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Ep. 102 手に負えない奴(ライトside)



  『……で、男がぬいぐるみ貰ってどうしろと?』



「フローラ、早いな。」


「あ、ライトおはよう!うん、楽しみで早く目が覚めちゃって。」


  おいおい、ガキかよ。

  海洋生物館……もとい水族館の門の前で、無駄に大きなカバンを持ったフローラがキラキラした笑顔を浮かべる。

  ま、楽しみなのは結構だがな。


「お前はちゃんとイルカ見ろよ?」


「はい、ライト先生!!」


「……何やってるの、君達。」


  ビシッと手を構えながらいい返事をした生徒の頭を撫でていたら、一緒に出掛けて来たのかフライを筆頭にいつもの面子が集まってきていた。

  ……フライなんかいつもは遅刻魔の癖に、今日はずいぶん早いじゃねーか。


「皆、おはよう!じゃあ、早速だけど入ろっか!」


「姫様、貸し切りとは言えスタッフの方々は中にいらっしゃいますからね。くれぐれも、はしゃぎすぎないで下さい。」


「過保護なメイドさんだねぇ。フローラ様は大変聡明でいらっしゃるし、大丈夫だろうに。」


「そちらのライト殿下のお荷物、何か仰いましたか?」


  と、一応保護者としてついてきていたフローラの専属メイドのハイネとうちのフリードの間で火花が散る。この二人、本当に……


「ライトお兄様、あちらのお二人は一体どういう仲なのですか?」


「いや、俺もよく知らん。それより、フローラがあまりに楽しみすぎてさっさと中行っちまったから追いかけるぞ。……って、フライとレインはどうした?」


「あの二人なら、もうフローラを追って中に入っていったよ?」


「アイツ等もかよ!!」


  ったく、フローラと言いフライと言い、目を離すとどこ行っちまうかわかったもんじゃないな。

  今日、安全性を考えてフローラの両親がここを貸しきりにしたのは正解だったかも知れないな。


「でも、フローラ自身は貸しきりに反対してたんでしょ?」


「あぁ、他の客やここの従業員に申し訳ないってな。で、散々話し合って"休館日に借りる"ってことで落ち着いたらしいぞ。」


「まぁ、フローラお姉様は本当に真面目ですわね。」


  真面目ってか、アイツはいつも自分より周りが優先なんだよな。まぁ、それは別に悪いことじゃないんだが……


「あんまり人が良すぎるのもなぁ……。」











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「次はイルカショーに行こう!!」


「わぁ、いいね!いこいこ!!」


「ここのメインイベントですものね、参りましょう!」


「姫様、ルビー様、レイン様、お願いですから走らないで下さい!」


  踊るように軽やかな足取りで進んでいくフローラと、そんなアイツと一緒に駆けていくルビーとレインを、ハイネが慌てて追いかける。

  あの光景を、朝から何度目にしたことか。


「アイツ等、なんで今日あんなはしゃいでるんだ?」


  元々フローラは今日は実技で作るテーマであるイルカの観察に来てるんだからな。……とアイツに言ってやりたいが、追い付いたと思えば次の場所に行ってしまうから捕まりやしない。


「まぁ、女の子はこう言う場所が好きだからね。」


「そうだね。特に今回は、三人とも生き物が好きだから尚更かも。」


  俺の右側を歩くフライは肩をすくめて苦笑し、左側を歩いているクォーツは妹が楽しそうなのが嬉しいのかにこやかに笑っている。いや、まぁフライも笑ってはいるんだが、クォーツの笑顔とフライの笑顔はなんか質が違うんだよな。


「ライト、ぼんやりして何を考えてるんだい?」


「……っ、いや、大したことじゃねーよ。さ、これ以上置いてきぼり食らう前に追いかけようぜ。」


  だから、その笑顔が恐いんだお前は!


