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Ep.106 子供の特権・後編



  『とりあえず、一回厄払いでも行くべき……?』



  お味噌をベースにした美味しいお雑煮でお腹が満たされてから、クォーツが持ってきてくれたのは、昔ながらの和凧(わだこ)独楽(こま)、そして羽子板だった。


「急ぎで用意したからあまり種類は無いけど……これでいいかな?」


「うん、十分だよ!ありがとう。」


「見たことはあるが、触ったことない物ばっかだな。」


「クォーツとルビーは、こう言うもので遊んだことがあるの?」


  ライトとフライが興味ありげにそれぞれ凧や独楽を手に取ってる。あ、ライトの手に凧の(ひも)が絡まった。


「ライト、それ絡まると地味に痛いでしょ。大丈夫?」


「あ、あぁ。紐が細いから意外と食い込むなこれ。だーっ、もう、ほどけねーし!!」


「あー、引っ張ると余計痛いよ。ほどいてあげるから、ちょっとじっとしててね。」


  切っちゃうと後で凧が使えなくなっちゃうしね。ライトの手を動かないように押さえて、持ち手になる方を動かして何とかほどくことが出来た。紐の間に一ヶ所結び目が出来ちゃったけど……。


「…………あ、ありがとな。」


「ライトの手からはほどけたけど、まだ紐自体は絡まってるよね、これ。」


「うぅ、申し訳ない……。ち、ちゃんとほどいとくから!皆は先遊んでて!!あ、あれ……?」


  フライの冷たい視線が痛くて背中に凧を隠したら、後ろ手の状態で今度は私の手に紐が絡まった。ど、どうしよう……。


「フローラ……、それひょっとして背中側で手固定されちゃってない?」


「そ、そんなことないよ、大丈夫!」


「だったら見せてみろよ、ほら。」


「あっ……!」


「何をどうやったら、今の一瞬でここまで絡まるんだろうね。ある意味敬服するよ。」


「フライ、女性にそんな意地悪を言うものではないよ。」


「フローラお姉様、大丈夫ですか?凧ならまだ代えがありますから、ほどけないようなら切ってしまっても大丈夫ですよ。」


「うん、でもこんな新しいのに、勿体無いから……。」


  せめて片手だけでも抜ければ何とかなりそうなのになぁ。引っ張れば引っ張るほど絡まり方が強くなっちゃってどうにもならないや。


「やれやれ……、ちょっと見せてごらん。」


「ーっ!は、はい。」


  と、数分の間一人相撲であたふたしていた私を見かねたのか、フェザー皇子が私の背中に回って座り込んだ。そして……


「はい、ほどけたよ。」


「えっ、もう!?」


「流石兄様だね、結び目ひとつ残ってないよ。」


「だな。……さっきの俺とフローラの苦労はなんだったんだって話だが。」


  フェザー皇子が見事にほどいてくれたそれを見て、ライトはちょっと呆れ顔、フライは逆に笑顔を浮かべた。フライの笑顔が心なしかちょっと自慢げに見えるのは、多分気のせいじゃないと思う。口には出さないけど。


「まぁ何にせよ無事ほどけたわけだし、皆で遊んでおいで。」


  フェザー皇子はこんがらがった紐をほどいて目が疲れたのか、眼鏡を外して眉間を軽く押さえながらフライの背中をそっと押した。それに促されて、クォーツが皆をお庭の中でも特に広い方に誘導して歩き出す。

  フェザー皇子はそんな弟達の姿を見ながら、一人縁側に腰を下ろした。


「フェザーお兄様、大丈夫ですか?ごめんなさい、迷惑かけて……。」


「え?嫌だな、迷惑だなんて思っていないよ。大丈夫だから、気にせずに遊んでおいで。皆はもう行ってしまったよ?」


  フェザー皇子は、そう言って頭を下げた私の肩をぽんと軽く叩いてから、『こうして自由に遊べるのは子供の内だけだからね』と笑った。そして、来年からは忙しくなるよと、鞄から参考書を出してヒラヒラと振って見せた。

  その仕草がさっき手帳を振って見せたフライによく似ていて、何となく笑みが溢れる。


「じゃあ、お言葉に甘えて思いっきり遊んできます!」


「うん、行ってらっしゃい。」


  そして、フェザー皇子のお兄ちゃんらしい優しい笑顔に見送られながら、私も皆の方へと向かった。

  小学生最後のお正月、楽しまなくちゃ損だよね!










