Ep.93 王族のドタバタ和菓子教室
「えーと、皮は焼いたから粗熱取るのに置いといて、後は……」
週末……と言うか週始めの日曜日。結局エミリーちゃんにお茶会を断られてしまった私は今、朝から調理室を借りて和菓子作りにチャレンジしています。
エミリーちゃん、会いに行ったとき『お兄様がご迷惑をお掛けするかも知れないので』なんて言いながらすごいしょんぼりしてたけど大丈夫かな……。和菓子が上手く出来たら、こっそり渡しに行ってみよう。エミリーちゃん甘いもの好きみたいだし、少しは元気になってくれるかも知れないしね。
と言うことは、必要な数はお留守番で拗ねてるブランの分と、エミリーちゃんの分。それと、いつものメンバーの分と、そして一番肝心な先生の分になるのね。
「結構な数になるなぁ、今日中に仕込み終わると良いけど。」
どら焼きの皮は焼けたし、餡はこし餡もつぶ餡の両方を用意してある。後は、桜餅と浮き島とかなら、それなりの数作れるかな。
「じゃ、メレンゲ立てますか!」
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「フローラお姉様、失礼致します!」
「ーっ!ルビー!それに皆も、どうしたの?今日、日曜日だよ!?」
丁度メレンゲが真っ白に立ち上がってきた頃、ルビー、クォーツ、ライト、フライの四人が調理室に顔を出した。
皆、学校来てたんだ!生徒会の仕事かな?
「ちょっと資料まとめに集まってたら、ルビーがクォーツに会いに遊びに来てな。で、今さっき仕事も終わったことだし暇だから何か面白いことないか聞いたら……」
ライトのその言葉を引き継いで、ルビーが『お姉様がこちらでお菓子を作っていらっしゃる事を思い出して、皆で参ったのですわ!』と笑った。なるほどね。
「君がここに籠ってるのはいつもの事だけど、今日はいつもより変わったものを作ってるね?」
「あ、うん!今日は和……じゃなかった。アースランド菓子を作ってみようと思って。」
怪訝そうな顔をしながらどら焼きの皮を手に取って眺めていたフライが、『和……?』と更に眉を寄せる。
「え、えっと、皆暇なら良かったら一緒に作ってみない?」
「え!?」
これはマズイと思って苦し紛れにそう言ったら、皆がびっくりした様子で顔を見合わせた。肝心のフライは、まだどら焼きの皮片手に私をガン見している。
「フライも一緒にやろうよ、もう大体仕込み終わってるから、作業は仕上げがメインだけど。」
前に隠し事があるときに目を逸らしまくって逆に見抜かれた事があったので、今日は敢えて真正面に立って真っ直ぐにその空みたいに透き通った瞳を見ながらそう言った。
「……はぁ。まぁ、僕はどちらでも構わないけど。」
見つめあうこと十数秒、先に目を逸らしたのはフライの方だった。
私から視線をライト達の方に移したフライがそう聞くと……
「いいんじゃないか?なんか面白そうだし。」
「私も、是非お手伝いさせて頂きますわ!」
「え、えーと……、じゃあ、僕もお邪魔しようかな。上手くできるかはわからないけど……。」
「良かった!じゃあ、どら焼きの仕上げからやろっか。」
なんと!思わず言っちゃったことだったけど、嬉しい誤算で皆意外に乗り気だ。
皆でお菓子作りなんて、四年生の時にフェザー皇子のお誕生日ケーキを作った時以来だ。なんかワクワクするなぁ。
「ちょっと待って!ライト、あんこはどっちか一枚の生地に塗れば良いんだよ!」
「でも、それじゃ少ないだろ?中が多いほうが旨いじゃん。」
「物には限度ってものがあるよ!そんなたっぷりあんこつけた生地同士を重ねたら……ほらっ、はみ出してるじゃん……!」
止める間もなく、ライトはつぶ餡をたっぷり塗りたくった生地二枚を勢いよく重ねて。その生地の隙間からはみ出したあんこで手をベッタベタにしてしまった。あぁ、だから言ったのに……!