  とは言っても、まぁ長い付き合いだし今更そんな恐怖は感じないがな。それに、いつの頃からかはハッキリしないが、自然な表情も増えたし。

  昔はケンカしてるとき意外何考えてんのかわからなかったのにな。まぁ、今でも意味不明と言うか、意図が読めないときは多々あるが。


「ライトーっ、フライーっ、クォーツーっ!早く行こうよーっっ!!」


  その声に思考を遮られて顔を上げると、大分先で『置いていっちゃうよー!』と跳び跳ねながら手を振っているアイツの姿が目に入った。


  その無邪気な子供みたいな姿に苦笑して隣を見れば、二人も俺と同じような表情(かお)をしている。


「やれやれ、今日の彼女は本当に元気だね。」


「あはは……。フローラって、大人びてるときと子供っぽい時の差が激しいよね。」


「ははっ、確かにな。まぁ、とにかく行こうぜ!俺もイルカ見たいし。」


  そして、アイツがちゃんと真面目にイルカを見るか監視したいし。まぁあのはしゃぎようじゃ心配だが。


「あ、ライト!待って!!」


「ーー……さっきフローラ達に注意しといて、結局ライトもクォーツも走ってるじゃない。」


  ため息混じりにそう呟きつつちゃんと追ってくるお前も人の事言えないぞ、フライ。


「やれやれ、お子様方は元気ですねぇ。」











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あーっ、可愛かったねー!!」


「そうだね!私も本物のイルカ初めて見たけど、あんな大きいのに顔は優しいんだね。」


「撫でさせて貰ったとき思ったけど、肌もつるつるで柔らかいんだねぇ。」


  イルカショーを見た帰り道、フローラはレインとクォーツと三人で。そして兄を取られて拗ね気味だったルビーはそれを見かねたフライと二人でそれぞれ土産物を見ている。

  俺はそんな皆の姿を見ながら、手近な柱に少し寄りかかった。


「あー、疲れた……。」


  ミストラル屈指の水使いの魔術と、海洋生物の中でも特に知能が高いとされるイルカの芸を組み合わせたショーは、確かに思ってた以上に見応えがあった。

  貸し切りだから一番前の席に座って見てたら、イルカの上げた水しぶきを頭から被ったのには皆驚いたけど。更に驚いたのがそのあとのフローラの反応。

  全員が体から滴り落ちる程の量の水に驚いて唖然とする中、全員にタオルを配りながら『イルカショーって前で見ると濡れちゃうんだよね~』と笑ったその姿に、『知ってたなら先に言ってくれよ!』と抗議したくなったのは俺だけじゃないはずだ。

  まぁタオルはありがたく使わせて貰ったがな。そして、今朝持ってた無駄に大きな荷物の中身はタオルだったわけかと一人こっそり納得した。

  そしてその後、タオルである程度水気を拭き取った全員の身体を俺が魔力で乾かしたって訳だ。


「殿下はお土産を見なくてよろしいのですか?」


「え?あぁ、そうだな。父上と母上に何か見繕うか。」


  そんなわけで、思わぬ魔力の消費で疲れてあんま土産は見る気無かったんだが、すぐそばで俺の事を見ていたフリードがそんな事を言うのでブラブラと店を見て回ることにした。

  皆まだ所狭しと並ぶ様々な商品に目移りしてる中、フローラだけはいつの間にか買うものを決めたらしく一人でさっさと会計を済ませていた。優柔不断っぽいのに、ちょっと意外だと感じたのは言わないでおこう。

  それにしても……


「お前、ちゃんと今日の本来の目的果たしたか?」


  イルカショーの間も何度かフローラの姿は確かめたんだがただひたすらにはしゃいで楽しんでるようにしか見えなかったので、会計から戻ってきたアイツを捕まえて聞いてみたら、『もちろん大丈夫だよ!』と自慢げに紙袋から何かを取り出した。


「これは……、イルカのぬいぐるみか?」


「うん。これなら立体でイメージしやすそうだと思って。それにふわふわで可愛いし!」


  抱き枕に出来そうな大きさのそれをぎゅっと抱きしめて見せてから、『ライトにも一個あげるね!』とフローラが俺にもう少し小さなイルカのぬいぐるみが入った紙袋をくれた。


「ちょっと遅くなっちゃったけど、クリスマスプレゼントってことで。じゃあ私、皆にも渡してくるから!」


「あ、あぁ……、ありがとう。」


  全員にぬいぐるみ買ったのか!?と思ったが、クォーツとフライが受け取っている袋からはイルカは顔を覗かせて居なかったことに安心しつつ、俺は貰ったイルカと目を合わせて密かにため息をついた。

  全く、本当にアイツは何考えてるのかわかんねーな。


   ~Ep.102 手に負えない奴(ライトside)~


『……で、男がぬいぐるみ貰ってどうしろと?』





  

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