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Ep.92 忘れ物にはご注意を

  放課後、私は四時間目終了の鐘とほぼ同時に立ち上がって……。


「あ、フローラさん!すまないが、帰りにこれを図書室に返しておいてもらえないか?」


「あ、はい。わかりましたわ。」


  先生から、図書室に返す資料を預かって教室を出た。


  まずは隣のクラスのクォーツから、今朝の係りの仕事行けなかった事を皆に順に謝りに行かないと……。


「ーっ!クォーツ様!」


「フローラ!」


  そう思いながらB組のドアを目指していたら、丁度そこからクォーツが一人で出てきた。名前を呼びながら若干早歩きで近づけば、クォーツも私に気づいてこっちに来てくれる。


「会えて良かった、僕も丁度君のクラスに行こうと思ってたんだ。」


  『ここじゃ何だし、生徒会室で話そうか?』と微笑んで歩き出したクォーツの背中を追う形で歩きだそうとした時、なんだか背中に視線を感じて振り返った。


「……?」


「フローラ、行かないの?」


「あ、失礼いたしました。すぐ参りますわ。」


  振り返ったものの、そこにはB組のドアがあるだけで。前を歩くクォーツに視線を戻せば、周りの女の子達の視線が彼に集まってることに気づいて、多分私が感じた視線もその一部だったんだろうなと一人納得した。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ライト、入るよー。」


「おー、開いてるぞー。……って、何だ、フローラも一緒か?」


  クォーツに続いて生徒会室に入ると、ライトが書類に印を押しながら顔を上げてこちらを見た。

  朝も早く来て、放課後も仕事か……。本当に頑張ってるなぁ。


「ブランは見つかったのか?」


「あ、うん、お陰さまで!ごめんね、心配かけて。クォーツも、今朝は花壇行けなくてごめんなさい。」


「え?あぁ、気にしなくていいよ。フローラの所のメイドさんから手紙受け取ったから、事情はわかってたしね。」


  『見つかってよかったね』と笑ってくれたクォーツに、何だか気持ちが軽くなったような気がした。クォーツのほのぼのした穏やかな雰囲気は、本当に癒し系だと思う。


「ところで、見つかったのは良いけどさ、お前授業は間に合ったのか?」


  そんなことを考えていたら、いつの間にか近くに来てたライトがそんな事を聞いてきた。

  流石に、『滑り込みセーフでした』とは言えないし……


「授業は間に合ったんだけど、帽子を無くしちゃったの。探してるときにどこかに落としたみたいで、後で探しに行こうかと……。」


「はぁ?ったく、何やってんだか……。」


「あぁっ、そうそう、それだよ!」


「……お前も何言ってんだ。」


  簡単に事情を話した私に、ライトは呆れ顔でため息をこぼし、クォーツは手をパンっと一度合わせてから自分の(かばん)を漁りだした。その謎の行動に、私とライトは顔を見合わせる。


  クォーツはと言うと、そんな私達の方はまるで気にせずに、鞄から何かを取り出した。


「はい、これ!フローラのだよね?」


「ーっ!?うん、確かに私のだ……。ありがとう!クォーツが拾ってくれたの?」


  差し出されたそれを受け取ってそう言えば、クォーツは『違うよ』と苦笑しつつ首を振った。


「うちのクラスの女の子が朝拾ったんだって、僕から君に渡してほしいって頼まれたんだ。自分で渡したらって言ったんだけど、『私が直にお話するなんて恐れ多くて』って断られちゃて。」


「そ、そうなんだ……。」


  その子にもちゃんとお礼言いたかったな。それに……


「『恐れ多い』かぁ……。」


  私、やっぱり親しくない子達から見たら取っつきにくいのかな。なんか悲しい……。


「……一体こいつのどこに恐れるべき部分があんだよ。」


「あいたっ!」


「わっ!ライト、そこは同意するけど何も叩かなくても!!」


  何でか知らないけどいきなり後ろから頭を叩かれて、前に立ってたクォーツの方に突っ込んだ。あー、びっくりしたぁ。でも、今のってひょっとして……


「何だよ、しょぼくれた顔してるから励ましてやったんだろ?」


「ーっ!し、しょぼくれてはないよ。大丈夫!でも、ありがとう。」


  やっぱり励ましでしたか。


  痛かったけどライトの優しさは嬉しいのでそう言えば、ライトは小さく微笑んだ。


「……二人とも、解決したのはいいんだけどさ。」


  『ちょーっと、近くないかな?』と、耳にかなり近い位置から聞こえたその声に、自分が今どこに居るのか思い出す。


  そうだ、私クォーツに抱き止められたままじゃん!


