Ep.104 おみくじなんて当たらない
『"初めは晴天"なんて嘘ばっかり!でも、これならライトの"根腐れ"も当たらないかな?』
たくさんの人達で賑わっているおみくじ売場には、定番の棒に書かれた番号の引き出しからおみくじを取るものから、おみくじと一緒に天然石やミニだるまが当たる物まで色んな種類があった。
「へぇ、こんなに種類があるのか。」
「なんか目移りしちゃうね、それぞれ好きなやつ引く?」
「そうだね。……あ。」
皆でぶらぶらとおみくじを見て回りながら歩いてたら、クォーツが一つのおみくじの前で止まった。
えーと……、"花みくじ"?
「その年の運勢を花の成長に例えてるんだ。小さな押し花もついてて可愛いし、お勧めだよ。」
「そうなんだ。クォーツとルビーは引いたことあるの?」
「うん、あるよ。結構当たるんだ、これ。」
「私は、フローラお姉様と仲良くなった年に、"雨風に堪えた後、友情花開く"と出てましたわ。これって、当たっていると思いませんか?」
「確かにそうだね!押し花欲しいし、私はこれにしようかなぁ。」
二人が進めてくれたそれは、お金を払ってガラスの箱に入った小花柄の封筒を取るタイプのおみくじだった。なんか懐かしいなぁ、こう言うの。
「じゃあ、俺もこれでいいや。やり方とかよくわからないし。フライはどうする?」
「僕は引かないでおくよ。あまり信じてないから、こう言うの。」
「なんだよ、夢のない奴だな。フェザー兄は?」
「僕は昔ながらの棒を引くタイプのにするよ。皆はここで引いて待ってて。」
それだけ言い残してフェザー皇子が歩いていくのを見送ってから、皆で一枚ずつ小花柄の封筒を引いた。
あ、私はピンクだ。
「えっと……、押し花は桜だ。しおりになってるんだね。」
「えぇ、素敵ですわね。」
「垂れ桜かぁ、押し花になるには珍しい桜だね。花言葉は確か……」
「"優美"と"ごまかし"……だよね。」
優美はともかく"ごまかし"かぁ……、耳が痛い花言葉だけど、まぁそこまで他意はないよ……ね?
「き、気にすることないよ。このおみくじ押し花はあくまでオマケだから!さぁ、おみくじ読んでみたら?」
「うん、そうだね。」
封筒から、同じく可愛い小花柄の紙を出してそっと開いてみると、一番上に"蕾"と大きく書かれていた。
どうやら、私の今年の運勢は"蕾"らしい。
えーと、"今年の貴方の運気は初めは晴天に恵まれすくすくと成長するが、先に進むにつれ雨風にさらされ、蕾は開かぬまま終わるでしょう"……なるほど。
「"末吉"の反対みたいな運勢だなぁ……。皆はどうだった?」
「私は"開花"でしたわ、著しい成長に恵まれる一年だそうです。」
「僕は"芽生え"。今までにない新たな考えが生まれるって。」
「へぇ、二人ともいい感じだね。ライトはどう?」
「ーー……。」
フライが質問したのに答えないライトが気になってそっちを見ると、ライトは赤い小花柄の紙を見て固まっていた。
「ら、ライト?大丈夫??」
「……俺、今年は"根腐れ"するらしいぜ。」
「え!?」
『読んでみるか?』と差し出されたそれには、"今年の貴方の種には常に雨雲が付きまとい、大量の雨水で根腐れを起こすでしょう"と書かれていた。
「あらー……、"凶"みたいな感じかな?」
「まぁ別にこんなもんどうせ当たらないから気にしないけどな、うん。」
紙を返すとライトはそれを片手で握りつぶしながら、自分に言い聞かせるようにそう言っていた。そんなライトの姿を見て、フライが……
「……夢が無いね、ライト。」
と呟いた。あーあ、そんな追い打ちかけたら……
「こんな文に夢もへったくれもあるか!!」
ほら、またケンカになった。全くもう、仲が良いんだか悪いんだか……。
「やれやれ、飽きないよねあの二人も。」
「ふふ、ホントにね。」
「このまま言い争わせてると目立っちゃうし、僕とルビーでフェザー兄さん呼んでくるね。」
あら、行っちゃった。確かに、フェザー皇子ならあの二人……特にフライを止められるもんね。私も行った方が良かったかな?でも、草履の鼻緒で靴擦れしちゃって痛いから今は早く歩けそうにないし、それに……
「……もう手遅れだよねぇ、こんな悪目立ちしてたら。」
「二人とも、ただでさえ目立つタイプだからね。全くもう……。」
フライはそうでもないけど、ライトが結構声大きいからすでに周りの参拝客の人達が二人を指差してざわざわし出してる。これは良くない。ブランの言葉に腹をくくった私は、ちょっとライトの勢いが落ちたタイミングで二人の間に割って入った。