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「皆ーっ、何やってるのー?」


「フローラ!遅かったね。」


「今は独楽(こま)回しをしている所ですわ。お姉様も、お好きな物をどうぞ!」


「え!?いや、私は独楽はいいかな……あはは。」


  ルビーが色とりどりなそれを差し出してくれるけど、実は私……


「なんだよ、一緒にやろうぜ。ほら!」


「ライト、独楽だけ渡しても遊べないって。フローラ、はい、紐。巻き方はわかる?」


「うん、巻くのは大丈夫……、ありがとう。」


  と、断る間もなくライトとクォーツが独楽と回すようの紐を渡してくれた。巻き方はわかるから、とりあえずちゃんと3~5センチ紐を残して独楽にしっかりそれを巻き付ける。


「よし、行くぞー。それっ!」


「……えいっ!」


「ーっ、おっと!」


  皆はすでに紐を巻き終えてたから、私が巻き終わるとすぐに皆でそれを回した。……否、正確には、回そうとした。


「ごっ、ごめんねフライ、大丈夫!?」


「ぶつかりはしなかったから平気。……それにしても、どうやったら真上に飛ぶのさ。」


  皆の回した独楽はちゃんと正面に行ったのに、私の独楽だけ真上に飛んで、隣にいたフライの方へと落下した。うぅ、やっぱり上達してなかった!私、独楽回せないんだよね……。


「フローラ、もしかして回せないの?」


「うん……、巻き方は練習したからいけるんだけどね、回すのはどうにも苦手で。」


  前世の小学校で学童に入ってた時にやり方習ったんだけど、結局一度も回せなかったんだよね。


「では、フローラお姉様は私と羽子板に致しましょう!元々、独楽回しは殿方向きの遊びですし。」


「う、うん、そうだね。」


  あぁ、ルビーにも気を使われている!今はその優しさが痛い……。


  ちょっと落ち込んでる間に、ルビーが『さぁ参りましょう』と羽子板片手に男の子達から離れた場所に誘導される。アースランド城って、お庭広いなぁ……。


「さぁ、一対一で真剣勝負ですわ!」


「うん!じゃあ、行くよー!」


  流石にペナルティの墨はないけど、ルビーがやる気満々に着物の袖を捲って宣戦布告してきた。初めて会った時も勝負から入ったし、ルビーも意外と負けず嫌いだよね。


  よーし、独楽はダメダメだったけど、羽根つきなら負けないよ!!










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ま、参りました……!」


「ふ、フローラお姉様……!」


  10試合やって、勝てたのはたった一回だけ。流石、生まれながらのアースランド人と言うべきか、ルビー強すぎるよー……。


「なんだ、フローラの完敗か?」


「ライト!か、完敗ではないよ!何とか一勝はもぎ取ったからね?」


  ぼろ負けに落ち込んで長椅子に座り込んだ所で、片手で独楽を弄びながらライトがこっちにやって来た。フライとクォーツはまだ向こうで独楽回ししてるみたいだけど。


「ふう……。申し訳ありません、ちょっと冷えてしまったので着替えて参りますわね。お二人はゆっくりなさっていて下さい。」


「それは身体に良くないね、行ってらっしゃい。」


「流石に動いたあとは冷えるよなやっぱ。フローラ、隣いいか?」


「うん、どうぞ。」


  着替えに行ったルビーを見送ってから、ライトと二人で長椅子に座ってお茶を頂く。アースランドの緑茶はやっぱり美味しいです。


「ところで、ライトはもう遊ばないの?三人で勝負してたんじゃないの?」


「独楽は勝ったからもう良いんだ。次は凧上げでもやろうかと思ってたんだが、アイツ等がまだ独楽回し中でさ。」


  そう言われて見てみれば、クォーツとフライはただ独楽を回すんじゃなく、回した独楽を手のひらに乗せたり、回すようの細い紐の上で滑らせたりしていた。器用だなぁ……。そして、今日が独楽回し初体験の筈のフライが一番上手いのは何故!?


