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Ep.98 ライト先生の特別講義・その3


   

 『しかも、水族館ってなかなかのデートスポットだよね、多分……。』



  ライトによる個人指導が始まって、早二週間が過ぎました。

  生徒会の仕事だ個人的なスケジュールだと平日は何かと忙しいでしょうに、絶対毎日少しでも時間を作って見に来てくれるので、私の魔力コントロールも大分上達した……と、思う。


「単純な形なら、作れるようになったんだけどなぁ……。」


  と、そんなことを呟きながら、目の前の泉の水で丸や三角、四角形を作り上げてみる。

  ライトの指導が思っていた以上にわかりやすくて、しかも基礎からみっちりやってくれるから応用力の無い私にはよく合っていたみたいで、ここまではわりとすぐ出来るようになったのだけれど。


  全ての図形を一度泉に戻して、集中する為深呼吸。


「……水よ、イルカになりなさい!」


  私の声に反応して、水面からひとつの水球が現れる……が、イルカの姿になろうとぐにゃりと形を歪めるなり、シャボン玉みたいに弾けとんでしまった。


「やっぱ駄目かぁ……、やっぱり」


「一度実物を見ないと難しいのかも知れないな。」


「ーっ!」


  私の言葉を引き継ぐようにそう言いながら、ライトが『真面目にやってるみたいだな』なんて片手をヒラヒラと振った。今日の仕事はもう終わったみたいね。


「うん。せっかく貴重な時間を割いて教えて貰ってるんだから、誰より私が頑張らなくちゃね!」


「いい心がけだ。」


  気合いを入れるようにぐっと拳を握ってそう答えた私の頭をライトの右手がぽんぽんと叩く。そう言えば、ライトまた背伸びたなぁ……。


「ところで、練習の件について提案なんだが。」


「え?」


  『まぁ一旦座れ』とライトが切り株にハンカチを敷いてくれたので、とりあえずそこに腰掛ける。

  と、ライトが手にしていたカバンから一枚の紙を取り出した。


「それは?」


「今年度いっぱいの校内行事予定表。これの通りに進むなら、実技の卒業試験は1月……つまり、冬休み明けだ。」


「うん、それで?」


「だから、冬休みの間に一度、生のイルカ見に行ってみたらどうかと思って。」


「え!?」


  『丁度、ミストラルに海洋生物館が出来たんだろ?』と言うライトの言葉に、そう言えばそうだったと思い出す。最近忙しかったし、すっかり忘れてたよ……。


「確かに、水族館ならイルカも居るかも!」


「……洒落か?ま、とにかく決まりだな。」


「せっかくだから皆で行きたいね。」


「何言ってんだ、当然全員誘うだろ。」


  あ、左様でございますか。

  結局、ライトが男の子達を、私が女の子達を誘って、年明け前に皆で水族館に行くことになった。


  思わない形での約束になったけど、楽しみだなぁ。


「お前はあくまで勉強に行くんだからな、履き違えるなよ。」


「うっ……!」












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「でね、皆で冬休みに水族館に行くことになったんだ!だから、またハイネに保護者をお願いしたいんだけど……。」


「もちろんそれは構いませんが……、くれぐれも騒ぎは起こさないようにしてくださいね。」


「うん!ありがとうハイネ!!」


  数日後、自室で水族館行きのことを話しつつそうお願いすると、ハイネは快く引き受けてくれた。あ、そうだ、保護者と言えば……


「ライトがフリードさんも来るって言ってたんだけど、ハイネっていつからフリードさんと親しいの?」


「ーっ!?」


「ちょっ、ハイネ大丈夫!?」


  と、何となく聞いたその言葉にあからさまに狼狽えたハイネは、足を滑らせてせっかく整え中だった私のベッドに突っ込んだ。

  慌てて駆け寄ってその細い身体を起こすのを手伝おうとすると、『大丈夫ですからお止めください』と断られてしまう。


「でも……」


「主人が従者を必要以上に甘やかすものではありませんよ。」


  えー、そんな大袈裟な……。


「お返事はどうされました?」


「…………。」


「……姫様。」


「はい……、わかりました。」


  渋々だけど返事をした私に、ハイネは『それで良いのです』と頷きながら立ち上がった。


「それで、フリードとの関係についてですが……そんなに大した付き合いではありませんよ。単なる腐れ縁です。」


「えっ、じゃあ昔からの付き合いなの!?」


「え!?」


  お互いびっくりして間抜け面になったまま、近い距離で見つめあって数秒沈黙。


「あの……姫様、フリードから何か聞いたわけではないのですか?」


「う、うん。ただこの間の事で二人が知り合いだってことがわかってたからちょっと聞いてみただけだったんだけど……。」


「なるほど……、私の確認不足ですね。」


「あっ、ハイネ!」


  よろよろしながらナイトテーブルに腕をつくハイネ。ほ、ホントに大丈夫……?


「ハイネ、ごめんね。もう聞かないから……。あ、何か温かいもの飲む?確かココアが……」


「いえ、大丈夫です。ですが、申し訳ありませんがそのことは……。」


  あたふたしつつ動こうとした私を止めて、ハイネは苦笑いをしながらそう言った。


「うん、本当にごめんね。後は自分でやるから、今日はもう休んで。」


「ですが……」


「こっちは大丈夫だから。明日は学校お休みだしね!さ、たまには休養も必要だよ!」


「わ、わかりました。わかりましたから押さないで下さい!」


  ハイネは私の行動に『女性がそんな強引な……』とか何とか言いつつ部屋から出ていった。

  それを見送ってから、ハイネが突っ伏した時のシワが寄ったままのベッドに背中から倒れ込む。


「まさかハイネがあんなに動揺するなんて……。フリードさんとどんな関係なんだろ。」


「元カレとかなんじゃない?」


「えーっ!?わっ!!」


  ブランのその言葉に跳ね起きようとして、すべってベッドから落っこちた。地味に背中が痛い……。


  それにしても、元カレかぁ……。ハイネの過去の事は全然知らないけど、確かに可能性は無くはないよね。


「……水族館行く日、大丈夫かなぁ。」


「……水槽に血の雨が降るかもね。」


「ぶ、物騒なこと言わないでよブラン……!」


  大きな楽しみと一緒に、どうやら大きな問題も誕生してしまったようです。


  ひーっ、ホントに修羅場になったらどうしよーっっ!!


    ~Ep.98 ライト先生の特別講義・その3~


『しかも、水族館ってなかなかのデートスポットだよね、多分……。』


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