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Ep.8 友達



『花の新芽と一緒に、友情も芽生えたみたいです。』




先生が入ってきて、ようやくライト皇子とフライ皇子が教室から出ていった。


未だ注目の的になりながら全く動じていないクォーツ皇子は、気にしていないのか、それとも気づいてないのか……。




「はい、ごきげんよう皆さん。本日は、皆さんのこの学園内での係りを決めたいと思います。」


先生ば、ホワイトボードにペンで必要な役割を書いていく。


イノセント学園初等科は、一学年を三クラスに分けており、一クラスの人数は十人前後。

なので、その係りは五種類で各二人ずつが任命される事になるらしい。


いくら貴族の子達と言えどまだまだ小さな子供なので、人気がある係りは揉めだしている。

私は花壇のこともあるし、皆が揉めている隙にちゃっかりガーデン係りに収まった。

園芸係りとならない辺り、何となく上流階級感を感じる……。


「フローラ様はガーデニングがお好きなのですか?」


「えっ?」



係り決めに揉める子達を横目にぼんやりしていたら、不意に前から声をかけられた。

顔を上げると、そこには……


「クォーツ皇子……!?」


「あぁ、驚かせてしまいましたか。申し訳ありません。」



しまった、驚きのあまり普通に“皇子”って呼んじゃった!



「こちらこそ失礼致しました。えーと……ガーデニングのお話ですか?」


「えぇ、毎朝楽しそうに花壇の世話をしている姿をお見受けしたものですから。」



「そうでしたか。えぇ、お花は昔から大好きですわ。」



私としては当たり障りの無い回答をしたつもりだったけど、クォーツ皇子が『昔から……?』と首を傾げた。

あー、六歳児が『昔から』なんて言ったら確かに変よね。



「そっ、それより、クォーツ様は何の係りに就かれるのですか?」


「おや、ボードをご覧になっていないのですか?」


「――……?あっ!」


そう言われてホワイトボードに目を向けると、いつの間にか大体の係りはもう決まっていて、ガーデン係りのもう一人の欄には“クォーツ・アースランド”と子供にしてはずいぶん綺麗な字でそう書かれていた。



唖然として再びクォーツ皇子の顔を見ると、にっこり微笑まれて『よろしくお願いします』と手を差し出される。

私は唖然とした間抜け面のまま、ただその握手に応じていた。




……何でよりによって同じ係りになるのーっ!!!










―――――――――

「はぁ……。」


「フローラ様、今日は元気がありませんわね。どうかされたのですか?」




どうやって一日の授業をこなしたのか覚えてないけど、気がついたら放課後になっていたので私は花壇にやって来た。

先に来ていたレインの話だと、どうやら抜け殻状態だった筈の私は外面モードを使いそつなく一日の授業を受けていたらしい。


我ながら器用だなぁ、最近よく思うけど、多分フローラは前世の私より出来が良いと思う。

――……魔力の扱いを除けばね。




「フローラ様、聞いてますか?」


「あっ、ごめんなさい。実は、今日の係り決めで私がガーデン係りに決まったのだけれど……」


「あぁ、そのお話でしたら私のクラスにもありました。私も仮で任されていた花壇を正式にお世話させて頂くことができて嬉しいです。」




そう言ってレインが本当に嬉しそうに笑う。

確かに嬉しいよね、私も係り自体は嬉しいのよ。


ただ……



「おや、もういらしてたんですね。」


「ーっ!」




「くっ、くっ、クォーツ様!?どうして……!」



不意に私の後ろから聞こえた声に、向かいに座っていたレインが顔を上げる。

そして声の主を目に捉えるなり、パニックになりながら立ち上がった。



私は気づかれないように背中を向けたまま小さく深呼吸をして、微笑を浮かべてから振り返る。


「ごきげんよう、クォーツ様。」


「えぇ、こんにちわ。それで、他の係りの方はいらっしゃらないのですか?」




「えぇ、私とこちらのレインさんだけですわ。他の方は……」


「あっ、え、えぇと、私のクラスのもう一人の係りの子は用があるらしくて……。」

『ちなみに、もう一つのクラスの係りの方はまだクラス会が終わっておらず今日は来られないそうです。』と私が付け足すと、クォーツ皇子は納得した様子で頷いて花壇を覗き込んだ。




「おや……?」


「どうかいたしまして?」




「えぇ、ここ、芽が出てきていますよ。」


「えっ!?」



クォーツ皇子の指摘に、私も、まだ放心していたレインも飛び付いた。


「ホントだ……!」


「こんなに早く出るとは思いませんでしたが、嬉しいですねフローラ様!」



土から僅かに見えている緑を見つけるなり、レインと二人で手を取り合って跳び跳ねる。

こちらの花は成長が早いのね。


「あっ……!もっ、申し訳ありません!!」


「えっ!?」



と、喜んでいる途中でレインが何かに気づいたように私から勢いよく離れた。

理由がわからずに唖然とする私に、レインが頭を下げる。



「姫様のお手を馴れ馴れしく握るなんて、私ったら……!」


「えっ、ちょっとレイン……!?」



止めようとするけど、レインは聞こえてないみたいで何度も頭を下げている。

ちょっとは仲良くなれたと思ったのに、“姫”ってだけでこんなに怖がられちゃうものなの?



お互いオロオロとして気まずくなっていると、それまで静観していたクォーツ皇子がレインの背中をポンポンと叩いて気を落ち着かせ出した。


「この学園内では生徒は皆平等なんだ。そんなに畏まらなくてもいいんじゃないかな?」


「で、ですが……っ」


「それに、フローラさ……、フローラだって友達にそんな風に壁を作られちゃったら寂しいよね。」


『ね?』と笑顔で話を振られて、何度も首を縦に振る。



クォーツ皇子の落ち着いた雰囲気のお陰で気持ちが落ち着いてきたのか、レインの目がようやく私を捉えた。

でも、その目はまだ不安そうに揺れている。


「……ねぇレイン、今クォーツ様が仰ったように、この学園内では皆同じ生徒なのよ。だから、私は……貴方と対等なお友達になりたいわ。」


「ふ、フローラ様……。」



そっとレインの手を自分の両手で包む。

一瞬レインは身体をビクッと震わせたけど、振り払われる気配はなかった。



「――……。」


「――……はい、よろしくお願いします、フローラ様。」


「……。」



しばらく手を取っていたら、レインがちょっとだけ顔を綻ばせてそう言ってくれた。


でも、一点だけ不満があったからレインの顔をじーっと見つめる。




「あ、あの、何かお気に触りましたか、フローラ様……?」


「――……呼び方が違うんじゃなくて?」


「えっ!?」



そう言って、レインの横に立つクォーツ皇子を見つめる。


さっきわざわざクォーツ皇子が例を見せてくれたじゃない。なんて気持ちを込めてもう一度レインを見ると、レインもようやく気付いて目を見開いた。




「あ、えと、よろしくお願いします、……フローラ。」


「えぇ、よろしくね、レイン。」




レインの手を掴む手にもう少しだけ力を込めて、笑顔でそう答える。

それに驚いた顔をしてから、レインもようやく満面の笑みを見せてくれた。




そして私はこの日、今世で始めてのお友達が出来たのでした。



~Ep.8 友達~





『花の新芽と一緒に、友情も芽生えたみたいです。』




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