほらフローラも顔上げなって。僕達は何も聞いてないから。」


「ーー……。」


  いや、それもう確実に聞きましたよって言う決定打ですよね?

  でも、いつまでもこの場所に留まっている訳にもいかないので、うずくまって膝に押し付けていた顔を上げて立ち上がる。

  と、その時、ガラス張りの壁の向こう側にゆらゆらした影が映り込んだ気がした。


「あれ……?」


「ん?どうかした?」


「いや、今そこに何か影が映った気がして。」


「影……?」


  私の指差した先を見て、クォーツとレインも首を傾げた。でも、もうそこには影なんか映らず、私達の姿が反射されているだけだ。


「うーん、雲か何かの影じゃない?流れてるからどんどん変わってくし、そんな気にすることないわ。」


「……うん、そうだね。話止めちゃってごめん。お世話の仕方の話だよね?」


  その後、レインがガーデンの管理について簡単に話してくれるのを聞きながらも、どうにも私からはモヤモヤした感じが消えなかった。

  あれ、誰かの視線みたいに感じたんだけどなぁ……。でも、きっと気のせいだよ……ね?










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……マリンお嬢様、本日の調査結果でございます。」


「遅いじゃない!それくらいもっと早く持ってきなさいよ!!」


「申し訳ございません、より正確なデータをと思い調べておりましたら遅くなってしまいました。」


「あっそ。じゃあ、その言葉にふさわしいデータかしっかり見ておいてあげるわ。これの内容によって、明日からのライト皇子たちへのアピール考えるんだから。」




    ~Ep.115 光と影と~


『クシュッ!』


『あれ、風邪かい?珍しいね。』


『いや、至って元気なはずなんだが、今一瞬背筋が……。』



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