8 注文と方針
翌日、四人で出かけた店にサラだけ連れて訪れた。昨日目を付けていた品々を手に取るとカウンターへ向かう。
「よろしいかしら?」
「いらっしゃいませ。そちらの品物をお求めでしょうか?」
「これらを気に入ったのだけど、オーダーさせて頂きたいの」
「かしこまりました。色、形、刺繍、彫刻、何なりとどうぞ」
私は紙を店員に見せた。そこにはシーランス家の略された紋章が描かれている。
「この紋章をこれらに目立たないように入れてほしいの。出来るかしら?」
「もちろんです!目立たないようにということですが、それは裏地でもいいですか?」
「ええ、いいわ。早めに欲しいのだけど、いつ頃に出来上がりますの?」
「この数ですと、来週ですねぇ」
「分かったわ。来週どのように出来たか確認しますわ。その後で、プレゼント用にラッピングもお願いするわ」
サラに代金の半分を払わせ、残り半分は品物を受け取った時に払うことにした。
♢♦♢
―---学園の休み時間。
遠くから騒々しい声が聞こえてくる。姉が何かやらかしたかと思ったが違うようだ。
疑ってごめんねお姉さま。
「この声は…」
「何があったのかしら」
私は令嬢たちと食堂で昼食を食べ終えた後でまだ分かれていなった。一人だったら聞こえなかったふりをするが、彼女たちにも聞こえてしまっている。それでは心象が悪い。
まあ、私の方針を示す機会と思えば……
そろそろ周りはグループ作りが終わって、ローカースト、主に平民が目につくようになる頃だし。
声のする方へ行くと、令嬢たちも付いてきた。先には人だかりがあり、その中心では上の学年の三人の令嬢が俯いている平民の生徒に罵声を浴びせていた。
貴族か平民かなんて着ているものですぐに分かる。ヴィストロ学園は私服なので相手がどちらなのか見分けて、初めから区別した態度を取り続ける。もし制服ありだったら、お互い貴族か平民か分からないで近づいて、どちらか分かった途端くるっと手のひらを返すようになるだろう。ちなみにどちらにも短所があるが、貴族と平民が仲良くした場合、着ているもので差を感じてしまうので私は制服を推す。
「貧乏人が何を堂々と歩いているのかしら?」
「わたくしたちに道を開けてちゃんと挨拶しなさいよ!」
「そんなことも分からないのっ!?これだから貧乏人はっ!!」
周りは助けることも諌めることもなく、彼女たちから離れて周囲を囲ってひそひそしているだけだ。
邪魔である。
「退きなさい」
囲っていた生徒が振り向くと、私が通る道を開けた。そのままどこかへ行く気はないようだ。
暇人ですね。別に見てても良いけど。それで私のことを過激派ではないと思ってくれれば良いよ。
「随分と騒々しいこと」
「!フィリア様!」
「何をしているのかしら」
「この貧乏人がわたくしたちに無礼を働いたのです!」
「どうすべきか躾けていたのですわ!」
令嬢たちが意気揚々と報告してくる。
「そう。―--―それで、騒がしくしていたのはどういうつもりなのかしら」
「え?」
「あなた方が騒がしくしたせいで、わたくし、不快な思いをしたわ」
一瞬、お姉さまかと思ったじゃない!紛らわしい!
私がお姉さまを疑ってしまったのは、あなたたちのせいよっ!!
「あ、その…」
「あなたたちもマナーを覚え直す必要があるんじゃないかしら?―---もう良いわ。行きなさい」
私の一言に三人とも立ちすくんで泣きそうな顔になった。
行けって言ったのに。
それと、自分で言っておいてなんだが、何がもう良いのだろうか。君たち分かる?
しんみりとした雰囲気が広がっている。これ以上何かしなくても、この場は勝手にお開きになるだろう。
「行きましょ」
いつまでもそこにいても仕方ないので、私は令嬢たちとその場を離れた。無言で歩いてしばらくすると、取り巻きが意を決したように口を開いた。
「……あの、フィリア様は、平民がお嫌いではないんですか?」
「別に、嫌いではありませんわ」
「フィリア様のお姉さまはお嫌いなようでしたが…」
「お姉さまはその平民と何かあったかもしれないけれど、それはお姉さま個人の考えですわ」
私は好きでも嫌いでもないよ。煩わせたりしなくて、役に立ってくれる姿勢なら好きになるけど。
「ではフィリア様は、平民と仲良くするおつもりですか?」
「仲良くしたいと思えるような平民がいたら、仲良くすると思いますわ」
もう目星は付けているけどね。
「別に皆様に平民と仲良くするようになんて、強制するつもりはありませんわ」
ただ、私のお気に入りを受け入れられない人は離れていくことになるだろうけれど。