ライトが手を洗いに行った隙にそのどら焼きは剥がして餡の量を調節しつつ、他の皆は大丈夫かと見回りに出る。
「あっ!フローラお姉様、見てください!綺麗に作れましたわ!」
「ホントだ、バランスも完璧で美味しそうだね!」
と、ルビーが差し出してきたどら焼きを受け取りながらそう言えば、ちょっと照れたような笑顔が返ってきた。
そんなルビーはその照れを隠すようにまた作業に戻りつつ、『どら焼きに生クリームだなんて、変わってますわね』と呟く。
そうだね、こっちでは見ないやり方なのかも知れないけど……
「"生どら焼き"って言うのよ。あんことクリームって意外と合うし、美味しいんだ。」
「そうなんですか!食べるのが楽しみですわ。頑張ってたくさん作りましょうね!!」
「そうだね!さて、フライ達の作業はどうかな?」
ルビーがやる気満々で作業に集中しだしたので、今度は隣にいるフライの方を覗き込む。
……と、そこには寸分のサイズのずれもなく綺麗に仕上げられたどら焼きがたくさん並んでいた。
「わぁ、流石フライ!器用だねぇ、……あれ?でもこれ、なんか軽い……?」
まさか……、あぁっ、やっぱりクリームしか入ってない!!
「ふ、フライさん?これ、肝心のあんこが全く入ってないのですが?」
「僕、餡ってあんまり好きじゃないんだよね。」
「だからって、クリームだけでこんなに塗ったら食べたとき気持ち悪くなっちゃうから!あんこが嫌なら、カスタードやチョコクリームとか他の代用品がいくらでもあったのに……!」
「そうだったの?でもまぁ今回は良いじゃない、今更手遅れだし。」
「そ、それはそうだけど……。」
だ、大丈夫かなぁ……。
「フローラー、こっちクリーム切れちゃったんだけど、これ使っていいの?」
「え?あ、じゃあ新しいの立てないと……って、クォーツ待って!それクリームじゃないから!!」
「え?そうなの?」
絞り袋に入れられる寸前のそれを、クォーツの腕に飛び付いて何とか止める。
あー、危なかったぁ……。
「紛らわしい所に置いててごめんね、これはクリームじゃなくてメレンゲなんだ。」
「メレンゲ?」
「卵の白身にお砂糖を足して立てた物だよ。それより、クリームが要るんだよね!今立てるから待ってて。」
『わかった!』と元気に返事してくれたクォーツから離れて、ハンドミキサーを用意。
後はクリーム用の綺麗なボールと、氷水と……。
「フローラ、それなんだ?牛乳か?」
「え?あぁ、ライトか。違うよ、これは生クリーム!」
と、興味を示してボールの中のクリームを覗き込んだライトが、『ホントかよ、水みたいじゃん』とそれを軽く揺すった。まぁ、まだ立てる前だからね。
「これを泡立て器やハンドミキサーで立てて空気を含ませるとふわふわになるんだよ。」
「へぇ……。これ、今から立てるのか?」
「うん、ちょっとハプニングがあって足りなくなっちゃったから。」
苦笑いを浮かべる私を横目に、ライトは興味津々でハンドミキサーを空回ししている。それ、くれぐれも回ってる部分触ったりしないでね。指切れちゃうよ?
「んなことはわかってるよ。それよりそれ、俺がやろうか?」
「え?ライトがクリーム立てるの!?」
「あぁ。お前、他にもやることあるんだろ?」
「う、うん、そうだけど……。」
確かに、これ以上放置するとさっき立てたメレンゲも使い物にならなくなっちゃうし……。
「じゃあ、お願いします。お砂糖はもう入れてあるから、立てるだけだから。」
「了解、任せとけ。」
そしてライトは、
・クリームに水を混入させないこと
・常に氷水で冷やしながら扱うこと
・ミキサーの羽根(金属の部分のこと)はボールの底とかにガチャガチャぶつけないこと
などの私が言った注意点を忠実に守りながら、真剣にクリームを立て始めた。その横顔は、心なしか楽しそうに見える。
ケーキの時は、大体の材料用意してから仕上げたからこう言う作業はやらなかったもんね。何だかんだ皆楽しそうで何よりです。
さてと、じゃあ私は他のお菓子仕上げちゃおうかな!
~Ep.93 王族のドタバタ和菓子教室~
『ちなみにそのあと、皆もクリームを立てたがるので量をプラスして立てたら、結構な量が余ってしまいました。これどうしよう……、ムースにでもすればいいかな。』




