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Ep.105 子供の特権・前編



  『子供にとっては、これが一番のメインイベントだよね。』




  お正月と言うことで賑わう町を眺めながら、私達を乗せた馬車……ではなく牛車がゆっくりと進んでいく。

  本当なら、初詣の後は皆それぞれ自分の国の馬車でアースランド城に向かうはずだったんだけど、うちの馬車がお父様達を乗せて先に出てしまっていた事と、フェザー皇子に運んでもらったことでハイネに怒られてる姿を皆に見られたこともあって、気を使ってくれたクォーツの提案によって牛車を使って子供達だけでお城に向かうことになったのでした。まぁ、防犯の為に前後は騎士と使用人の人達が乗る馬車で固められてるけどね。


「牛車なんて初めて乗ったけど、馬車よりゆっくりとしていて景色が楽しめて良いね。」


「それは良かったですわ。他国ではあまり知られておりませんが、我が国では古来よりある交通手段のひとつなのですよ。」


「へぇ、そうなのか。でも、クォーツ達も普段は馬車だろ?」


「はは、まあね。牛車は力はあるけど、馬車に比べて大分ゆっくりだからさ。今では観光くらいにしか使われてないんだ。この牛車は、今日のために城の皆が用意してくれたものだけどね。」


  羽根つきにめんこ、駒回しに凧上げなど、懐かしさを誘う光景を眺めながら、話している皆の声に耳を傾ける。

  そう言えば、日本史の授業で昔の貴族は牛車を利用してたってやったなぁ。確か……平安時代辺りだったっけ。あんまり覚えてないけど。


「フローラ、またぼんやりしてどうしたの?」


「え?ううん、どうもしないよ。ただ景色見てただけ。」


  そんな定かでない知識を手繰り寄せてたら、隣に座ってるフライがまた微笑を浮かべながら私を見ていた。フライはさっきから会話に参加してないし、フェザー皇子もクォーツ達と話し込んじゃってるから暇なのかな。ゆっくりと進んでる分、乗ってる時間が長いもんね。

  何か話題は……


「スプリングでは、お正月独特の文化とかある?」


「いや、全然。うちはどちらかと言うと、春から秋にかけての行事や文化が多いからね。ミストラルは?」


「うちもお正月はなにもないなぁ。どっちかって言うとクリスマスを盛大にやって、そのまま年越しって感じかも。」


「やっぱりそうだよね。あぁ、そう言えばフローラが海洋生物館でくれたクリスマスプレゼント、帰ってから兄さんと開けたよ。これ、ありがとう。」


  そう言って、フライがジャケットの内ポケットから手帳を出してヒラヒラと振った。

  気に入ってもらえたなら良かった。きっちりした性格のフライとフェザー皇子はスケジュール帳をいつも持ち歩いてるから、水族館で今年用のスケジュール帳があったときにこれはいいなと思ったんだよね。流石に男の子の兄弟でお揃いは気恥ずかしいかなと思ったからデザインは二人にそれぞれ違うのを選んだけど、どっちも海のなかをイメージしたきらびやかな絵が表紙になってて素敵だと思う。それにしても、小学生からちゃんとスケジュール管理してるなんて、改めて考えると偉いなぁ。


「そう?生徒会役員ともなると何かとやることが多いからね、ちゃんと書いておいた方が後々楽なんだよ。」


「そう言うものなんだ。」


  私もちゃんとスケジュール書いてみようかな、忘れっぽいし。……あれ、私今声に出してたっけ?