「はいはい、二人とも、いい加減にしなさい。ほら、ちょっと離れて。」
「フローラ!……珍しいね、君がこんなことするなんて。」
「いつもなら別にこれくらい良いんだけど、こんな目立つ場所でケンカするからだよ。ほらライトもそんな怒らないで。悪い結果のおみくじはここに結びつけていけば悪い運気は置いていけるから。」
「……ちっ、わかったよ。やり方教えてくれ。」
「じゃあ、まずそれを細く折って……」
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「あれ?もう落ち着いたの?」
ライトのおみくじを木に縛り終えて歩き出すと、丁度向かいからフェザー皇子とクォーツ、それにルビーが歩いてきた。それぞれ、両手に湯気の立つ紙コップを持って。
温かいお茶が配られてたから貰ってきてくれたんだって。ずっと外に居て身体が冷えてるから、これは嬉しいね。
「フライとライトの口喧嘩にしてはずいぶん早く終わったんだね。」
「……っ、フローラに止められたんだよ。」
「まぁ、今日はフローラお姉様がお二人のお姉様みたいですわね。」
「……この間の水族館では誰よりはしゃいでたくせにね。」
「うっ……!い、いいじゃん。楽しかったんだから。」
まぁ、確かにあの日は帰ってからクタクタになってたハイネを見てちょっと反省したけど……フライに言うとまた毒舌が降ってきそうだかは黙っておこう。
「で、結局ライトのおみくじはどうなったの?」
「あぁ、フローラが木に結びつけりゃ良いって言うからそうして来た。」
ライトの言葉に、クォーツとルビーが『そんな風習あるね』と納得してる。良かった、やり方あってたみたい。
これで安心して帰れるねと、皆で帰り道に向かっていたその時、ルビーがふと何かを思い出したように足が止まった。
「でも、あのおみくじ、濡らすと裏面に運気を上げる方法が浮き出るのですよ。」
「……え!?」
「マジかよ!?」
「それは僕も初耳だなぁ。本当なの?ルビー。」
クォーツの問いに、『だったら試してみますか?』とルビーが自分の引いたおみくじを取り出した。
「フローラお姉様、これを濡らしていただけますか?」
「うん、わかった。」
指で紙の上下を摘まんでピンと張らせたルビーに頼まれて、小さな水球を作って紙に優しく当てる。
すると、その水が見る間に吸い込まれて、確かに文字が浮き上がって来た。
「本当だ……。」
「"今年の貴方の肥料は、新たな出会いです"、だってさ。」
「……なるほど、これで多少花の育ち具合が変わると。」
あぁ、なんだか背中にライトの視線を感じるけど恐くて振り向けない!
いや、でも今ならまだ……!
「ら、ライト、今ならまだ歩いて戻れるし、私さっきのおみくじ取ってこようか?」
とは言え、結んで来ちゃったのは私の提案のせいだもんね。
そう思って恐る恐る提案しつつ振り返れば、ライトは私の足元をチラッと見てから小さくため息をついた。
「……いや、いいよ別に。」
「でも……」
「いいって、根腐れが肥料ごときでどうにかなるとは思えないしな。それに、お前その足で戻るの辛いだろ。」
「ーっ!」
気付いてたんだ……。引き摺ったり、変な歩き方にならないように気を付けてたのに。
「えっ、フローラ怪我してたの!?」
「もしや鼻緒で擦れたのですか?それは痛い筈ですわね、気づかなくて申し訳ございません!」
「い、いや、普通に歩く分には大丈夫だよ!」
「全く、慣れないもの履いてくるからだよ。とにかく、これ以上は無理して歩かないことだね。」
「そうだね。本当に大丈夫かい?なんなら、馬車のところまで僕が送るよ。」
わーっ、なんか大袈裟になってる!!
ここは何とか大丈夫だってアピールしないと……!
「ほ、本当に大丈夫だから!ほらほら!!」
痛くない方の足を軸に、軽くぴょんぴょん飛んで見せる。ところが……
「ほら……きゃっ!!」
「あっ!鼻緒が!!」
「そりゃ、跳び跳ねたら切れるに決まってるよね。」
「何やってんだよお前は……。これじゃあどのみち歩けないな。」
「はは……、フローラも案外お転婆だよね。」
草履の鼻緒がぷつっと切れて脱げてしまった。幸い転びはしなかったけど、皆の苦笑いが居たたまれない……!
結局、フェザー皇子に抱えてもらって馬車まで戻った私は、いつもの如くハイネにみっちり叱られたのでした。
~Ep.104 おみくじなんて当たらない~
『"初めは晴天"なんて嘘ばっかり!でも、これならライトの"根腐れ"も当たらないかな?』