「ごっ、ごめん!……痛っ!」


「いや、そんな飛び退かなくても大丈夫だよ。フローラ軽いし。」


「お前、今日はいつにも増してボケてんな……。大丈夫かよ?」


「うん、大丈夫……。」


  弾かれるように離れたら、勢い余って近くのテーブルに膝をぶつけてしまった。

  痺れに思わずうずくまる背中に、二人の明らかに呆れたような声が降ってくる。あぁ、情けない……!


  結局、痺れが収まるまでその場でうずくまってから、私は二人に見送られて生徒会室から逃げるように立ち去った訳だけど。

  ……いや、逃げた訳ではないけどね!レインとルビーにも謝りに行かなきゃだし、ブランも迎えに行かなきゃいけないからそろそろ帰らなきゃと思ってたんだから。

  なんて、誰にでもなく心の中で言い訳しながら私は一人廊下を歩くのでした。


「あれ、そう言えば何か手が軽いような……?」





「……おい、アイツ本忘れてったぞ。」


「え?あー、本当だ。……どうする?」


「アイツのことだから多分途中で気づいて引き返してくるだろ。置いとこうぜ。」













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「先生、失礼します。」


「あらあら、フローラさん。使い魔ちゃん、いい子で待ってましたよ。」


「フローラ、遅かったねー。」


  レインとルビーにも会って謝ったあと、私はブランを預かってくれた先生の研究室を訪れた。


「ブラン!もう、心配してましたのに、呑気にお菓子なんか食べて……。」


  『全く、貴方って子は!』と言いながらブランに近づくと、先生が穏やかに笑いながら

『まぁまぁ、落ち着きなさいな』とお茶を差し出してくれる。

  アースランド出身の先生が淹れてくれたお茶は、湯飲みに入った緑茶だった。


「あ、ありがとうございます。申し訳ございません、この子を預かって頂いた上に、お茶まで頂いてしまって……。」


「良いのよ、私も話し相手がいて楽しかったわ。」


  『この学園に居ると、なかなか孫達にも会えなくてねぇ』なんて寂しそうに笑いながら、先生は私にもブランが食べてるのと同じきんつばを薦めてくれる。

  折角なのでそれを頂きながらブランを見れば、今朝の様子は何処に行ったやらと笑ってしまうくらいに元気で。かなり大きめのきんつばに思いっきりかぶりついていた。


「どう?アースランド独自のお菓子だけれど、お口に合うかしら?」


「はい、とても美味しいですわ。」


  洋菓子も良いけど、和菓子も美味しいよね。このきんつばも、上品な甘さが緑茶とよく合ってて本当に美味しい。

  そう言えば、和菓子はお砂糖によって味わいが全然変わるって何かで読んだことあるなぁ。


「それは良かった。まだたくさんあるから、良かったらお土産にいかが?」


「いえ!そんな厚かましいことは……!」


「いいのよ、余らせてしまうのも勿体ないのだから。」


  先生はにこにこしながら、黒地に金で桜の柄が入った紙袋に和菓子を詰めて渡してくれた。嬉しいけど、ホントに貰っちゃっていいのかな?


  そんな私の考えが伝わったのか、先生は笑いながら『その代わり……』と口を開いた。


「これから、暇な日はたまにお話をしにきてくれると嬉しいわ。」


「ーっ!私達でよろしければ、喜んで。」


「ふふ、約束ね。」


「僕、ここなら毎日来てもいいなぁ。」


「ブラン!」


  と、それまで無言で和菓子を頬張ってたブランが不意にそんなことを言った。思わず強めに名前を呼ぶと、『ごめんなさーい』とだけ答えて今度はどら焼きにかぶり付く。

  全くもう、現金なんだから……。


「ふふ、その子も、今朝はずいぶん疲れた様子だったから心配したけれど、すっかり元気になったわねぇ。」


「は、はい。本当にありがとうございました。今日はそろそろおいとまさせて頂きますわ。ほら、貴方もちゃんとお礼なさい。」


「はーい。ありがとうございました!」


「いえいえ、大したことはしてないわ。では、気を付けてね。」


  『またいつでもいらっしゃい』と手を振ってくれる先生に見送られて、ブランを抱いて帰路につく。


  腕に抱き抱えたブランの身体は、お茶とお菓子のお陰か朝と違ってとても温かかった。


「ブラン、貴方、ホントに今朝何してたの?」


「えー、覚えてないやー。」


「もう……、とにかく、明日からは一人でお出掛けするのはちょっと控えてよね。」



      ~Ep.92 忘れ物にはご注意を~


『ところで、ずいぶん来るの遅かったね。』


『ごめんね、色々やること済ましてから行ったから……。クォーツ達に謝りに行ったり、あと先生からの頼まれ事も……あれ?』


『どうかした?』


『あーっ!いけない、私、先生に返すように頼まれた本を生徒会室に置いてきちゃった!取りに行かなきゃ……!』


『……全くもう、フローラはしっかりしてるとこと抜けてるとこの落差が激しすぎるんだよ。』



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