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おかえりなさい、クォーツさん、ルビーさん。」


「ただいま戻りました、お母様。」


  アースランド城に着いて、新しい草履を頂いてからお庭まで行くと、各国の王様、王妃様が集まって、お城の庭でお雑煮を食べていた。クォーツとルビーのご両親は着物だけど、うちのお母様を始め他の王妃様達はドレスだから、お雑煮を持ってるとちょっと違和感が……、でも。


「お雑煮、美味しそうですねぇ。」


「ふふ、フローラ様は我が国のお正月は初めてよね。是非楽しんでいって下さいな。」


「はい、ありがとうございます。」


  お母様の器を覗き込んでたら、華やかな晴れ着を纏ったクォーツのお母様が私の方に来てそう言ってくれた。こんな間近でお話するのひさしぶりだけど、クォーツに似ててすごい優しそうな人だなぁ。

  と、整っているその綺麗な顔を見上げていたら、王妃様は何かを思い出したようにぽんと自身の両手を合わせてから何かを取り出した。


「あぁ、そうだわ。皆さんにはこれをあげないとね。」


  そう言って笑う王妃様の手にあるのは、富士山の絵が入った小さな封筒のようなもの。これはひょっとして……


「アースランドには、年明けに大人が子供にお金をあげる"お年玉"と言う風習があるの。はい、フローラ様もどうぞ。」


  やっぱりお年玉だ!!受け取っちゃって良いのかオロオロしてる内に、他の皆はそれぞれお年玉袋を受け取ってはしゃいでいた。

  お母様とお父様の方を見ると、二人は微笑んでこっちを見てるだけ……。どうやら、お母様達は納得済みらしい。


「あ、ありがとうございます。」


  躊躇(ためら)いつつ受け取ったそれは、お年玉と言うにはずいぶん分厚く感じる。流石に頂いた方の目の前で開けて中身を確認するなんて失礼な真似は出来ないけど、これ……かなりの額が入ってるんじゃないかな。


  お気持ちは嬉しいけど、前世ではお母さんから毎年無理してのお年玉をもらってた身としては、この年で大金をもらっちゃうのはなんだか申し訳ないな……。普段は自分でお金を扱う機会もないし。


「フローラ様、どうされました?」


「いえ、何でもございませんわ。本当にありがとうございます。」


「いえいえ、喜んで頂けたなら私達も嬉しいわ。フローラ様にはいつもクォーツさんとルビーさんがお世話になっているようでしたから、いつかちゃんとお礼をしたいと思っていましたの。」


「ーっ、お、お母様!」


  王妃様がそう言うと、その隣に立っていたクォーツが焦って声を上げた。ルビーはそんな兄の隣でクスクスと笑ってるけど……。二人とも、ご両親に学校での事とかちゃんと話してるんだなぁ。

  お世話になってるのは、むしろ私の方な気がするけどね。


  そんな中、王妃様は大人同士の付き合いがあるみたいで優雅に去っていった。それを見送ってから、私達にもお雑煮とお節を用意してくださってるということで、クォーツとルビーに連れられてお母様達が居るのとは違う、もう少し小さなお庭に移動する。


「全く、お母様ったら余計なこと言って……!」


「まあまあ、お兄様、落ち着いてください。」


  移動中、クォーツはちょっと怒りながら歩いてて、ルビーに何度もなだめられていた。温厚なクォーツがこんなになるのは珍しいけど、六年生ともなると多感な時期だからね。ちょっと恥ずかしかったのかな。


「フローラも、気を悪くしたらごめんね。」


「え?そんなことないよ。クォーツとルビーはご両親と仲が良いんだね。」


「……そ、そうでもないよ。それより、今日は皆は泊まって行くんだよね。お雑煮とか食べてから、やりたいこととかある?」


  あら、照れちゃった。

  少し顔を赤くしたクォーツは、私から目をそらしつつそう言って立ち上がった。


  やりたいことかぁ、私は後でライトに魔力の特訓つけてもらうことになってるからそこまで空き時間がある訳じゃないし、特別希望は無いんだけど……。

  先に料理を食べ出してる皆も、特に希望は無いみたいだ。


  うーん……、こう言うとき、『何でもいい』って返答が一番困るよね。


  お雑煮の汁をすすりながら考えてたら、さっき牛車から見た町中の子供たちの姿を思い出した。


「じゃあ、羽子板とかある?お正月遊びがやりたいな!」



    ~Ep.105 子供の特権・前編~


   『子供にとっては、これが一番のメインイベントだよね。』




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