6 手紙
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机の上のオイルランプを灯し、それを頼りに姉からもらった手紙を片っ端から読み直していく。夜も深くなってきたが私が起きているので、サラとリタは背後の壁付近に控えたままだ。
手紙をもらった時はゲームの記憶なんてなかったため、正直言って平民が姉にされたことなんてどうでも良く、姉は学園でも元気にやっているなぁ、くらいの思いで読んでいた。なので内容があまり記憶に残っていなかったのだ。
全て読み直し、一通だけ他の手紙の束から別に置いた。
その手紙の内容は、ある平民をいじめるついでにその父親が営む仕立て屋に嫌がらせをしたら、学費を払えなくなったようで平民が学園から出て行き、そのことで学長に注意を受けた、というものだ。この出来事はさすがに学長も無視できなかったようで姉に厳重注意をしたらしく、他にはそういった出来事のものはなかった。
お家没落の決め手はコレだろう。
問題なのは、家の力を使って故意に平民を困窮させたことだ。
シーランス家の名で、機屋にその仕立て屋へ布地を卸すことを妨げたらしい。公爵家に睨まれるのを恐れて、他の機屋も手を差し伸べることはしなかったのだろう。材料の布地がなければ服は仕立てられない。店が閉鎖するのは当然だ。
やらかした本人が責任を取るということで姉を絶縁させて済めばいいのだが、それだけでは事は収まらない。学園内でしたことは生徒個人の行為だが、学園外で特に貴族がしたことは家の行為として判断される。それなのに|ノブレス・オブリージュ《貴族の義務》をしないどころか、反対のことをやったのだ。
公爵という爵位は高いだけあって希少なものだが、シーランス家の他にも持っている家はある。彼らからすればライバルであるシーランス家を潰す絶好の機会だ。ここぞとばかりに叩き、追及の手を緩めることはないだろう。侯爵以下の貴族も、潰れた後のお零れをもらうための働きかけぐらいすることは想像に難くない。
それに爵位にはその高さに応じた大きな権力や財力が付いてくる。公爵とは他の貴族にとって喉から手が出るくらい欲しい爵位だ。その爵位を維持するために力を振るい続けることで、どれほど多くの恨みを周りから買ってきたのだろうか。そんな数多の恨みを晴らす機会にもなるのだ。
どうしたものか…
令嬢らしくなく無作法に机に両肘を着いて手を軽く組み、口元を近づけた。ランプの火が微細に揺れている。
息を吐いて、サラとリタの方へ体ごと振り返った。
この件に部外者を入れたくはなかったが……
「―---あなたたちは、相手や周りに悟られずに動けて口も堅い探偵を知っていますか?」
「探偵、ですか」
「失礼ですが、何を調べるおつもりですか?」
「ある人物について調べたいの」
「それでしたら探偵ではありませんが、適任な者たちがいます」
「鴉を使うのがよろしいかと思います」
「カラス?」
「はい、代々シーランス家の当主に仕えている隠密組織です」
「もちろん部外者に情報を流すことはありません」
…何それカッコいい。そんなのがいたのか。確かに身分の高い者が諜報や工作のための人を雇うのは普通だと思うけれど。
でも、それってつまりお父様には情報を流すんだよね。
「…わたくしはそのような者たちがいるなんて知らなかったわ」
「それは当然かと」
「シーランス家の当主の密命に従い動いておりますので」
それを知っているあなたたちも只者ではないな?
「では、手紙を書くので正式な便箋を用意して頂戴」
姉からの手紙は全て鍵付きの箱に入れ、手紙道具一式を用意させる。その用意された便箋は、一見普通の白い紙に見えるがよく見ると中央にシーランス家の紋章が型押しされ、紙の縁の断面には金が塗られている。シーランス家の正式な手紙であることを証明する便箋だ。
今まで私の要望は父ではなく執事が受けて手配してきた。でも彼女たちの話だと鴉は当主の権限のようだから、今回は父に頼むしかないだろう。娘にも知らせていなかった機密に触れるのだから、正式な物の方が良い。
別の用紙に下書きをして何度も推敲を重ね、それを便箋の方に清書していく。推敲されていない文章や汚い文字は、それだけで相手を軽んじていることを示し侮辱となるのだ。
良くインクを乾かしてから宛名を書いた正式な封筒に入れて蝋で封をし、シーランス家の紋章の刻印を捺した。
手紙をそのままにして、蝋を溶かしたランプの火に今度は折り畳んだ下書きの用紙の端を当てた。紙の向きを変えたりして火が全体を包み始めると、持って来させた皿の上に置いた。
全て燃え尽きるのを確認してからようやく席を立つ。
「必ずお父様に届けなさい」
家具や姉の手紙の件で家へ速やかに連絡を取ったリタへ、書き終えた手紙を渡した。
投稿した文章を何度も改訂しているのは、単に私が未熟なだけなので…