「アイツは何やらせようが器用なんだよ、腹立たしい位にな。人が上手く紐巻けないからって鼻で笑いやがって……!」


「え?なんだ、ライト紐巻けないの?」


  独り言っぽく呟かれたその言葉に隣を見れば、ライトはしまったと言わんばかりに勢いよく目を逸らした。初めてなんだから、別に恥ずかしがること無いのに。


「紐にも巻き方があるし、これややこしいんだよね。なんだったら、私が巻こうか?」


「はぁ?」


  私は巻くのしか出来ないし丁度いいんじゃないかなと思ってそう言ったら、ライトの眉が不機嫌そうに寄った。私、何か気に触ること言ったかな……。


「何言ってんだよお前は。それじゃお前が遊べないだろうが。」


「ーっ!そ、そう……だね。」


  『何を馬鹿なこと言ってるんだか』なんて呆れ顔で、ライトが凧を持って立ち上がるのを唖然と見つめる。


「ほら、行こうぜ。丁度風が出てきたしな。凧上げって、風がないといけないんだろ?」


「う、うん!」


  私が呆けてる間に、ライトが私の手を掴んで歩き出す。


  なんかちょっと驚いたけど……、ライトってちゃんと周りの人たちの事考えてるんだなぁ。


「うーん、上手く上がらないな……。フライもいつまでも一つの事やってねーで、魔力で風でも起こして貰いたいよな。」


「ふふ、フライは風使いだもんね。」


「あぁ。濡れたときには俺に服乾かさせといてさー……」


「へぇ……、じゃあご希望にお答えしようかな。」


「え!?」


  その声に驚いて振り返る前に、ライトが上げてた凧にだけピンポイントで小さな竜巻が当って勢いよく舞い上がった。……って傍観してる場合じゃなくて!


「うわぁぁぁぁっ!?」


「ら、ライトーっっ!!フライ、なんて事するの!?ライト飛んでちゃったよ!!!」


「だって今飛ばしてほしいって言ったじゃないか。」


「飛ばしたかったのは凧だけだよ!!もーっ!」


「ーっ!」


  天使のように綺麗な悪魔の微笑みを浮かべるフライ。普段はそうでもないのに、たまにとんでもない事するんだから……!

  流石に小学六年生に『めっ!』とは出来ないので、まだ持ったままだった羽子板でフライの頭を一発叩く。流石に角は使わないけど。


「ライトーっ、大丈夫ーっ!?」


  頭だしそんなに強くは叩かなかったけどそれでも痛かったらしく頭を擦るフライに、魔力で濡らしたハンカチだけ渡してから、ライトが飛ばされた方に走る。その落下地点には、先にクォーツとルビーが辿り着いて慌てていた。


「ら、ライト大丈夫!?ルビー、タオル持ってきて!!」


「は、はい!」


「フローラはライトを引き上げるのを……あぁ、でも着物が濡れちゃうか。」


「ううん、私も手伝うよ!ライト、動ける?」


「……っ、げほっ……!な、何とかな……。」


  ライトが落っこちたのは、なんと広ーいお庭の一角にある比較的小さな池のなかだった。

  ライトが着てるのが着物じゃなくて良かった、洋服のがまだ軽いから、濡れた状態でも二人がかりでなんとか引き上げられそう。

  にしても、この確率が低い状態で水浸しかぁ。これってやっぱり……


「……根腐れ、か。これじゃ大雨ってか嵐だな。」


  ようやく池から引き上げたライトが、ぼそりと小さく呟いた。やっぱり、あのおみくじだよね……!本当にごめん!



   ~Ep.106 子供の特権・後編~


  『とりあえず、一回厄払いでも行くべき……?』



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